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麗しのプリーティア  作者: aー
第二章
64/203

コラードの機嫌も急降下

「コラード・エステ殿」

 三人のプリーストがローブを目深まで被り、表情などはわからないが雰囲気はピリピリしていて怒気を無理やり押し込めたような気配があった。

 神殿に仕えている者のみが着用を許さるローブには、神殿の紋章が入っている。

 人々がプリーティアやプリーストの顔を見なくても神殿の者と判断するのはそのためだ。

 紋章には特殊な発行塗料が塗りこまれており、暗闇でも見えるようになっていた。

「・・・これはこれは、神殿の皆様」

 この街では神殿に仕えている人間すら空を飛び交うのかとゼノンは驚くが、表情には一切出さない。

「お初にお目にかかる。貴殿がゼノン殿で宜しいか」

 気を付けていないと誰が喋っているのかもわからない相手に、ゼノンは注意深く視線を向ける。こちらには敵意など無いと示すように目を優しく細めた。

「はい、ゼノンでございます。プリーティアは現在上で患者と対面しております。皆さまはこちらの神殿の方々ですね」

そんな顔もできるのかと驚いたのはフラジールだ。これでもかと目を見開いて見つめたため、数秒後刺殺されんばかりの視線が向けられた。

「我らは貴殿らを迎えに参ったのです。ですが騎士団に貴殿らはおらず、騎士団長にここを教えられました」

「・・・それはそれは、大変申し訳ない。だが、彼らの対応は騎士団に一任されておりましてね。本日から泊まる宿の手配も完了しております」

 コラードは警戒心を顕にした。

「コラード・エステ殿。お二人は神殿の大切な信徒。我らが神殿にてお預かりいたします」

「はは。それには及びませんよ」

 コラードはこの三人のプリーストに、二人を渡したくないようだった。他の騎士たちも無言で剣の柄に手を掛ける。

 一触即発。しかし、予想外の人物がそれを止めた。

「あら、嬉しいわ。神殿からのお迎えがいらしたのね」

 鈴のような心地よい声が天から降ってきた。

「ゼノン。降りますわ」

「はっ・・・・は?」

 ゼノンは一瞬考えた。しかし体は考えるよりも早く動いていた。

 白い何かが落ちてきたのを、彼は無意識に抱き留めた。華の香りが鼻孔をくすぐる。柔らかく絹のような黒髪が舞った。

「ご無事で」

「ありがとう、ゼノン」

「危ないですよ、プリーティア! ゼノンでなければ無理でしたよ?」

 フラジールが慌てて駆け寄ると、百合はにっこり笑った。

「だからゼノンに頼んだのよ」

 ゼノンがそっと優しく下に降ろすと、彼女は三人のプリーストに向き合う。

 いきなり降ってきた女に、流石のプリーストたちも驚いた様子で一歩下がった。

「お初にお目にかかります。わたくしは西のエメランティス神殿のユーリ。国王陛下とハーン神殿長の依頼で参りましたの」

 ゼノンは、プリーストたちが口を開けて呆然としていることに気付いた。

 ちらりと百合を見ると、彼女は無邪気さと気品を見せつけるように微笑んでいる。

 誰かの喉がごくりと鳴った。

「わ、我らは東のエメランティス神殿のプリーストです。貴殿らを神殿へお連れするよう、神殿長より承っております。どうか御同行願います」

「ええ、もちろんですわ! お迎えに来ていただけるなんて光栄です。ねえゼノン」

「は。しかし荷物を騎士団に預けたままですので、一度そちらに戻らねばなりません。プリーティアのドレスも全て、お預けしておりますので」

 そう言えば、プリーストたちはコラードに怒りを向けた。

「コラード・エステ殿! プリーティアのドレスを奪うなどと何を考えておられる!?」

「騎士道精神はどこにいったのですか!」

「そもそもプリーティアやプリーストをこのような場にお連れするなど言語道断です!」

 三人に突然怒鳴られ、コラードの機嫌も急降下だ。

「まあ。どうぞお怒りを鎮めて下さいませ。わたくしたちが患者を診たいと我儘を言ったのですわ」

 今度はコラードが驚いて百合を見つめた。

 誰この女。え、さっきまでの女は?

 と視線を巡らせるが、もちろん百合は一人である。

「プリーティアは陛下のご命令でいらしたのです。そのお気持ちは大変素晴らしいものですよ」

「ええ、プリーティアやプリーストは悪くありません」

「悪いのは全て騎士団です」

 そんなことを言い合っているうちに、街の住人が顔を出すようになった。物陰に隠れて、なんだなんだと彼らを伺っている。

「ここでは話になりません。プリーティア、私におつかまりください。荷物は後程、他のプリーストが取りに伺います」

 ゼノンがわずかに眉をひそめたが彼らは気付かない。

「プリーストは・・・・・・」

 ふと顔をあげた相手にゼノンが苦笑する。

 騎士団に所属している騎士ならば、体躯の良いゼノンを運ぶことが出来る。だが今しがた現れたプリーストたちでは体躯が違い過ぎて、彼を担いで走るなんて不可能だった。

「わたくし、西のエメランティス神殿長よりゼノンと常に行動を共にするよう言われておりますの。わたくしのような世間知らずは皆様に迷惑をかけてしまうもの。だから、ゼノンとともに参りますわ」

 にこにこと無邪気な笑顔で言えば、プリーストたちも困ったように閉口した。

「じゃあ、こちらの用が済んだら神殿にご案内しますよ。とりあえず騎士団に戻りましょう」

 そして何故かコラードが勝ち誇ったように宣言した。プリーストたちが悔しげに下唇を噛締める。

そんな光景を百合はとても静かな瞳で見つめていた。

 プリーストの一人と目が合えば、彼女は華が咲いた様な美しい笑みを浮かべて相手を見つめた。見つめられた方は頬を染め硬直する。

 コラードが胡散臭いという感情を隠すことなく百合を見ていた。



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