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麗しのプリーティア  作者: aー
第二章
62/203

黙って歯を食いしばれってどんなセリフ

 セスの名が出ると、フラジールはわずかに表情を曇らせた。そしてそっと首を横に振る。

「・・・それが、現在セス殿は王都に居ないのです。北で変わった植物が発見されたとかで、彼はそちらに駆り出されております」

 植物に詳しいセスならば、もしかしてうつ患者に効く薬を調合出来たかもしれない。彼が居ないのは痛手だ。

「ならば彼を凌ぐ程の薬の知識を持った人間は呼べる?」

 フラジールはそれにも首を横に振った。

「セスは天才なのです。あなたは彼しか知らないから、彼の技術が当たり前のように思うかもしれませんが、錬金術師はそう便利な存在ではありません」

 セスは特別だ。だからこそ、西の街を救うことが出来た。しかしそのセスを呼ぶことは本来容易ではないのだ。

 そして、セスが来るということは一刻を争う事態ともいえる。

「・・・この街に、医者は?」

「おりますが、期待しないで頂きたい。それで事足りるのならばあなた方を呼んだりしませんよ」

 その質問にはコラードが答えた。

 嫌味な言い方だが正しかった。必要だと判断されたから呼ばれたのだ。

「そうよね・・・・ねえ、症状が出ているのは大人だけなの?」

「はい。全員が成人しています。ほとんどが昼間は街で働いていたのですが、現在は休職という形を取っています」

 百合は口元に手を当てて考え込む。その様子を、レオーネ・ヴィンツェンツィオがジッと見つめる。

「治療法があるのか」

 とても静かな声で抑揚もなく、ぽつりと落ちる雨のような声だった。

 百合はしばらく己が声を掛けられていると気付かなかった。ゼノンがそっと百合の肩に手を置いて初めて気付いたほどだ。

「何かしら」

「・・・治療法があるのか」

 レオーネは同じ言葉を繰り返した。

「わたくしが考えているのと同じ病ならば、なくはない。けれど会ってみなければわからないわね」

「ではご案内しましょう。身軽になってください」

「は?」

 コラードの言葉に、ゼノンとフラジールの声が重なった。

「空を駆けるのにその装備では重すぎます」

「私は高いところが苦手なのでここで待たせてもらう」

 フラジールが胸を張って言う。その情けない言葉に、ゼノンがため息をついた。

「普通に歩いていけばいいだろう」

「そんなことをしたら時間がかかります。それに地上は暑いでしょう」

「我々は貴方方のように空を駆けるなどと言った芸当は持ち合わせておりません」

「何を言っているんです。我が騎士団が運びますよ。黙って歯を食いしばって引っ掴まっていればいいんです」

 百合はぼんやりその様子を想像して、くすっと笑った。

 ゼノンが人に担がれるというのは面白い。

「時間がもったいないわ。参りましょう」

「しかし!」

 百合はゼノンの制止を無視してローブを脱いだ。普段身につけているワンピースも一枚脱ぐと更に身軽になる。

「・・・もう少し抵抗はないものですか」

 コラードは驚いて目を瞬かせる。何もそこまで脱げとは言っていない。

「あら、ご存じなくて? 西の神殿では男女問わずともに水浴びしますのよ」

 主に気にしないのは百合が原因なのだが。

「フラジール殿、年甲斐もなく恥ずかしい真似はおやめください」

 ゼノンの絶対零度の囁きで、想像してにやけていたフラジールは表情を引き締めた。

「・・・ずいぶんと地域差があるんですね、神殿というのは」

 無遠慮に百合の全身を眺めながら感心したようにコラードが呟いた。

 百合が普段身につけているワンピースは三枚構造だ。一枚目が肌着。二枚目が神殿の敷地内のみで着用しているもの。三枚目は外出着だ。どれも薄い生地で出来ていて着心地も悪くない。

 ゼノンも諦めてローブとプリーストの制服を脱いだ。腰に下げている二本のナイフはそのままだが、制服を脱いだ彼は黒いシャツに黒いズボン姿で、明らかにプリーストには見えない。もともと浅黒い肌をしている為、夜に出会ったらまずその存在に気付かないだろう。

「武器は置いて行ってください」

「断る。この方をお守りするのが私の役割だ」

「さあ、参りましょう」

 睨み合う男たちを無視して百合は颯爽と歩き出した。

「あの、プリーティア殿。私はここに・・・」

「行くわよ」

 フラジールの言葉は見事に無視された。




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