1. 煉獄刑
新作です。
不定期更新の予定です。
主観延伸チャンバーに固定された僕は、排せつ装置や循環装置を装着され、その時が来るのを待っていた。
「これより刑の執行を執り行います」
執行官が感情を感じさせない声色で告げた。
そう、僕は今から心理的時間延伸刑、通称『煉獄刑』に処せられるのだ。
実時間で一か月、体感時間で三年にも及ぶ刑が執行されることになる。
医務官が無言で無針注射器を押し当てると、僕の意識は闇に沈んでいくのだった。
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夢を見た。不思議な夢だった。
僕は白い部屋にいた。百立方メートルほどの立方体の部屋だ。
『入室許可を願います!』
部屋のなかに声が響く。
「どうぞ……入って」
意図が分からなかったが許可を出した。
夢のなかの出来事だ。僕は何も知らない。
「失礼いたします。中枢直衛軍指揮官、アタラ大佐です」
長身で灰色の髪の若い女性が、壁を通り抜けるように部屋に現れた。
「ようこそ、アタラ大佐……」
「はっ。エヴェラントの次元障壁構築率の報告に参りました」
「次元障壁?」
「七つの隣接次元からの干渉を排除する障壁であります」
次元障壁について質問したら、余計に混乱させられる返事が返ってきた。
「そう……。ところで僕は何? ここはどこ?」
「……閣下は、我らが中枢統御体、壬皇であらせられます。ここは『思索の間』と呼ばれております」
アタラ大佐は平静を装ってはいるが、動揺を隠せていない。
質問の意図が分からなかったのだろう。僕は何も考えずに反射的に質問しただけだ。
「ありがとう」
「壬皇閣下。第一から第六までの次元障壁は完全に作動しております。しかし、第七は構築率七十パーセントほどで停滞しております」
「……」
彼女が何を言っているのか、まるで意味が分からない。
「分かった」
何も分からないがそう答えた。
「それでは失礼いたします」
アタラ大佐は壁をすり抜けるように立ち去った。
アタラ大佐が退室してほっと息を吐く。
手を前に出す。指を広げる。ふっくらした小さな手。まるで子供の手だ。
顔に触れてみる。もっちりした頬の感触。どんな姿なのだろう? 鏡が見たい。
『鏡はありませんが、あなたの姿を映せます。表示しますか?』
「誰!?」
頭の中で声がした。
『はあ、質問に質問を返すとは……。あなたバカなの?』
また声がした。いや、声ではないな。文字に近いか。
とりあえず、伝達したいことが伝わってくる。
「すまない。動揺してしまった。僕の姿を映してくれないか?」
『はいよ』
だんだん対応が杜撰になってきたな。
『謎』の存在が僕の姿を視界に映してくれる。
アジャイルクラフトのバーチャル表示みたいだな。
三面図と透視図の組み合わせだ。僕が右手を上げると映像の右手も上がる。リアルタイム表示だ。
映像の中の僕の姿は、七歳くらいの性別不明の子どもだった。
いや、それはいい。
それよりも背中だ。
背中に羽が生えている。これで飛ぶのは無理だとしか思えない申し訳程度の羽だ。
この羽、金色の巻き毛、性別不明。僕のイメージでは『キューピッド』が一番近い。
「なんでキューピッド?」
『知らんがな』
「はあ。僕の名はフラッシュ・バーンズ。ところでお名前を伺っても?」
『壬皇近侍、めんどいからキンジでいい』
「キンジ、僕は混乱してるんだ。これって夢じゃないの?」
『人生とは泡沫の夢であるって感じの哲学的な問答ですね分かります』
「そういうのじゃなくて……ここはどこ?」
『ここは戦略遊星エヴェラントの中枢構造体セガンタ。ちなみに今は皇歴10452年262日ね』
「やっぱり夢だ……」




