奴隷少女 十一
今日は筆が進んだので調子こいて連続投稿してみました。誤字脱字がひどいと思うので、気になるところがあったら教えていただけると作者が嬉しいです。
それと今回、不快な表現がありますのでご注意願います。
十一
ここはどこだろう。
目を覚ました時、私は暗い部屋に押し込められていた。体を起こそうとして、手足がロープで縛られていることを知り、あたりを見回す。どうやら物置か倉庫みたいな場所のようだ。見たことの無い物で辺りが埋め尽くされている。中には武器や鎧みたいなものもあり、かと思えば全く関係のなさそうな宝石や水晶が転がっている。
しゃべろうとして、口にさるぐつわを噛まされていることを知り、私は不安になる。
必死に以前のことを思い出そうとする。
ソルさんに別れを告げられ、言葉通りに宿屋に泊り、何度かソルさんの家の近くまで行き、でもそのたびにあの時のソルさんの姿を思い出し、足がすくみ、引き返し、宿屋に泊り。次の日も向かうけど、やっぱり引き返し。そんなことを繰り返していた。
そして、たしか三日目くらいだっただろうか。ソルさんにちゃんと会って話をしようと決めて、宿屋を出たところまでは覚えているのだが……。
その後の記憶がない。しかし状況から察するに、何者かに襲われ、ここに閉じ込められているのだろう。それにしても。
(なんで私なんかを狙ったんだろう……。)
とにかく、誰かに襲われてここにいるのは確かなのだろう。もっと状況を確認しようと体をよじったところで、後頭部に鈍い痛みがズキリと響く。思わず顔をしかめ、うめき声を上げる。
ここから逃げ出したいという思いで、這いずりながら、目の前にある鉄製の扉の近くまで移動する。
その時、目の前の鉄製の扉が開き、強烈な光が私の視界を奪う。
「あ、目がさめたんだあ?」
少年のような高い声で、目の前の影が話しかける。
「ごめんねえ? ホントはもう少しスマートにすませたかったんだけどさあ。朝だったし、人目に付きそうだったから、気絶させて連れてきたんだよね。」
だんだんと光りに慣れてきた目が、目の前の少年の姿を捉える。
赤いフード付きの外套を身にまとった男が私を見下ろしていた。健康そうな肌は彼がまだ若いことを示していたが、その髪の毛は年寄りのように真っ白に染まっている。瞳は暗いブルーで、吸い込まれそうでいて、しかしどこか恐ろしさを感じる。
「うちの若いのが、どうしても君としたいって言うからさ。ここまで連れてきちゃった。」
そういう彼の後ろには、何人か見覚えのある男たちがいた。彼らは、ニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべ、上着を脱ぎすてる。
「ああ、安心して。僕はロリコンじゃないから何もしないよ。ま、彼らは随分君にご執心のようだけど。まあ、楽しんでいって。」
その言葉を聞いて、私は男たちのことを思い出す。
三日前、ソルさんの家を襲撃してきた赤フードの男たちだ。彼らは私の姿を見ながら、着ている衣服を脱ぎ始める。そしてその行動が、これから何をするつもりなのかを私に理解させる。
「んー! んー!」
「え? なになに? もう待ちきれないって? 意外と欲しがりさんだなあ、君。淫乱ってやつ? あはは、いいよ、皆ー。やっちゃって。」
やる気のない声でそう言うや否や、男たちが一斉に私に群がってくる。私の衣服をむしり取り、顔や肌を舐めまわしてくる。その不快な感覚は、私を恐怖と絶望のどん底に叩き落とす。
「んーーーー!!! んーーーーー!!!」
「あはは、気に入ってくれたかな? じゃ、みんなー。後はよろしくー。って聞いてないかー。あはははは!」
少年はそれだけ言い残すと、踵を返し視界から消える。男たちは、もはやケダモノのように鼻息を荒げ、私の衣服をむしり取ると、さるぐつわを外す。
「やめて! お願い止めて! 助けて!」
「誰も助けになんか来ねえよ! へへへ……」
「やだあああ!! たすけてえ! 誰かあ!!!」
「うるせえ!」
そう言って一人の男の拳が私のみぞおちにめり込む。呼吸が一瞬止まり、私は無抵抗になる。その間も男たちは私の残りの衣服をむしり取っていく。
「やだあ……やだあああ……!」
私は涙をこぼす。また、奴隷の時のような目に遭うのかと思うと、恐怖で頭がどうにかなりそうだった。もはやここにはケダモノしかおらず、私の声は誰の耳にも届かない。
「へへ……良い声で鳴くじゃねえか。じゃあまずは俺からだぜ。」
そう言って、全裸の男が私に飛びかかってくる。私は目を瞑り、そして……。
「うぎゃあ!」
そんな間抜けな悲鳴が聞こえる。
飛びかかってきた男は私を通り越して、反対側の壁に激突していた。
「な、なんだテメエ!?」
そう言って、男の一人が腰につけていたナイフを取り出そうとした瞬間、何者かに頭を掴まれて、そのまま地面に叩きつけられる。
グシャッという音と共に、男は動かなくなり、地面に血だまりが出来上がる。
そして部屋に入ってきたのは、一人の大男。無精ひげを蓄え、その手にはどこで拾ってきたのか、女性の足ほどの太さの丸太が握られている。
「探したぞレリィ。」
「ガルド……さん……!」
私の視界が滲む。
「さっさと帰るぞレリィ。」
そう言ってガルドさんは、手に持った丸太を一振りする。それは男たちを巻き込んで、まとめて壁に叩きつける。
「これを着ろ。」
そう言ってガルドさんは身に着けていた毛皮のコートを私に投げる。あわててそれに袖を通し、私はガルドさんにしがみつく。
「ガルドさん……ひぐっ……ガルドさん……!」
「怖かったな。もう大丈夫だ。さあ、旦那のところに帰ろう。」
「どこに行くの?」
その声を聞き、ガルドさんがとっさに振り返る。
が、遅かった。
ザシュッという斬撃音と共に、ガルドさんが一歩後ろに下がる。
「あれあれ? なんか見覚えあるぞー? んーだれだっけー?」
「ケルヴィン……テメエ!」
「あー。思い出した! ソル兄さんとこのガルドおじさんだ。久しぶりだねー。」
そう言いながら、少年はガルドさんの大腿に向けて、手に持った両刃の小剣を突き立てると、それをひねる。
「ぐおお!」
痛みにうめきながら、ガルドさんが私を倉庫の奥に突き飛ばし、丸太を少年めがけて振るう。
「遅いし!」
少年は小剣を素早く大腿から引き抜き、ガルドさんの腹部に突き立てる。
「がふっ」
「あはは。なんか弱くなっちゃったー、ガルドおじさん? でもさ、僕のペット何人か殺しちゃってるし、今から殺されても文句言えないよねー?」
感情の薄い、というよりむしろ楽しんでいるかのように言葉を吐き出す少年は、ガルドさんに刺した小剣を引き抜き、軽く蹴飛ばす。ガルドさんは横ざまに私の横に倒れ込む。
大腿と腹部、そして左肩から右側腹部にかけてつけられた傷から、おびただしい量の血があふれだす。
「ぐ……レリィ、逃げろ……旦那に、知らせろ……!」
ガルドさんが腹部の傷を抑えながらそう言う。しかし、鉄製の扉の前には少年と複数の男たちによって塞がれており、とても逃げ場などない。
「うーん。涙ぐましいねー。でも、そのままだと辛そうだし、楽にしてあげるよー。」
そんなことを言いながら、少年はガルドさんに近づく。それを見て、私はガルドさんを庇うように前に出る。
「おやおや? おじさんを庇うの?」
「もうやめて……お願いだから、もうやめて……!」
私は毅然として言い放つ。つもりだったのだが、その声は震え、膝が笑い、額からは脂汗を流しながら、涙と鼻水まみれの情けない姿で懇願する。
「んー。やだなあ。なんか僕が悪者みたいじゃないかー。」
そんなことを平然と言い放つ少年。そしてしばし悩んだような表情を作ると、彼は努めて明るくこう言った。
「あ、そうか。一人ぼっちで死ぬのはかわいそうだもんね! じゃあ、二人まとめて殺してあげるよ!」
名案を思い付いた子供の用にはしゃぐと、少年は剣を振り、まとわりついていた血液を飛ばす。
「それならさびしくないだろう? じゃ、そういうことで……。」
さようなら。と言って、少年は私に剣を振り下ろすべく、大きく振りかぶる。
「ケルヴィン!」
幻聴が聞こえた。いや、こんなとこにいるわけないと思った。
聞きなれた声だが、いつもの優しい声ではなく、とても鬼気迫った、むしろ威圧的な声。
私はこの声の主を知っている。この人のことを知っている。
私に手を差し伸べてくれた人。
私に光を与えてくれた人。
私に優しくしてくれた人。
私の、大切な人。
少年はゆっくりと振り返る。そして、嬉々とした声音でこうつぶやく。
「ソル兄さん……やっと来てくれたんだね……!」
「ああ。やっと決心がついた。……終わりにするぞ、ケルヴィン。」
鋭い怒りを瞳に宿した、私の太陽が、そこに立っていた。