大きな背中
大きな背中
「大きな男になれ」
それがおいらの父ちゃんの口癖だった。
近所の村の子にいじめられて泣いていても、父ちゃんはそういっておいらの背中を撫でてくれた。
狩りがうまくいかなくて、悔しくて悔しくてどうしようもなかった時も、父ちゃんはそういっておいらに手本を見せてくれた。
大きな男になれ。
そういって、前に立つ父ちゃんの背中はとても大きくて。頼りがいがあって。それはおいらの憧れで、同時に越えられない高い高い壁でもあった。
村の自警団の副団長で、みんなからも信頼されていて。それが誇らしくもあり、同時に煩わしくもあった。
それでも、おいらは父ちゃんが大好きだった。誰よりも強くて、誰よりも優しくて。自分で言っても恥ずかしくないくらい、最高の父ちゃんだった。
早く父ちゃんみたいな、でかい男になりたいと。そう思っていた。
大きな男になれ。
そう言っていた父ちゃんは、今。
俺よりも小さくなって、地べたに這いつくばっていた。
燃え盛る村の中、数多の死体が転がる中。四肢を切断され、内臓を抉られて、はたから見ても絶対に助からないであろう重傷を負って、その場に転がっていた。それでも、かろうじて息があるのが、奇跡としか思えなかった。
「……、ル、いるのか、……そこに……」
「あ、あ……」
信じられなかった。父ちゃんが、誰かに敗れるなんて。
信じられなかった。父ちゃんを、こんなむごい姿にしてしまうなんて。
信じられなかった。父ちゃんが死ぬなんて。
「父、ちゃん……」
「ウィ……ル」
最後の最後で、父ちゃんが何かを言おうとしている。その言葉を、絶対に聞き逃すまいとおいらは父ちゃんの口元に顔を近づける。
生きて、大きな男になれ。
最後まで、父ちゃんはおいらのことを気にかけてくれた。
最後の最後まで。
大きな男になる。
それが、おいらの目標になった。生きる意味になった。
後で知ったことだけど、おいらの村を焼き払ったのは、竜教団という連中だったらしい。おいらは、そいつらに復讐を誓う。そして、そいつらを皆殺しにしたら、今度こそ。今度こそ大きな男になる。
父ちゃんの形見の片手剣を握りしめ、おいらは一人、帝都の門をくぐる。人と情報が集まるこの街で、おいらは。
絶対にデカい男になってやるんだ!




