第13話 お墓参り(前編)
家に帰り大量の洗濯を終え一息ついていると電話が掛かってくる。
「はい。目黒ですけど」
「よぉ大地。俺だ、わかるか?」
電話の相手は翔流であった。
「翔流じゃん。久し振り、元気だったか?」
和気藹々と話し込む。
「葬儀の時にお袋さんからきいたけど、なんか息子が大変だったらしいじゃん。大丈夫なのか?」
「まだ入院中だけど今は落ち着いてるよ。葬儀出れなくてごめんな」
「まあ、緊張事態だし、誰も責めねぇって。あっそうそう、明後日の日中予定空けられるか?」
「??……なんかあるのか?」
「空音のお母さんに渡したい物あるから来て欲しいと言われてて行くんだけど、都合つけば大地も一緒にどうかなって思ってさ。仕事も息子さんの事もあるから無理強いはしないが……」
「ありがとな。確認してみるよ」
「あと悪い。行きは車で迎えに行けるけど、帰りは籍を入れに行く関係で電車で帰って貰うことになる。行けるなら集合は中学校前な」
「マジか、そんな大事な日なのに大丈夫なのか?」
「ああ、しばらく予定びっちりで行ける日そこしかないんだ」
「翔流は社長だし、忙しそうだもんな。ありがとうな誘ってくれて」
翌日、会社へ行くとあの最悪課長の平森がしばらく出張でいない事を知る。部長へ休暇の申請をするとアッサリと承認が降りた。
平森のヤツ、上の承認が降りないとか言って今まで休暇を却下してたの全部嘘じゃねぇか。
会社が終わると病院へ向かい真優美に話を聞いてみるとこちらもすんなり……。
「行ってきなよ。優大もまだ熱が下がんないし、退院は週明けになりそうだからさ」
「ありがとな」
約束の日になり、待ち合わせ場所へと向かうと見覚えのあるシルエットが……あれは。
「真央先生お久し振りです。僕の事、覚えてますか?」
「おぅ久しいな目黒。全然変わってないからすぐにわかったぞ」
覚えていて貰ったのは嬉しいが全然変わってないは悲しいかな。
「先生も空音の所に行くんですか?」
「空音のお母さんが渡したい物があるって言うのでな。目黒は大変だったんだってな。お子さんは大丈夫なのか?」
お袋はどんだけ色んな人に俺の事を話したんだ?
「まだ入院していますが、すっかり元気になって今じゃ外に出せと暴れまわってますよ」
そんな話をしていると目の前に一台の高級車が停まる。
「待たせたな、少し遅れた。先生も大地も後ろ乗ってくれ」
高級車は翔流の車であった。車に乗り込むと助手席に見慣れない女性が………そっかそのまま籍を入れに行くって言ってたし、婚約者の方か。
「あっ初めまして目黒と言います。翔流君とは小さい頃からの友達で……」
「ははは……大地。お前何を言ってんの?まだボケるには早いぜ」
大ウケの翔流。
「だってこのあと、籍を入れに行くって言ってたからてっきり婚約者の方かなって思ったんだけど」
「婚約者には違いないが、お前も知ってるヤツだよ」
「お久し振り目黒君。私、目立たなかったから忘れられちゃったかな?」
えっ?まさか……
「えっ??もしかして阿東さん?」
「ふふ……覚えててくれたんだ嬉しいな。会うの中学校以来だもんね」
確かに面影はあるけど話し方も明るいし、見た目もぐっと大人っぽくスゲー美人に変身したな。
「翔流はあれからずっと阿東さんと付き合ってたのか?」
「言っただろ?瑠花以上の女性なんてこの世にいないってな。会社も落ち着いてきたし、そろそろと思ってな」
「確かにお似合いのカップルだな。ところで先生はご結婚は?」
横から強烈なフックが飛んでくる。
「指輪してないんだから、結婚してるわけなかろう。今はまだ………彼氏募集中だ」
「がはっ……ゴホゴホゴホ」
チクショー相変わらず手加減ねぇな。ルックスは良いけど性格が男勝りだから男が寄り付かねぇんだよ。そんな事を話していると空音の家に到着。
「遠い所わざわざすみません。どうぞ上がって下さい。大地君もありがとうね。お子さんは大丈夫なの?」
「ええお陰様で。葬儀には顔を出せずにすみませんでした」
「そんな気にしないで。空音もきっとそう言うと思うわ」
空音のお母さんなんか随分と窶れたな。まあ旦那さんを早くに亡くして空音までいなくなったんだ。当然か。
「今、お茶を入れますので座ってお待ちください」
「そう言えばさ。ずっと気になってたんだけど、中学の時に空音が好きだった人って誰だったんだろう。翔流は全校生徒の前で派手に振られたから白だろ」
驚愕する翔流。
「おっお前なんて事を……まあそのお陰で今、瑠花と一緒になれた訳だけどさ」
そんな事を話していると瑠花が口を開く。
「空音ちゃんから直接聞いた事ないから確証は無いんだけど、私は目黒君だったんじゃないかって思ってる」
「えっ俺?」
「俺も大地だと思ってたけどな。卒業打ち上げの帰り二人きりにしてやったのに告白しなかったのかよ。お前も好きだったんだろ空音の事」
「えっ?あっ……うん好きだった。打ち上げの帰りには告白出来なかったんだけど、高校に入ってからすぐにデートに誘ったんだ。最初は凄く喜んでくれてたのに、突然音信不通になって彼氏が出来たから会えないとか言われてそれっきり会ってない」
不思議そうな顔をしている瑠花。
「でもそれって何かおかしいね。高校に行ってからも空音ちゃんとはずっと仲良かったんだけど、彼氏が出来たって話は一度も聞いた事なかったけどなぁ」
「大地の告白断る為の口実だったんじゃねぇの?そう言っとけば断りやすいし、傷も浅いだろ?」
「そうなのかな?今となっては分からずじまいか」
空音のお母さんがお茶を持ってくる。
「みなさん良かったらお茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
お茶を飲み終えるとお墓へと案内して貰った。