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麗しのプリーティア  作者: aー
第三章
98/203

無垢な瞳を護った代償はでかかった。


 神殿内では決まった時間に食事をとる。よほど体調が悪いとき以外は全員が顔を合わせる決まりだ。日々の恵みに感謝をし、人々から届けられる食材を味わう。

 ヨシュカの分はもちろん用意されたが、彼が引きつれてきた騎士たちの食事は、街の騎士団から提供されることになった。

「急に来るのは如何なものかと」

「今回はお忍びなのだ。大々的に言えば逆に警備し難い」

「だからって・・・大体、このような田舎の食事が王都の皆さんの口にあうとは思えませんがね」

「気にするな。これも訓練だ」

「ほう、訓練ね・・・さぞ身になる訓練でしょうね」

ちくちく嫌味を言う西方騎士団団長オースティン・ザイル。貧乏貴族の彼は、己の実力だけでのし上がってき強者だ。まだ若いが様々な経験が豊富で、街の住人からも信頼を寄せられている。

 現在彼をもっとも慕うのは隣に立つ少年、バッカス・メイフィールドだった。

 光の加減で瞳の色が変わる彼は、数年前に神々の気まぐれに巻き込まれて異世界からやってきた。見た目は少年の姿をしているが、生きた年数で言えば二十歳は超えている。

 そんな彼はヨシュカ・ハーンを見て首を傾げた。

「僕に会いたかったの?」

「ええ、あなたに会いに来ました。王都の神殿長を務めさせていただいております、ヨシュカ・ハーンです。はじめまして」

 ヨシュカはすでに席につき、嬉しそうな表情を浮かべている。

「ふうん。偉いんだ?」

「どうでしょうか・・・まだまだ力不足ですよ。いつもみなに助けていただいております」

 バッカスはその言葉を聞いて少しだけ彼に興味を持った。

「ねえ、この人、信用できる人?」

 まずゼノンに問うた。問われた彼は眉間に深い皺を寄せて考え込む。

「・・・・彼女に聞いてください」

 答えを放棄したゼノンに、オースティンが苦笑する。

「ねえ、この人、信用できる人?」

 今度は百合に問うた。問われた彼女はふっと口元に笑みを浮かべた。

「素直な人よ」

 答えになっていないが、とりあえずバッカスは頷いた。

「団長。あっちのおじいさんと団長だったら、どっちが強いの?」

「それは死刑宣告に近い質問だぞ。気にしてはいけないことが世の中にはたくさんあるんだ」

 オースティンが苦々しい顔で言えば、アロイス・リュディガーがにやりと笑った。

「試してみようか」

「全力でお断りします!」

 神殿内に響き渡る程の声量がこだました。

「お黙り、そこの駄犬ども。わたくしたちは今から食事なの。邪魔をするなら出て行きなさい。そうだわバッカス、ワインを持ってきて頂戴。せっかくのお客さまよ。彼に注いであげて」

「わかった!」

 大きく頷いたバッカスは、食堂を出て、隣室に普段置かれているワインを取りに行った。最近は食事の所作までオースティンに習っている彼は、役に立てると嬉しげだ。

だがそれを見たアロイスとヨシュカが慌てる。ヨシュカは酒が飲めないのだ。匂いをかいだだけで酔ってしまう。

「私は遠慮する!」

「以前のようになってはこまります。ハーン様には飲ませないでください!」

 しかし必死に断る二人は、ワインを手に戻ったバッカスが悲しげな顔でおろおろと視線を彷徨わせているのに気付いた。

 まるで雨の中捨てられた子犬のような視線だ。震えていないし、泣いても居ないのに悲しい雰囲気は同じだった。

「グラスを」

 鈴の音のような女の声に、ゼノンが黙ってグラスを人数分用意した。




 結論から言って、ヨシュカはとても辛い思いをしている。

 頭の中がぐるぐるまわって、起き上がることも横になり続けることも苦しい。胃の中のものが逆流しそうでしてこない。きもちわるい。

 そんな状況を朝から味わう彼は、アロイス・リュディガーが朝の挨拶をしても反応できなかった。

 神殿の一室。急遽用意された部屋は簡素で狭い。必要最低限のものしかなく、毛布も、お世辞にも良いものとはいえない。それでも不満はなかった。彼はプリーストだ。幼いころは同じような部屋で過ごしていた。

 だからだろうか、どこか懐かしく思えた。

 しかしそんなことを言っていられないほどの身体のだるさ、頭の重さ。己から酒の匂いがすることも気分が悪かった。

「やはりお断りするべきでした」

「し、しかし・・・あの無垢な瞳を傷付けるわけには・・・うう・・・」

 毛布にうずくまるヨシュカに、アロイスは何とか溜息を飲み込んだ。

 ちなみに彼が飲んだワインはたった一口分だ。それでこの威力なので、呆れを通り越して感心してしまう。

「ハーン神殿長。実は折り入ってお話があるのですが、いかが致しましょうか」

「こ・・・のまま・・・聞きます」

 もぞもぞと動いているが頭は出てこない。

「では、失礼して」

 アロイスは自分の子どもよりも若い男に、しかも顔すら出さない男にそっとささやく声で言った。

「今朝方、鷹便で知らせがきました」

 その声はまるで地獄の万人のように恐ろしく低かった。

「セス・ウィングが、浚われました」

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