典型的な二日酔いの症状
「情けないにも程があります」
感情をほとんど表に出さないはずのゼノンが吐き捨てるように言ったのは、惰眠をむさぼる美しい女の傍で吐き気と必死に戦って、勝ったはずの若き神殿長ヨシュカの姿を見たからだ。
翌朝の事であった。
そろそろ仲直りしただろうと執事が部屋を開けたところ、ベッドの傍で蹲っているヨシュカを発見した。
胎児のように丸くなったまま眠ったらしいヨシュカは、無理な体制で、しかも床の上で眠ったことによる全身の痛みに必死に耐えている。
「おはようございます。プリーティア」
「・・・おはよう、ゼノン」
うっすらと目を開けて、何故か自分の周りを取り囲む男達を見やった。
「どうしたの?」
気だるげに体を起こすと、ゼノンが手櫛で髪を整える。
「この青年はいったい何をしたのですか」
「誰の事?」
ゼノンがどこからか取り出したクッションを女の背中にあてがった。そのまま心地よい椅子の完成だ。執事が運んだ紅茶を受け取ると、それはもちろん美味しくて朝に相応しい爽やかな香りがした。
一口、二口と飲む。喉を熱い紅茶が通って行き体全体を暖める。
ゼノンの淹れたお茶も美味しいが、やはり格が違う。
そこで初めて彼女はベッドの傍で青白い顔をしている男を見やった。
「おかしいわねえ、お酒は全てわたくしが頂いたのに・・・あなた、どうして二日酔いのような顔をしているの?」
「・・・一口も召し上がっておられないのですか」
ゼノンが確認するように言った。
「そのはずだわ」
「このお酒、全て貴女様が?」
執事も驚いたように声を上げた。
「いいお酒だったわ。流石王都ね。でも西のワインもおいしいからそろそろあっちが飲みたいわ」
「そうですね、そろそろ患者の様子も気になります」
淡々と言う二人に、ヨシュカが初めて口を開いた。
「おはよう・・・ございます」
息も絶え絶えな様子で、また口元を抑える。今にも吐きそうな顔をしている彼に、執事が慌てたように駆け寄った。背中をさすってやっている。
「国王の執事に介抱されるなんて、さすが王都の神殿長様は違うわね」
「酒も飲めないくせにいったい何をしているのです」
冷めた顔で言われて、本当に泣きたくなった。
「酒の匂いがきつくて・・・だいたい、あなたはどうして平然としているのですか。一人で7本も開けたくせに!」
怒鳴るように言って、しかし次の瞬間己の声が頭に響いてまた蹲る。典型的な二日酔いの症状だった。
「酒も肴も良かったわ」
「お褒め頂き光栄です」
深々と頭を下げつつ、執事は初めてこの二人を一緒に閉じ込めたことを後悔した。
なるほど流石国王陛下にも屈しない鉄壁のプリーティアだ。異世界より来たりし迷い人だけのことはある。きっと体の構造が我々と違うのだろうと納得する。
「このお酒はどこで手に入るかしら」
「ふむ・・匂いも良いですね。皆に持って帰りましょう」
すでに帰る気でいる二人に、執事はそっと目を伏せた。
「お帰りの事ですが、陛下からお話があるそうです。謁見の間へお越しください」
ちっ、とまた舌打ちが響いた。




