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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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062 2026年4月29日(水)_03 びっくり市 ~ステーキ丼でご褒美~

今日は、休日だ。


昨日の退勤時、児島さんから連絡が来た。

激戦続きだったから、六日までの連休許可。


「こないだの土日の出勤の振り替え。

山形ロボも、しばらく動かないしね」


ありがたい。

ありがたいけど、個人的に書類が溜まっていた。


だから若林さんに頼んで、司令室の自分用端末を借りた。


持ち出し申請書、四種類。

署名、チェック、二重確認。

やっぱり、こういうところは異様に厳しい。


「これ、独自規格で回線つないでるから」

若林さんは、端末の角を軽く叩いた。

「外に出た瞬間、完全オフラインになる。

同期もログも、帰還しないと一切残らないから。気をつけてね」


頷いたけど、内心ちょっと引っかかった。


見た目は、どう見ても大昔のモデル。

画面は小さいし、外装も傷だらけ。

なのに、操作すると異様に軽い。


アプリが立ち上がるのが速い。

スクロールも引っかからない。

まるで、考える前に反応してくるみたいだ。


――どういう仕組みなんだろ。


考えるのは、後回しにした。


午前。


肉の卸問屋が運営している、週末限定のショッピングセンター。

祝日対応してくれるの、正直ありがたすぎる。


冷ケースの前で、しばらく立ち尽くす。


今日はいい肉。

奮発して、ステーキ用。


ついでに、コーラも買う。

当然カロリー入り。

お酒はちょっとしばらく封印。


レジを抜けると、

なんでもない人たちが、なんでもない顔で歩いている。


それだけで、ちょっと安心する。


午後。


部屋に戻って、エプロンをつける。

フライパンを温める。

とりあえず強火で焼く。


陽葵の「常温がどうの休ませてがどうの」

そんな蘊蓄をふと思い出す。


しらん。

焼く!タレかける!食う!これが正義。


じゅう。

鼻腔をくすぐる牛脂。


ご飯をよそったどんぶりにバターと肉汁で炒めた冷凍野菜、食べやすくカットした肉を乗せ、

ドバっとタレをかける。


実は、最近はクックパッドを必ずみるよう、児島さんと武田さんから強めに言われていた。


コーラを開ける。

ぷしゅ、という音。


ソファに沈み込んで、ネトフリを起動。


溜まっていた動画が、ずらっと並ぶ。


肉汁が染みた米で頬袋を満たす。

噛み締めると肉の繊維から旨みが溢れる。


新しい推し、見つかるかな。


端末は、テーブルの隅に置いたまま。

今日は別にいいかな。


休みは沢山ある。


---


市長と県知事の一行がエレベーターに消えると、

指令室の空気が、ふっと緩んだ。


誰かが息を吐く音。

誰かが椅子に深く腰掛ける音。


更新中のラックからは、冷却ファンの低い唸りと、

光ファイバーのリンクランプが、規則正しく明滅している。


児島は、壁際に残された旧式端末を見て、首をかしげた。


「そういえばさ。

この端末、やたら動作が軽いけど、どういう仕組みなの?」


鎌田が、工具を置いて振り返る。


「ああ、あれな」


少しだけ、得意そうに言う。


「独自OSの仕様だ。

正式名称は SZHA-RT Kernel。リアルタイム処理前提の軽量カーネルで、

普通の Linux や Windows、macOS みたいな汎用GUI型OSとは、思想が違う」


児島が眉を上げる。


「思想?」


「“全部を賢くやらない”って思想だ」


鎌田は、指で空中にブロックを描く。


「このOSは、データをファイル単位じゃなくて、

ブロック単位でキャッシュする。

それも、使われた履歴をもとに、

次にアクセスされそうな情報を先読み(Predictive Prefetch)して、

RAMとオンボードSSDの両方に展開する」


「だから、開く前からもう“そこにある”状態になる」


児島は、端末を叩く。


「体感的に、考えるより先に動く感じがするのは、それか」


「そういうこと」


鎌田は続ける。


「内部的には、

非同期I/O と ゼロコピー転送 を多用してる。

CPUで処理する前に、DMA(Direct Memory Access)で

データを直接メモリに流し込むから、

OSが“待つ時間”そのものがほとんど発生しない」


児島が苦笑する。


「軍用っぽいな」


「軍用だよ」


鎌田は肩をすくめた。


「代償もある。

この仕組み、たまに“関係ない情報”までキャッシュに突っ込むんだ。

ログ、過去のセンサーデータ、使ってない映像フレーム、

ひどいときは消去済みの観測断片までな」


「でもな」


少しだけ、声が低くなる。


「戦場じゃ、

正確さよりレスポンスが優先されることもある。

0.2秒遅れた正解より、

0.01秒で出た“だいたい合ってる答え”の方が、人を生かす」


児島は、納得したように頷いた。


「なるほど……」


鎌田は、壁際の新しいラックを指す。


「今回の近代化で、

この独自OSも、上位システムと統合される」


「新しい基盤は、

Standalone Tactical AI Node(STAN)。

外部ネットワークと物理的に切り離された、完全スタンドアロン型のAI制御システムだ」


「通信は全部、

Air-Gapped Optical Network。

論理的にも物理的にも、インターネットとは接続されない」


児島は目を細める。


「石器時代から、いきなり現代にワープした感じね」


「現代、どころか一歩先だ」


鎌田は言う。


「これで、

センサーデータ、ドローン映像、PPCFの位相ログ、結界の揺らぎ、

全部リアルタイムでAIが統合解析する」


「戦術予測、

行動分岐のシミュレーション、

最適回避ルートの提示までいける」


その頃。


すでに箱を開けて、新型携帯端末を手にしている武田、今田、槌谷。


画面をタップすると、

Field Manual v2026.4 の文字が浮かび、

3Dモデルの山形ロボが、指の動きに合わせて回転する。


「うわ、これ、AR対応してる」

「装甲の内部配線まで見えるわよ」

「修理手順、動画で出るのかよ……」


若林と大沼は、その様子を見て、少し離れたところでぼやく。


「若いって、いいよなぁ」

「説明書、読む前にもう使いこなしてる」


児島が、ふと思い出したように言う。


「……あ、そういえば」


「片桐ちゃん、端末持ち出してたよね」


鎌田が顔を上げる。


「大丈夫じゃない?」


鼻で笑う。


「USBポートなし。

無線通信モジュールなし。

外部ストレージ認識機構も物理的に封鎖」


「この令和の時代に、

“情報漏らしたくても、方法がない”端末だ」


若林が、苦笑する。


「逆にロマンあるわね」


ラックのランプが、一斉に青へと切り替わる。


初期化完了。


司令部は、

もう“1999年の基地”ではなかった。



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