表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
麗しのプリーティア  作者: aー
第二章
61/203

パンも時々失敗します。

「お待たせいたしました」

「ありがとう、ゼノン」

 ゼノンはわずかに目を細め、そしてクッキーもどきを一枚手に取った。

「少々パサついていますが、味は良いですね」

「そうだろう!」

 フラジールが嬉しそうにもう一枚手に取った。コラードも何も言わずに勝手に手を伸ばすが、フラジールが怒らないので良いのだろう。

 百合も、ゼノンが毒見を済ませたクッキーもどきを一枚手渡してきたので口に含めば、彼らが言う様にパサついていて口内の水分を取られた。味は悪くない。

「・・・粉類を混ぜるときはきちんとふるうように伝えなさい。混ぜるときはこねるようにではなく、手前に切るように。あと、分量も気を付けた方がいいわ。味は悪くないけどこれでは楽しみが減るわ」

 百合が淡々と言えばフラジールが慌ててメモを取る。

「それから、どうせなら果物や木の実を混ぜて焼いても良いわね。たくさんの種類がある方が見た目も華やかだもの」

 かくいう百合は、お菓子作りは大の苦手だ。何度も作っては失敗して、作り方はわかるが二度と作らないと決めている。

 本来お菓子作りは繊細な作業だ。きちんとグラムを図ることを厭う女に作れるはずがない。偉そうなことを言っても、絶対に己では作らない。それが百合だ。

 料理とお菓子は違うもの。彼女の中ではそうなっている。

ちなみにパン作りも本当は苦手なのだが、この世界には米に似た食べ物がないので諦めた。

そういえばいい加減米が恋しいなとぼんやり考えると、何故かコラードもメモを取っていた。

「意外だわ。あなた、お菓子なんて作るのね」

「いえ、うまくいったら今度レシピを売り出そうと思いまして」

「君は仕事をしたまえよ」

 フラジールが呆れたように言えば、彼は心外だと声を大きくした。

「仕事は仕事、金儲けは趣味です! ところでプリーティア殿。べったりする、水っぽいケーキが焼けた時はどうするのですか」

 ゼノンが二杯目のお茶を淹れてくれるのを横目に見ながら、百合はコラードを眺めた。

 先程より態度が軟化しているように見えるのは気のせいだろうか。

「・・・ちゃんと生地が焼けているか確認はしているの? 細い竹串なんかを使いなさい。あとはフルーツなんかを入れるなら配分も考えなさい」

「他には」

「わたくしは講師に来たわけではないの。いい加減資料を見せて。ちゃんと良い子にできたらゼノンが美味しいケーキを焼いてくれるわ」

 ゼノンがギョッとしたように百合を見つめたが、彼は何も言わず頷いた。彼の中で百合の言葉は絶対なのだ。

 二人の様子に気を良くしたのか、コラードが壁面の本棚から一冊の本を持ち出す。白い背表紙には何も書かれておらず、本だと思っていたそれは、本の形をした収納ボックスだった。表紙にも何も書かれていない。

 コラードが蓋を開けて中を取り出すと、大小さまざまな羊皮紙が出てきた。書かれている字も複数の人間のものだ。

「こちらが最初に書かれたカルテです。これ以降順番に並んでいます。確認されている患者は現在20名程。そのうち、本日も7名が墓場で発見。うち4名は連れ戻されましたが3名は現在も“自分の墓”を掘っています。残りは自宅で横になった状態のまま動こうとしません。彼らに共通するのは、己が死んでいると言い張る点。そして表情も感情も動かないこと。これでは生きながら死んでいるようなものです」

「何時頃からなの」

「ここ数カ月の間です。まだ半年は経っていませんが、毎月患者が少しずつ増えてきました。尚、最初に症状を訴えた人物は自宅から飛び降りて亡くなっています」

 自宅から飛び降りて死ぬということは、この街においてごくまれにある。それは小さな子どもか、足腰の弱った余命いくばくもない老人に限られていた。

 百合は温くなったお茶に口をつけた。飲みたいわけではない、無意識の行動だ。

「プリーティア殿、何か心当たりはありますか?」

 フラジールが心配げに覗き込んできた。

「そうね・・・」

 この世界に落とされる前。ダメ人間まっしぐらだった百合は深夜番組を良く見た。もちろんラジオも聞いていた。昼間に放送されるテレビ番組は規制が多く、ニュースも“放送して良い”ものだけが流れていた。それに比べラジオは基本的に生放送なので故意とも取れる放送事故がままある。

 休日前の夜。百合はNHKで流れていた世界の不思議希少症状に関する番組を見ていたことを思い出した。深夜にやっていて、その時間帯は海外ドラマなども多く流れていたので、時々流していた。

 そう、その日もあの番組を見ていた。

「今は言えないわ」

「どうしてです?」

 コラードがぎりぎりまで顔を近づける。冬の空を思わせる瞳に黒髪の女が写っていた。

「まだ、実際に患者を見ていないから確信を持てない・・・けど、似たような症状を聞いたことがあるわ」

 その病気は心が問題なのだ。発症し、悪化し、そして慢性化するという段階を踏む精神的なものだ。最初はうつ症状が出て、漠然とした不安にさいなまれる。そして時間が経ち進行すると深刻な妄想や慢性のうつに陥る。

 しかしこの世界にうつ患者に投与する治療薬があるのだろうか。もし、彼らの症状がそれならば、百合たちは長期戦を覚悟しなければならない。

 何より、性格上百合との相性が大変悪い予感がする。

「フラジール」

「はい」

「王都からセスを呼ぶことは出来る?」

ご指摘いただいた病名に関して微妙に変更しました。

色々考えましたが、病名は伏せることにしました。

ご指摘ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ