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麗しのプリーティア  作者: aー
第一章
32/203

半裸対好青年。勝負なんて決まってる

「まあ、本当に海賊だったのね」

 騒ぎを起こしたアンドレアとフェルディは騎士団に連行された。

 アンドレアは本来この騎士団の最高責任者であるにも関わらず、能面のような副官に遠慮なく殴られ捕縛されるような形で戻ったのだ。戻った先はアンドレアの私室だった。

「はい、こう見えて海賊です。でもご安心ください。協定により、決してこの国に害を及ぼすことはしません」

 朗らかに笑うフェルディを、百合は遠慮なく眺めた。

「不思議だわ。あなたのほうが紳士的なのに」

「僕もこの街に来ると心底思いますよ」

 誰が見てもそうだろう。

「どういう意味だてめえら! だいたい、俺はここの頭だぞ!? なんで殴られなきゃいけないんだよ! つーか、なんで俺の部屋!?」

「・・・・あなたが騒ぎを起こしたからです」

 切れ長の瞳が絶対零度の色をたたえていた。アンドレアが思わず黙るほどには、機嫌が悪いようだ。

 罪のないフェルディを拘束することもできず、現在応接間はセスが使っている為、消去法でアンドレアの部屋が選ばれた。

「フェルディはなぜこの国に来たの? ここではお仕事をしないのでしょう?」

「お仕事・・・・・ええ、はい。実は探している奴がいるんです。毎年この街に出没するようなので、定期的に様子を見に来ているんですよ」

「まあ、それは大変ね」

 フェルディが微妙な顔をしていることには気付いたが、百合はそれ以上何も言わなかった。

「失礼する」

 控えめなノックとともに入室したのはセスだった。

「プリーティア、海賊に襲われたと聞くが大丈夫か」

「あらセス」

 心配した様子のセスが、わき目も振らずに百合の前に来た。寝癖が微妙についているが本人は気にしていないようだ。

 百合はそんな彼の姿におっとりと笑った。

「ええ、こちらの紳士が助けて下さったわ」

「・・・そうか」

 ホッとしたように肩の力を抜くと、そのまま百合の隣に腰を下ろした。

「それで、その海賊は?」

「そこにいるわ」

 そう言ってアンドレアを指さす。

「・・・海賊は?」

「彼よ」

 セスは、彼女の言葉の意味を理解するのにかなりの時間を要した。

「・・・アンドレア殿、何をしているんだ」

 そして納得した。

なぜなら百合の傍には爽やかな好青年が居たからだ。半裸で体の大きなアンドレアと見比べると、明らかにアンドレアの方が海賊らしい。

「ちょっと待てセス! 何納得してるんだ!」

「あなたなら有り得るかと」

「酷いぞセス!」

「自業自得です。どうしていつも服を着ないんですか」

 フェルディが言えば、アンドレアは気に入らないという顔で怒鳴る。

「暑いんだよ、この街は! だいたい、海賊のくせに好青年気取ってやがるお前はなんなんだ!?」

「気取っていません! 僕は確かに海賊ですが、あなたのような品性乏しい人間にはなりたくない!」

 なんだと!? なんだ! の掛け合いに、エドアルド・ジャコモが切れた。

 いきなりアンドレアの頭を片手でつかみ、思い切り力を込めた。

「いだだだだだっ!」

「いい加減にしてください。あなたの普段の行動がこのようなアホな結果を呼ぶのです。少しは立場に見合った格好を心掛けて下さい。でないと」

 ご家族にお手紙をしたためます。

 アンドレアはしばらく固まったが、その後無言で上着を身につけた。

「それで、今日は何しにきやがった」

 何事もなかったかのように聞くアンドレの様子に、全員が一瞬黙った。

「・・・アファナーシー・ニキータが近々また来るようです」

 その言葉にアンドレアとエドアルドが反応した。

「嘘じゃねえな?」

「しかし、先月も来たばかりなのに」

 フェルディが硬い表情で百合を見やった。

「プリーティア、今はどちらに滞在しておられますか」

「南のエメランティス神殿におりますわ。連れも一緒に」

 にこりと笑う彼女に、フェルディが悲しげな顔で頷いた。

「すぐに、そこを出て欲しいと言ったらどうします」

「・・・わたくしはプリーティア。神々の妻たるわたくしが神殿にいることは自然なことです」

 セスはハッとしたようにフェルディを見た。

「おい、さっき出た名前は、もしかして武器商人もしているのか?」

「あ? 知らなかったのかセス。アファナーシー・ニキータは世界を荒しまわる海賊であり、世界でも名の知れた武器商人だ。というか、奪ったものを売り捌いているだけだが」

 セスが慌てて百合を見た。彼女の横顔はいつもと同じように涼しげだ。

「南のエメランティス神殿のことは、わたくしたちにお任せください。それは、部外者が口を出して良いことではありませんわ」

「しかし、あそこは危険です! アファナーシーと直接やりとりしている可能性があるんですよ! いえ、売り捌いているのはあの男の配下だから、直接は会っていないでしょうが、それでも危険です!」

 百合はゆっくりと首を横に振った。

「そうなのかもしれません。しかし、今は確固たる証拠も、そして確信もない」

 とても静かな声だった。

「あなたはアファナーシー・ニキータという男を知らない」

フェルディは、はじめて百合に対して厳しい顔を見せた。

「あいつは、危険な男なんです」

 言い聞かせると言うよりは、己の中にある怒りを押し殺すような声だった。

「フェルディ」

 そっと、百合はフェルディの前に立った。目を合わすように腰を下ろすと、下から彼の瞳を覗き込んだ。

「あなたは優しい人ね。あなたに海賊は似合わないわ」

 フェルディは自嘲するように口元に笑みを浮かべた。

「けれど、この件はわたくしも譲れないの」

「どうしてです! あなたは荒事なんて知らないでしょう。あなたは、安全な場所で生きている。そしてこれからも!」

 百合の白い手がフェルディの腕をそっと労わるように撫でた。

「わたくしは、迷い人なの」

「・・・え?」

 その言葉にぎょっとしたのはセスとアンドレアだ。百合が迷い人なのは、フェルディ以外は知っている事実だ。しかし彼女自身がそう名乗ったことはない。

「ねえフェルディ、わたくしはこの世界を優しいと思うことはないわ。わたくしはこの世界に全てを奪われた。人生も家族も、大切なもの全て、そして世界さえも奪われたわ」

 そっと瞳を閉じる。今でも鮮明に思い出す我が家の形。だのに、時間を追うごとに家族の笑顔が少しずつ朧げになることが悲しかった。

「迷い人なんて呼ばれても、実際は無理やり拉致されて連れてこられたようなもの」

 しかも相手は神という絶対的な存在だ。

「今も、とても悲しいわ」

 フェルディがハッとしたように百合を見つめた。

「どうして、そんなあなたが神殿に居るのですか」

 百合は、寂しげに笑った。


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