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麗しのプリーティア  作者: aー
第一章
12/203

神殿に入った理由

 その夜、美しい女は白い足を組んで退屈そうに騎士団長を見やった。

 時折見える白い足がなまめかしく、しかし女が神殿に仕えるプリーティアということでなんとも背徳的だ。

 スカートの裾が揺れるたび、思わずそちらを見てしまう男の性をどうやら理解しているようだ。わざと視線を誘導されているようにも思えるそれに、オースティンは、自分は栄光ある騎士団長だと言い聞かせること数十分。あまり効果はない。

 そんな上司を横目に、フラジールが真面目な顔で女に向かって口を開く。

「プリーティア、それでお返事は」

「興味ないわ。俗世の生活にも飽いたからそろそろ神殿に帰りたい」

 心底どうでもよさそうに言う女に、オースティンが慌てて言う。

「だが、陛下の思し召しだ! 逆らうことなぞ出来ない!」

「それは貴方たちの王でしょう。わたくしの王ではないわ」

 あんたはバカか? と言いたそうな目が痛かった。

「し、しかし・・・」

「これまで王はこの街のために何もしなかった腰抜けよ。今になって手を貸すのは危険がないと判断できたため。それがなければ今でも手を貸さなかったでしょう。神殿は困っているものを助けなければならない。だからわたくしたちが派遣されたの。けれど、わたくしたちの仕事はここまで」

「だがプリーティア! 神殿が王の意向を無視するのは危険だ! 神殿を取りまとめる機関は王都にある。彼らが強制的に参上しろと言う前に行くべきだ!」

 その言葉にプリーティアは嫌悪を見せる。

「ずいぶんと俗物的な連中ね」

「仕方がないですよ、プリーティア・・・王都に居る神殿のものはすべからく恵まれている。その恵みを奪われたいと思う人間など居りません。王都に現在いる上級のプリーストは王と専属の契約を交わしていますし、王都で得られる資金は神殿側にとってバカにならない額のはずです」

 なんとも世知辛い話である。

 プリーティアは大きなため息をついた。

「ゼノン、あなた行きたい?」

「・・・プリーティアの護衛が私の役目ですが、王の傍に侍るものはすべからく信用できぬと心得ております」

 きっぱりと言い切ったゼノンに、騎士たちは脱力する。

「そこまでハッキリ言わなくても・・・」

「そうだぞ、気持ちはわかるがそれはない! あんまりだ! 俺たちは言えないのに!」

 言っているようなものである。

「わたくし、喉がかわいたわ。オースティン、おいしいワインをちょうだい」

 神職のくせに酒を飲むのかと言いたくなったが、この国ではワインは水の次に安いので仕方がない。

「プリーティア、私がとって参りましょう」

「わたくしはそこの残念な騎士にお願いをしているのよ」

 とうとうソファにふんぞり返った女に、誰一人二の句を告げなくなった。オースティンが不満を隠そうとしないまま部屋を出ていく。

 貴族の男をここまで使おうとする女は初めてだった。

「そころで、なぜ今になって王はわたくしに城まで来いと?」

「あなたが病を終息に向かわせたからです。また、弱っていた患者を看病し、死にかけていた命をたくさん救いました。あなたはまるで聖女のように王都には伝わっています」

 ばかばかしいと言わんばかりに彼女はまたため息をついた。

 素直に答えたフラジールは、余計ないことを言ったのだろうかと不安がる。

「わたくしがどうして神殿に入ったか、説明していなかったわね」

 フラジールと、そして何故かゼノンまでもが頷いた。

「この世界に落ちた時、ある人物に拾われたの。貴族の若い女だったわ。彼女はわたくしの容姿を気に入って、まるでお人形のように扱ったの」

 美しい女を気に入るのは仕方がないことだ。それよりもいきなり殺されたり、違法だが多く存在する人買いに売られたりしないだけマシだろう。

 フラジールはそう思った次の瞬間、うっと言葉に詰まった。

 美しい女がとても汚いものを見るような目でフラジールを睨んだからだ。

「まだ、何も言っておりませんが」

「言いたいことはわかるわ」

「プリーティア、続きを」

 ゼノンは興味があるという感じで続きを促した。

「・・・ある日。その女の父親がやってきたの。彼女は買い物に出ていて不在だった。父親はあろうことはわたくしの前に跪き、罵ってくれ、踏んでくれとわけのわからないことを言い出したの」

 ゼノンとフラジールは思わず我が耳を疑った。

 想像できるだろうか。世話になっている家の父親にいきなりドM発言かまされたあげく、罵られたい、踏まれたいと懇願されることの気色の悪さ。

「なんて気色の悪い変態かと思ったわ」

 しかし相手は本気だったようで、その日は何とか逃げ出したが次の日からも執拗に迫ってきた。

 だんだんとイライラが募っていき、とうとう彼女は養われている先を飛び出し神殿に逃げ込んだのだ。プリーストたちはその話を聞き心底同情した。

それがはじまりだった。

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