66話
惨劇が起きた日の夜が来た。
兵士達にとって未明の事は、まだ先ほどの事に思える。
篝火がいつもより強く焚かれ、幕舎周辺の光が絶えないよう、陰が極力出来ないように配置されていた。
「ふぅ、疲れたぁ・・・・」
セルジオが湯浴みをし食堂に姿を現す。
いつもの服は血糊と内臓から滴る汚物がこびり付き、鼻の曲がるような臭いを放つため、レェブラーシカ始めメイド達から即行で剥ぎ取られ、湯桶に叩き込まれたのは想像に難しくない。
「あらぁ、セルジオちゃんもどったぁ?」
「あ、クディさん・・・・え?みんなどうしたの?」
食堂には彼を心配する面々が食事を取らず待って居たのだ。
「下の状況はひどいみたいねぇ・・・・あなた、まだ臭うわよぉ?」
クディが、くちゃぁい! といってテーブルの席を少し遠ざける。
失礼な変態紳士である。
「何かあったのですか?」
セルジオは昼抜きで遺体の回収をしていたのでお腹がへっており、テーブルの上にあるパンを頬張り皆に尋ねた。
「あぁ、色々とあるな」
ジードもパンに手をのばして応じる。
「もう、村どころか都の方まで話が広がってるみたい」
ニーニャも、いただきますと食事に手を付ける。
「なんか早くないですか?」
そういう方面に明るくないセルジオも疑問に思い尋ねる。
「そうでもないぞ!当主殿は今まで買い付けに来ていた貴族や商人がどうしてたか気が回らぬか?」
「あぁ、そういえば、そんな人たちがいましたね・・・・」
シチューを口に運びながらセルジオがレシアの方を向き興味なさげに答えた。
「彼ら状況を逐一都に伝えておったのじゃよ、そしてダメ押しの王国軍壊滅と言う知らせを早朝に発したようじゃ」へぇ~と他人事のように言うセルジオに元村長が溜息をつく。
「この後の王国の動きを、お主を交えて話さんとならんと思ってな。
で、この様にみんなで食事をすることにしたのじゃ」
『長い話は嫌だな』などと思うセルジオは誤魔化すようにシチューを口に流し込んだ。




