メイン 19 高鳴り
奧海くんが眩しく光り輝く球を手の中で潰すと、そこから光は真上へと一直線に伸びて行った。
その光は厚く張られている雲を突き抜け、少しの余韻を残すと、数瞬後にそこを中心として、全ての雲を一瞬にして散らす。
あれほど強く降りつけていた豪雨が一瞬にしてピタリと止み、時刻はもうすぐ六時を回ろうとしていたところだけど、空には夏特有の青空が一面に、そして一杯に広がった。
雲間から覗く光の道が奧海くんを照らし、『夏』によって作り出された大振りの黒い羽が光を反射して輝く。
物語の一場面を絵画によって抜きとった感じの絵になる光景。
私はそれを見て、
『あぁ、綺麗だ……』と、
心の底からそう思えた。
――そして、もう一つ。
その光景を見て、私の胸は大きく高鳴った。
私は奧海くんを見て、
『カッコ良い』と思い、
同時に、
『綺麗だ』と、そう思った。
胸が熱い。
心臓が大きく脈打つ。
人はきっとこれを『吊り橋効果』と言うだろう。
――だけど、きっとこれはそうじゃない。
と言うか、別に私はそれでも構わない。
身を挺して守られて、胸が熱くならない訳が無い。
『カッコ良い』と思って、心臓が大きく脈打たない訳が無い。
『綺麗だ』と思って、心踊らない訳が無い。
そんな事をされて、
そんな彼の姿を見て、
私が奧海くんに、
恋に落ちない訳が無いのだ。




