メイン 20 雨のち晴れ
「……ケキャケキャっ、やってくれたぜ……。全くよぉ……。このクソ餓鬼が……」
身体を霧状に崩れさせていくその過程で、アメタマは声を細く出して俺に向けてだろう言葉を吐いた。
それを無視するという手もあるにはあっただろうけれど、どういう訳か、俺は無意識の内に奴との対話を選んでいた。
「……別に、餓鬼とかクソとかは、この場合あんまり関係ないだろ。多分さ、根底にあんのは意志の強さとかそういうもんだろ? すげぇ抽象的だけど、最終的に物を言うのはそういうもんだと、俺は思う。てめぇはどうよ?」
聞くが、アメタマは「ケキャケキャ」と笑うだけで俺の問いには答えず、続けて独白の様に口を開く。
「……はっ、全く。だから餓鬼は嫌いなんだよ。わけ分かんねぇし、理屈ばっかこねるし、そういうところ我武者羅でやんなるな。ケキャケキャっ」
アメタマの独り言。
聞いちゃあいるが、その独り言には返すべき言葉が何も無い。
代わりと言っては何だが、俺はその言葉を喋ってものを考えるアメタマに、また一つ、問いを投げてみた。
答えが返って来るとは思っていないけど、それでも、一応の事、聞いてみる。
「……お前らみたいなのから見てさぁ、客観的にな、あと参考までに。俺のこの姿恰好、どう思うよ? 醜く見えたりするか? 気味が悪かったりするか?」
答えは期待していない。
元々が俺自身と血筋の問題だ。黒腕とニコの言葉は嬉しかったけど、結局は自分でこれと向き合っていくしかない。
すると、アメタマはチラリとこちらに目を向け、「ケキャケキャ」と笑った。
「……さぁな。んなもん、俺には分かんねぇよ」
それを最後に、アメタマはニヤリと口角を上げると、その身体を全て霧状へと分解させて、跡形も無く中空に消えていった。
その場に残ったのは、脳味噌と思しき人体の器官が一つ。
さぁな、か……。
別に優しい言葉なんか期待していなかった。
それでも、この問いに対して『さぁな』と返された事を、これからの人生における財産の一部にしていこう。
本当ならもう遅い時間帯なのに、日の長い夏場では、未だに太陽が高い位置にあった。
ゲリラ豪雨によってアスファルトに出来た水溜りを踏む。
空の四方に目を向けて探したけれど、これだけの豪雨だったにも関わらず、残念な事に、虹は何処にも出ていなかった。




