007 2026年4月20日(月)_02 とある警備員の独白
1999年当時、40代だった石原 修は、
その後、監視付きのまま本来のキャリアへと戻された。
警察・行政・危機管理の現場を渡り歩き、
表向きには、
“優秀な調整官”として記録に残る経歴を積み上げた。
多くは語らない。
だが、私的には、
奈良――
外なる存在、
ナイアルラトホテップに酷似した“何か”の足跡を、
長く追い続けていた。
結局、
確かな痕跡は、
ひとつも掴めなかった。
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令和元年。
定年を迎えた石原が選んだのは、
華やかな再任用でも、
顧問席でもない。
文翔館の警備業務を受託している、
民間警備会社への再就職だった。
肩書きは、
警備員。
それでよかった。
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夜の巡回。
観光客のいない時間帯。
人感センサーのログを確認し、
古い建物の壁に、
手のひらを当てる。
一般には、
閉鎖された地下施設など、存在しないことになっている。
あるのは、
ただの“エレベーター”。
だが、
石原には、
そこが入口だったことを、
知っている。
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立ち止まり、
偽装された扉を眺める。
かつて、
この先に、
世界の最前線があった。
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老いた手で、
帽子のつばを直す。
そして、
誰にも聞こえない声で、
ひとつだけ、呟く。
――これで、よかったのか。
奈良透。
彼の足跡は1999年7月をもって途絶えている。




