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麗しのプリーティア  作者: aー
第一章
21/203

ゼノンだって怖いものくらいある


 普段ゼノン達がいるのは西地域である。

 山々に囲まれ、風と花と緑に囲まれた雄大な土地。珍しい植物と、織物の街として知れ渡っている。

 遥か南に行くと、海に面した街ズューデンがある。常に活気づいているそこは、毎年どこからともなく現れる海賊に苦しめられていて、騎士団の仕事の殆どは海賊退治だ。

 諸外国から珍しいものが集まるため、王都の次にファッションや食べ物の発信地として知られていた。誰もが一度は行きたいと夢見る街だ。

 西と大きく違う点はもう一つある。家々のカラーだ。

 西の方は昔ながらの単色。土色と、金のある家は白く塗ったりしているが、基本的には明るい色を使うことはない。対して南の家々は海の色に映える様に赤、青、緑、ピンク、紫と明るい色で家を飾っていた。なかにはパステルカラーを組み合わせるものも居て街全体が眩しい。

「ゼノン」

「はっ」

「いつまでそうしているのかしら?」

「・・・はっ、もう少しです」

 現在ゼノンは王家ご用達の馬車の中、一生懸命美しい女の絹のような髪に薬を塗りつけていた。

 さすが王家の馬車。道中の乗り心地は悪くなかった。

「ゼノン、良い香ね。でもどうせフードを取らないから意味がないと思うの」

「潮風でプリーティアの美しい髪が傷むのは容認できません」

 最近プリーティアばかと陰で呼ばれるようになってきたゼノンは、一心不乱に薬を塗りこんでいた。花の香りがとても良い、植物の錬金術師セス力作の逸品だ。

 そのセスは、西から急きょ呼び出され屍の如く動くことなく死んだ魚の目で二人を見ていた。

「どうしてこんな場所に」

「国王陛下からの要請です。南の方で違法植物が繁殖しているので調べる様にとのことです」

 セスの恨みがましい声に答えたのは同乗していたフラジールだった。

「どうしてあなたがここに」

 ゼノンが髪から手を離さず問えば、

「団長からの指示でセス殿をお連れしたのです」

 と人の良い笑顔が返ってきた。

「土産物は全てこのフラジールが責任を持ってお届けいたしますのでご安心ください」

 そう言って、目的地についた馬車から三人と荷物を降ろすと、彼は笑顔で去って行った。

 彼が逃げた理由を数秒後に理解することになる。

「普通、挨拶していかないか」

 セスが呟けば、目的地の南方騎士団の前に立っていた数名の男たちが動き出した。

「ここが・・・騎士団ですか?」

「そのはずだが・・・」

 ゼノンとセスは同時に思案気な顔をした。


 そもそもこの三人が派遣されたのには理由がある。

数週間前からこの街では違法植物が繁殖しているという噂が出回り、その植物には毒があるので素人は除去できないことと、南のエメランティス神殿の様子がおかしいとの報告が上がってきていた為、どうせ王都から出るならばついでにちょっと調べてこいとのお達しだった。

 セスは植物のプロだ。もともと国に仕える錬金術なので仕方がないとして、残りの二人はなんとも納得できない命令だったが、強引に馬車に押し込められて仕方なく頷いたのだ。

もちろん報酬はきっちり貰う約束を取り付けた。

「おいてめえら、王都から来たってのはてめえらか? ああ?」

 騎士とは名誉職である。主君に忠誠を誓い街や国の治安を守るために様々な訓練を受け、その立場にふさわしい教養を身につけている。

 この世界の騎士は馬に乗って戦うことはほとんどないが、きちんとした身なりで戦闘の際は鎧も身につける。

 そう、きちんとした身なりであることが大前提だ。

 しかしどういうことだろうか。ゼノンたちの前に居るのは明らかに荒くれ者だった。何故か全員上半身裸で、日焼けした肌を惜しげもなくさらしているばかりか、足元はブーツではなくサンダル。足首を固定するタイプのようでデザイン性はあるが、いかんせん間違っても騎士の恰好ではない。ちなみにズボンは裾を最低でも5回は織り込んでおりもはや長かった意味はない。頭や首にはそれぞれ赤や黄色のバンダナを巻いている。

 近づいてきたのは4人の男だった。

 まず赤いバンダナを頭に巻いて、何故か眉を剃っていた男がにやにやと人の悪い笑みを浮かべてセスの頭に手を伸ばした。

「なんだあこいつ、ちっせーの。肌も白くてただのモヤシじゃねーか!」

「おいこいつを見てみろよ。異国人だぜ! 俺らより肌が黒いじゃねーか! おい、マント取れよ!」

 黄色いバンダナを首に巻いた男が強引にゼノンのローブを奪う。引き締まった筋肉が服の上からでもよくわかった。

 ちなみにマントとローブの違いは明確にある。袖があるかないかだが、彼らには関係がなかったのだろう。あまりの強引さに隠していた短剣も出てしまった。

「おい、こっちにももう一人いるぞ!」

 黄色のバンダナを頭に巻いた別の男がプリーティアに手を伸ばした瞬間、ゼノンが短剣を構える。

「おいてめえ」

 無駄のない動きに、男達も一斉に臨戦態勢になった次の瞬間。

「良い身体してんじゃねえか」

「上腕二頭筋たまんねえ!」

「この尻触ってみろよ、いい筋肉だぜ!」

「この大腿四頭筋もいいぜ!」

上腕二頭筋は腕の筋肉で、大腿四頭筋は太ももの筋肉である。

「ひっ」

 短剣を構えたまま上半身裸の男4人に抱きつかれて、ゼノンの思考は一瞬だけ停止した。

 短い悲鳴を上げたのは本能的なものだったが、そんな彼の様子を驚きつつプリーティアは見た。

 そして、初めてゼノンが無意識に助けを求めて彼女を見た瞬間、彼女は動いていた。

「わたくしのものに触らないで」

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