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麗しのプリーティア  作者: aー
第二章
91/203

そして、物語は続いていく


 別れはあっけないものだった。

 海賊たちも夜半に街を出たようだし、百合たちも気兼ねなく馬車に乗った。

 道中王都に使者を送り、返答が来る前に全速力で西に帰った一行は、騎士団で一休みすることもなく神殿へ戻った。

 神殿には事前に連絡を受けたオースティン・ザイルがいた。

「本当にこっちに戻ったのかお前ら・・・」

 キラキラ輝く金髪の美青年を見て、バッカスが興奮したように、しかし恥ずかしそうにフラジールの後ろに隠れた。

「ねえ、あのお兄さんは王子様なの? あの白い建物はなに? 神殿って、僕が知ってるのと全然違うんだけど! すっごい、すっごい、恰好いいね!」

 隠しきれない興奮を傍で見ていたゼノンは、とても爽やか笑顔を浮かべて彼に囁いた。

「とても頼りになる方ですよ。こちらの騎士団の団長で、貴族の方です」

「凄い! 本当?!」

 フラジールも貴族だが、何やら企んだ様子のゼノンを見て口をつぐんだ。

「む。そこの少年はまさか・・・」

「団長、お知らせした迷い人です」

「・・・・一つ聞くが、王都へ連れて行かなくて良いのか?」

「彼女の判断ですから」

 オースティンとフラジールはしばらく見詰め合い、そしてオースティンは何事もなかったようにバッカスに笑みを浮かべた。

「私は西方騎士団団長、オースティン・ザイルだ。君を歓迎しよう」

「僕はバッカス! バッカス・メイフィールド! ねえ、僕も騎士になれる?」

「騎士になりたいのか? 騎士になるためには専用の学校に通わねばならん。だが君は迷い人だ。通常の試験では不公平だな・・・よし、私が専属の家庭教師をつけてあげよう。その人物に色々教わり、試験を受けると良い。家は決まっているか? 対してもてなせないが、良ければ我が家に滞在すると良い」

 どんどん勝手に話を進めていくオースティンに、百合が淡々と言いきった。

「わたくしたちの懸賞金問題が解決したら彼は航海の旅に出る予定だから、騎士見習いとして今すぐ雇って。お金はいくらあってもいいから、今のうちに稼いでおかないと。あと護衛役に誰かつけて」

 護衛がつく騎士見習いなんて存在しない。オースティンはギョッとして百合をまじまじと見つめた。

「とうとう懸賞金がかけられたのか! お前今度はいったい何をしでかしたんだ!?」

「どういう意味ですか。我々を狙っているのは海賊です」

 ゼノンの冷静な突っ込みもオースティンには聞こえない。

「良かったわねバッカス。今すぐ騎士になれるわ」

「本当!? 僕頑張るよ!」

 見習いは決定したようだ。フラジールが遠い目をして神殿を眺めだした。

「いやいやいや! 騎士になるにも国王の許可証が必要で、あのな、しかも騎士になれるんじゃなくて見習いですから!?」

「うん、僕見習い頑張ります!」

「え。あ、うん。よろしく・・・?」

 バッカスの笑顔の前に、オースティンの思考が停止したその瞬間、女の口元に笑みが広がった。

「ちょろいわね」

「ちょろいですね」

 ゼノンと二人で笑いあい、百合が先に神殿に足を踏み入れた。

「バッカス、ここの偉い人を紹介するからいらっしゃい」

「はーい!」

 裏表のない眩しい笑顔で少年は大きく頷いたのだった。


 その後バッカスは二日ほど神殿大人しくしていたが、すぐにオースティン・ザイルの騎士見習いとして、週に三日、騎士団に通うことになった。

バッカスの護衛については、騎士団としても要人警護の練習になると前向きに取り組むことになった。

 基本的には神殿に在籍させるが、百合は彼を必要以上に守ろうとはしなかった。

「これで宜しいのですか?」

「懸賞金がかけられているのはわたくしよ。バッカスはいざとなれば鳥かごに逃げ込める。今彼に必要なのは、限りなく無償の愛情と、この世界で生き抜くための知識。たくさんの人に出会って、たくさんの経験を積ませなければ、彼はこの先一人で生きられないでしょう」

 バッカスは良い子だ。良い子が過ぎる。この世界のことを理解してきているはずなのに、彼はまだ一度も帰りたいと泣き言を言わない。それは、百合からしてみればとても危険なことだ。

 彼は無意識のうちにもう帰れないことを知っているのに、弱音を吐きだすこともしない。出来ない。それは諦めではない。ただ考えることを放棄しているのだ。

 彼のこれまでの状況を考えれば仕方がないことだが、このままではいずれ心が闇に飲み込まれてしまうかもしれない。

 もしそうなった時、彼を救う唯一の方法は、無償の愛情だけだ。この世界で与えられる多くの愛情だけが彼を留めることが出来るかもしれないのだ。

 そして百合に出来ることは、彼にそれらを与えるチャンスを作ることだ。だから必要以上に彼を守るつもりはなかった。

「百合」

 ゼノンが突然片膝をついた。武骨な手が白い滑らかな指先にそっと触れる。

「なあに、ゼノン?」

 数回目を瞬かせて、百合はふっと笑った。

「あなたのことは私がこの命に代えてもお守りいたします」

「ええ、知っているわ」

「はい」

 その決意は力強く、そしてとても熱を帯びていた。





 百合とバッカス・メイフィールドに対する、王城への召喚状が届いたのはそのすぐ後だった。

 




 そして、物語は続いていく・・・



第二章完結しました! 次回は番外編を掲載します。

そのあと、第三章に突入します。これからもどうぞ彼らをよろしくお願いいたします!

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