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麗しのプリーティア  作者: aー
第三章
95/203

熟年騎士の血管が心配。



 太陽の光が反射して木々を照らす森の中。水の流れる音が心地よく響き、大地の躍動感を伝えてくれる。

 女は水辺で楽しげに歌っていた。

 誰も名前を知らない、だのに耳に残る不思議な旋律。白い肌と豊満で形の良い乳房を透明な水が流れ落ちる様は、息を呑むほど美しい。

 少し離れた木の傍には浅黒い肌の男が瞳を閉じ、腕を組んで立っている。腰には二本のナイフ。護衛として付き従っている彼は、その歌声に聞き惚れていた。

 まるで絵画の世界だ。美しいものに溢れた場に相応しい、優しく温かな空気。

 こんな幸せな時間がいつまでも続くことを願っていた。しかし、静かで厳かな世界はあっけなく壊された。

一瞬にして肌を刺すほどのピリピリとした空気が場を包んだ。護衛役のゼノンが音もなく腰のナイフを一本抜く。姿勢を低くして構える姿に隙はない。

 そして男は現れた。

 王立騎士団の副団長を務めていた経験があり、今尚現役で、若き王都のエメランティス神殿長・ヨシュカ・ハーンの護衛を務める熟年の騎士アロイス・リュディガーが、美しい女を前に苛立ちを隠すことなく立つ。

 相手が美しかろうが、同じ世界の人間でなかろうが彼には関係ないのだ。たとえ、彼女が全裸であっても。

「いやだわ、こんなに堂々と見つめられると、わたくし、照れてしまうわ」

 ふふ、と鈴を転がすような笑みを浮かべながら、しかし女は言葉とは裏腹に毅然とした態度を見せた。

「早く服を着なさい。はしたない」

 吐き捨てる男に、眼前のゼノンの眉がはねた。

「それからそこの。殺気を隠す気がないなら久々にこの老体が遊んでやろう」

「私はあなたと違い、プリーティアの邪魔をすることは出来ませんので。神殿に御用がおありならば、案内いたしましょう」

 ゼノンは淡々と言いつつ構えを解除した。そっと白いタオルを差し出す。

 日課である水浴びを邪魔された百合は、ゼノンが持っていたふわふわのタオルを受け取ると、アロイスの目の前で体を拭き始めた。

「あなたは先程わたくしにはしたないと言ったけれど、わたくしたち西の神殿の者は男も女も関係なく水浴びをするわ。あなたのつまらない常識で語らないでくださる?」

 水分を含んだ黒髪が太陽の光に反射してキラキラと輝き、白い肌は真珠のようだ。

「・・・それは失礼した。だが、私が見ているのに気にも留めないとはどういうことかな?」

「あなたは侵入者よ。わたくしの入浴を邪魔した挙句、わたくしの身体をジロジロとみる失礼な人だわ。そんな相手に何故、わたくしが礼を尽くさなければならないの?」

 女の瞳は優しく細められていたが、どこか冷たかった。邪魔をされたことを怒っているのではなく、はしたないと吐き捨てられたことが気に入らないようだ。

「・・・重ねて失礼した。だが、本日我々が到着することは知っていただろう」

「聞いていないわ」

「聞いていないはずはない。鷹便で文を送ったはずだ」

「知らないわ」

「・・・知らないはずはない。あなたの件で来ているのだから」

「わたくしは呼んでいないわ。あなたが勝手に来たのでしょう」

 男たちはそれぞれ、彼女から視線を外していた。素肌を見たくせに、着替えまでは見られないと思ったのだろう。ワンピース姿になった女に、アロイスがホッとしたような顔を作った。

「召喚を無視したのはあなただ」

「あらだって、危険じゃない。どうして危険を冒してまで王都に向かわないといけないのかしら? わたくしには懸賞金がかけられているのよ?」

「だから私たちが来たのではないか!」

「あらそう。ところで、私たち、というのはどういう意味かしら?」

 とうとうアロイスが絶句してしまった。

 女はアロイスが答えるまで動く気はないようで、そんな女の足元にゼノンが膝をついた。壊れ物を扱うように優しく丁寧に拭いていく。

 その光景を見てアロイスが更に表情を硬くした。

「・・・・なにをしている」

「足を拭いているのです。ああ、そろそろ爪を整えましょうか」

「・・・なぜ、足を拭いている」

「このまま歩くと泥だらけになってしまいますから」

 そう言うと、彼はストッキングを取り出した。

「我々はあちらを向いておりますので」

「ありがとう」

 何故女物のストッキングを取り出すのか、そもそもどこに隠し持っていたのか。あまりにも自然に行うことから常習的にやっていることなのか。それは男としてどうなのか。先程爪を整えるとか言っていたが、いやまさか!

アロイスには聞きたいことがたくさんあった。しかし聞いたら絶対に後悔するような気がして、彼は口をつぐんだ。

「ところで、あなたはいつまでそうしているつもりかしら?」

 その質問に、ついにアロイスがキレた。

「王都まで来られないというから、我々が参上したのにあなたはいったい何をしている!」

 森中に響き渡る程の怒声に動物たちは驚き逃げ出した。




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