65話
セルジオはカンテラを翳し、体液と糞尿で滑りやすく成った足元を慎重に踏みしめながら遺体を探す。
目につく遺体はすべて磨り潰され、目の届く場所には人型をしている物は一つもない。
溜息をつき、まずは一体分と千切れた内臓を素手で掴んでは麻袋に収めて行く。
麻袋は次第に赤黒く変わり、びちゃびちゃと不愉快な滴を垂らす。
「沢山はむりだな・・・・」小さな肉片を石鋤で掬い取り、布袋に詰め込んできつく縛る。
乾いた血糊が黒く変色し、パリパリとセルジオの手から剥がれ落ちる。
装備の残骸と合わせ、石鋤の前後に一体分づつ、天稟棒の様に提げ、来た道を戻っていった。
・・・・
兵士たちがダンジョンの入り口付近でセルジオの帰りを待っている。
彼らは、セルジオが無事に帰れるとはまったく思っていない。
しかし、もしかしてと僅かな期待と共に、ともに同じ釜の飯を食べた者が元気な姿で戻るかも知れないと願っても居た。
ダンジョンの入り口から人の様な足音が響いてくる。
「「「「「「!!!!」」」」」」
足音は次第に大きく成り、人の粗い息使いが聞こえてくる。
兵士たちの表情がにわかに明るく成る。
「た、隊長を呼べ!! 誰かが戻ったぞ!!!!」
兵士の一人が弾かれたように隊長を呼びに走る。
大石に手が掛かる。
死者の返り血を浴び赤黒く汚れた手だ。
兵士たちが息を呑む。
「よいしょ・・・・はぁ、ただいまもどりました。」
全身血まみれのセルジオが天秤棒を下ろし、大石を閉める。
兵士の誰もが口を開くことが出来ない。
そこに、グレゴリアルが駆けつけた。
「セ、セルジオ殿! ご無事か?!」
声を上げながら駆け寄ったグレゴリアルも、彼の姿をみて凍り付く。
「えぇ、でも下は血の海です」
うすうす、そうでは無かろうかと考えていた兵士達はただ茫然と立ち尽くすのみだった。
セルジオがこの日、日没間際までに回収できた遺体は8体。
幕舎には何とも言えない陰気な雰囲気が濃く張り付いていた。




