6:お茶会にて
やっとのことで私の机を漁った疑惑は晴らされたわけだが、早速寮の私の部屋には厄介事が持ち込まれていた。
「帰ってきて早々なんだこれ」
机の上に置いてある、豪華な封筒。大切な連絡かもしれないので、封は切らざるを得ない。ペーパーナイフを探していると、スマートフォンに透からメールがあった。探す片手間にメールを開くと、
"部屋にある封筒って何故あるか分かりますかね?部屋を間違えたのかと思ったんですけどそうでもなさそうですし。開けたら教えてください"
……私を人身御供にするつもりだな?いや、まあいい。私だって開けたくないが、生憎と手の中には探し当てたペーパーナイフを使って既に開けてしまった封筒。ここは友情の証として教えてやろうじゃないか。
「ん、何々……お茶会への参加証?しかも開けた人だけか……失敗したわ……。遠足に先駆けまして親交を深めるためにお茶会を開催いたします……。いや私、同学年とはそこそこ以上に仲良いし。目玉は……生徒会役員のダンス……!?なんだこれ」
私が笑いをこらえてメールを送ろうとすると、何かが封筒から滑り落ちた。そこには……
*
「がくえんー」
「あいどるー」
「いや、生徒会役員です」
そこかしこに聞こえる黄色い歓声に混じって、やる気のない、というかうんざりした悠里、颯天、透の声が聴こえてくる。かくいう私もかなり死んだ顔をしていると思う。
何故ならばあの封筒から落ちた紙は音響や、ステージの照明の調整を一手に引き受けさせる抜擢書だった。
今だって必死で照明をつけたり消したりと操作に忙しい。やっぱりあの理事長はもう地のはてに封印しておいた方がいいのかもしれない。
そんな忙しいところに、暢気にもゆずせんせが現れた。
「やってんなぁ。大変だろ、去年はお前がさぼったから俺がやったんだよ」
「なんですか、おちょくりに来たなら受けてたちますよ」
私が刺々しく返すと違うってと笑ったゆずせんせは、隣の椅子に腰かけて機材をいじくり始めた。
「手伝ってやろうかと思って。俺暇だし、去年で大変さもわかってるしな。」
……さっきの言葉を撤回しよう。ゆずせんせ流石すぎる。
「ありがとうございま……」
私の言葉は途中で途切れた。ゆずせんせの変なボタン操作によって。あっと思ったときにはもう遅く、押されたボタンによってどんな機能をつけたのか生徒会役員のいるステージの底が抜ける。
「あっ、間違えたわー」
「ゆずせんせー!?笑ってる場合じゃないですよ!」
そうだった。ゆずせんせは機械音痴だった。最近、えくせるってやつが使えるようになったんだよーとかいってたのを聞いた。去年は多分ゆずせんせに見張り役がついていたのだろう。
とりあえず急いで彼らを救出しないことには始まらない。私はなぜかそこにあったロープを引っ掴んでゆずせんせに押し付ける。
「私が今外に出るのは不味いので行ってきてください!ほら早く」
ゆずせんせは颯爽と出ていったので、とりあえずは放っておく。
その間にも私はどのボタンでもとに戻るのかを考えなくてはならない。試しに一つ押してみると、何とステージ上に突然大量の水が降り始めた。
……水も滴るいい男ってやつか?
私は変な思考を頭を降って払うと別のボタンを押す。
バタン!
凄い音をたてて、ゆずせんせが飛び込んでいった底が戻ってくる。彼らは乗っていないが何処にいったのだろうか。
……まあいいか。もう疲れたから部屋に戻って眠ろう。私はこのステージをもとに戻せたことだけで満足した。そう結論付けて私は椅子から立ち上がり、ふらふらと寮へ向かって歩いていった。
*
事が起きたのは部屋に帰ってから数時間たってもう寝る支度をしたところだった。ゴンゴンッとノッカーがならされる。
「……ん?こんな非常識な時間に誰だ?」
覗き穴を見てみると、何とそこには転校生ちゃん!何で!?、と思ったのも束の間、そろりと離れて居留守を使うことにする。暫くノッカーが鳴っていたが、放っておくと諦めたようで聞こえなくなった。
ほっと息をついて覗き穴を見るとなんだか暗い。そこで転校生ちゃんが寄りかかっていることに気づいて、え?ここで待つ気なの。と若干引いたが、こんなところで待たせるとあとが怖いので今起きたように装ってドアを思いっきり開いた。
突然開いたドアに反応できずに背中から部屋に転がり込む転校生ちゃんに若干の笑いを堪えつつ、
「こんな時間にどうかなさいましたか?」
と、お上品に訊ねた。
転校生ちゃんがふるふると握り拳を震わせつつ、怒ったような口調で瞳にうっすらと涙を浮かべて私に問いかけた。
「……皆がいないんだけど、貴女が何処かにやったんじゃないの?あのお茶会の後約束してたのに来ないし、寮に行っても居ない。ねえ、いくら好きだからってやっていいことと悪いことの区別くらいつけたらどうなの!?」
……え、なにそれ知らない。彼らはまだ戻ってこれてないの?しかもこの時間に男子寮いきますかね?というかその前にあれだよ、普通に好きな人に危害加えるのはおかしいでしょ、その発想が最初に出る転校生ちゃんの方が道を踏み外しかけている感じあるわ。
「なんのことでしょうか……私も生徒会役員の方々はお茶会の時しか見かけていないもので」
すると分かりやすく歪む顔。私は心の中で彼女にそんな顔をするとシワが増えるぞー、とからかいつつ、平静を装う。そんなとき遠くからこつこつと複数の足音が響いてきた。
ふと、そちらを見ると何とちょうど話題に上っていた生徒会役員ではないか。噂をすれば影とはよくいったものだ。
転校生ちゃんはさっきまでの怒りはどこへやら、彼らのもとに走っていって飛び付く。それを私は一瞥すると、さっさと面倒に巻き込まれないうちにドアを閉めて鍵をかけてベッドに潜り込んだのだった。