外伝1 彼女に認められた夜
セス視点の番外編です。短いです。
西で病が終息した直後のお話。
その日セスは酔っていた。
西方騎士団の団員たちに、強引に酒を飲まされたのだ。
場所は西方騎士団の食堂。本来ならばほとんどの団員がすでに就寝している時間帯だが、今夜はお祝いとして特別に騒いで良いという許可が下りたのだ。
街を恐怖に陥れた原因不明の病が終息に向かい、多くの患者の様態が回復したことが理由だった。
もちろん完全に解決したわけではない。これから長い時をかけて病を起させないよう、原因となったもの全てを排除していかなければならない。
小さな子どもたちの中には未だベッドの上から動けない子だっている。
それでも街の人にとって、彼らの活躍は心から尊敬できるものがあったのだ。
そして現在。街中の酒屋から好意で頂いた酒をこれでもかと浴びる様に飲んだ団員たちは爆睡していた。
「うううぅ」
セスは今にも吐きそうな最悪の体調の中、ふらりと現れた美しい女に意識を奪われた。
こんな酔っ払いの中にいるわけがない、とても美しい女だ。
「あら嫌だわ、坊やにはまだ早くてよ」
くすっと鈴の音のような声が頭に響く。心地の良い音だ。
「ぷりー・・・てぃあ・・・」
ううっと口元を抑えるセスに、白いドレスの女がそっと手を伸ばして背中をさする。数日前までわずかの傷もなかった白い手は、今では荒れて痛々しい。
たった一人で抱えるほどの大輪の花を摘んできたせいだ。
今度手荒れに効く薬を調合してやろうと、ぼんやりした頭で考える。
「俺は・・・坊やじゃない」
「そうね、セス」
あ。と思った。
はじめてちゃんと名前を呼ばれた。
嬉しいはずなのに、恥ずかしくて。
「よく頑張ったわね。偉いわ、セス」
それはまるで母のようで。
耳に優しく届く声をいつまでも聞いていたいと思った。
「ご苦労様。もうお休みなさい」
「ん・・・」
心地の良い微睡の中、彼女に褒められたことが何よりも嬉しくて。彼女に認められたことがどこよりも誇らしくて。
セスは眠りの世界へと落ちていった。
プリーティアは彼が眠ってもしばらく背を撫でてやった。
一時間後。迎えに来たゼノンによってセスは部屋へ運ばれ、荷物のようにベッドに投げられたのだが、眠っていた彼は知る由もなかった。
次回は海賊たちの番外編を投稿します。




