半裸で正義の味方って言われてもね・・・
「まあ見て、あの鮮やかな鳥。とても綺麗ね」
空を飛ぶ七色の羽を持つ鳥を指さすと、隣に居たフェルディがくすっと笑う。
「プリーティア。あの羽が七色の鳥は吉兆とされているのです。あれはオスで、メスに求愛するために派手な色をしているそうです。メスは同じ見た目ですが灰色一色なんですよ」
まるでクジャクだと思ったが、百合は楽しそうに頷くだけだった。
二人は港に来ていた。百合は相変わらずフードをかぶっているが、フェルディに手を引かれているせいか目立ってしまう。
「フェルディ、なんだか見られているわ」
「そうですね・・・よければあちらのカフェに入りませんか。多分あの店からなら海賊船が見えますから、ゆっくり座ってご覧ください」
「ええ」
フェルディは百合の手を引いてカフェに入った。
店内は木目の見える壁に白いテーブルとソファー。緑のレースのカーテンで各テーブルを分けていてお洒落だ。海に面したテラスには青い三人掛けのソファーと、一人掛けのソファーが置いてあった。フェルディは迷わず三人掛けのソファーに百合を座らせると、自分は一人掛けの方に腰を下ろした。すぐに店員がやって来て、フェルディが何やら注文する。
「ここのジュースは美味しいんですよ」
そう言って笑うフェルディに頷いていると、店員はすぐに戻ってきて二人の前にテーブルを設置した。白い折り畳みのテーブルで、その上に赤い布を敷いた。すぐに飲み物を運んでくると、まず百合の前に置いた。
オレンジと白のコントラストが綺麗なそれには、マンゴーやバナナが上にトッピングされている。甘い香りに誘われて手を伸ばした。
「ヨーグルトと果物のジュースです。どうぞ飲んでみてください」
フェルディも言いながら己の前に置かれたそれに口をつけた。甘いものが好きなのか、どんどんグラスの中身が減っていく。
百合もそっと口に含んだ。ヨーグルトの酸味と果物の甘味が絶妙だ。
「おいしい」
「よかった」
百合の呟きにフェルディは安心したように笑った。
「このお店はよく来るの?」
「この街に来た時は必ず。プリーティア、あちらをご覧ください。あれが海賊船マーレ号ですよ」
フェルディがふいに海を指さした。
青と白の船体には遠くからでも良く見える金色の線が三本伸びている。何枚もある濃紺の帆は風にはためき力強い印象を与えた。骸骨のマークなんてどこにもないが、良く見ると大砲のようなものがいくつもあった。
思ったよりは大きい。船の全長は百メートル近いかもしれない。数十人は搭乗しているのだろう、時々人影が走っている。
「あれが、海賊船なの?」
「ええ。見た目はあまり恐ろしくないでしょう? けれどあれでも海賊船ですから、近付いてはいけませんよ」
「どうやって海賊船と見分けるの?」
「・・・プリーティアは好奇心旺盛なのですね」
どういう意味だと思っていると、フェルディはわずかに困ったような顔をした。
「聞いてはいけないことだったのね、ごめんなさい」
「いえ・・・すみません。ええと、見分け方ですが、海賊船には一つだけ共通点がありますマストをご覧ください。見えにくいですが、一番大きな柱に赤い十字が描かれているのが分かりますか? あれが海賊船のマークです」
あまり言いたくないのかもしれないが、それでもフェルディは教えてくれた。
「なぜあのように描くの? あれでは遠くからは見えないわ」
「海賊には様々な決まりがあって、あのマークもその一つなんですよ」
良くわからない決まりだ。
百合は首を傾げたが、それ以上質問をせずジュースを飲んだ。
「でも、とても綺麗な舩ね」
その呟きに、何故かフェルディが嬉しげに眼を細めた。
楽しい時間は長く続かなかった。
「げ。フェルディ・イグナーツじゃないか! なんでプリーティアと一緒にいるんだ!」
現れたのは今日も半裸のアンドレア・カルロだ。フェルディと百合を交互に見やる。
「ごきげんよう、アンドレア」
「何してんだ?」
「親切な方に港を紹介して頂いているの。あなたは今日も涼しげね」
アンドレアは勝手に二人の間に入ってきた。フェルディがあからさまに嫌そうな顔をする。
「どうして今日も服を着ていないんですか!」
「いいじゃねーか。こっちの方が楽なんだよ。それに上着ならこうして持ってるだろ?」
「着ないと意味がないだろう! それでも騎士なんですか!」
うるせえ、と言いつつ、百合のジュースを取り上げて飲み干してしまった。
「甘いな」
「勝手に飲むな!」
「てめーのじゃねえんだからいいだろ?」
「よくない!」
店員はこの二人の事に慣れているのか、呆れたような顔で同じものをもう一杯作ってくれた。今度はバナナの代わりにキウイが入っていて酸味が少し強まる。
「これもおいしいわ」
「ありがとうございます」
百合が思わず呟くと、店員が嬉しそうに笑った。
そんな二人がほのぼのしていると、何故かフェルディとアンドレアは互いに武器を取り出していた。
突然のことに、さすがの百合も驚いてしまう。
「アンドレア、あなたどこに剣を隠していたの?」
「今聞くのかそれを!?」
怒鳴りつつ、剣の先をフェルディに向けて片手で百合を抱えた。フェルディはピストルをアンドレアに向けているが、百合がいるため戸惑っているようだ。
百合は飲みかけのジュースが少しこぼれてしまって、とても悲しくなった。
この世界では甘いものはとても貴重なのに。
「今の状況、明らかにあなたが女性を盾にしているように見えるのでやめてくれ」
「俺は騎士だってお前も知ってんだろうが! 大体俺よりお前の方が悪人じゃねえか!」
近くで怒鳴られると、とてもじゃないが耳が痛い。百合はぎゅっと目をつぶった。先程まで被っていたフードはアンドレアに抱えられたせいで取れてしまっているため、道行く人が何事かと足を止めた。
美しい女が半裸の男に抱えられて、鋭い刃物を向けられているように見えた。近くには女を取り戻そうとしてみえる若い男がピストルを構えているが、女がいるために撃てない。
人々にはどうしてもそんなふうに見えた。
「酷いわ」
まだ飲んでいる途中だったのに。
百合の悲しげな声が、その場を包んだ。大きな声ではないのに、何故か耳に届く。
「お頭さん、いくらなんでもそりゃねえよ。あんた妻も子もいるじゃねえか」
「お頭さん、なんだか怖い人みたいね」
「二人の仲を邪魔するなんて最低」
「あんたいつから海賊に転職したんだい?」
口々に言われ、アンドレアはさすがに切れた。
「黙ってろ! だいたい、海賊はあっち! 俺が正義の味方なんだよ!」
叫んだが、百合を含め誰も信じなかった。
騒ぎを聞きつけた半裸集団が駆け付けたのは、それからすぐの事だった。
久々の更新。少し長すぎましたでしょうか。
次回以降もお楽しみください。更新不定期で本当に申し訳ありません。
いつもありがとうございます!




