特別な日(アスラ視点→第三者視点)
エピソード113『アスラとデート(?)の約束』に絡む話です
時間軸としては、騎士科の試合を観戦するちょっと前くらいでしょうか……?
ふっふっふっふ…………。
今日は特別な日じゃ!
もう、楽しみで楽しみで、妾はここしばらく菓子も半分くらいしか食べられなかった。うれしいのう。
とうとう、この日を迎えたぞえ!
今日―――妾は、主殿と二人で街に行って甘味を食べる。
主殿と、二人っきり!
人間の街を主殿と二人だけで歩くなど……初めての体験じゃ。
いつも犬かバカ鳥、モシャ娘の誰かがいるからのう。しかも、人型で行って良いというのだから!
人型でとなると……もしかして、手をつないで一緒に歩いたりするのであろうか。
ふふ、ふふふ……わくわくするのう、ドキドキするのう!
ということで妾は、主殿のために思いっきり着飾った。せっかくなら主殿の目を妾に釘付けにしたいではないか。
準備万端で、主殿からの喚び出しを待つ。
主殿は妾と街歩きする前にいくつか済ませたい用事があるとのことで、それが終わってから妾を喚んでくれるのだ。
「アスラ」
主殿の喚ぶ声がした。
おお、待ちくたびれたぞ!
―――外の街の人気のない裏通りに主殿はいた。
妾が現れるなり、主殿の細い目がわずかに見開く。
ふふふ。
さすがの主殿もびっくりしたようじゃな。妾の美しさに目を見張っておる。
が。
「なんて格好をしているんだ、アスラ!」
主殿は厳しい声を出して、妾を抱えてさらに路地の奥へ駆け込んだ。
「今すぐ!いつものシンプルな服に変えるんだ!」
「な、何故じゃ……せっかく可愛く着飾ったのに……」
「馬鹿、一体どこの姫君のつもりだ!こんな下町でそんな格好なんかするな!」
馬鹿?
馬鹿……?!
信じられない言葉に、妾は呆然とする。まさか、主殿から馬鹿と言われるなど……。
物置の陰に妾を下ろし、主殿は大きく溜め息をついた。
「……いや、すまない、少し焦ってきつい言い方をした。アスラは、今日を楽しみにしてそんな素敵な衣装を選んでくれたんだな?」
「そうじゃ……な、なのに……馬鹿と……」
「言い方を間違えた。……そんなに可愛い格好では、街の悪い人間たちの目を引く。面倒な人間に絡まれて、甘味を食べられなくなると困るだろう?」
出会った頃よりも背の伸びた主殿が、身を屈めて妾を覗き込む。
「可愛い?」
「うん、可愛い。アスラは着飾らなくても可愛い。だから、もう少し地味な格好にしよう。可愛いアスラに絡む邪魔者が現れて欲しくない」
なるほど。
そうであったか。
妾は自身を見下ろした。
歌劇で主役のおなごが着るドレスを参考にしたのじゃが……確かに、これは街では目立つ。
致し方ない。いつもの服にしておくか……。
残念な気持ちを押し隠し、服を変化させる。
しかし、主殿はまだ困ったような顔で妾を見ている。
「まだ何か問題があるのかえ?」
「うーん……その上からフードでも被ればいいと考えていたが……それでもなんとなく目を引くんだよな……」
小さい声でぶつぶつと呟き、主殿は首を傾げた。
「もっと、普通の人間に変化することは出来るか?」
「普通、とは」
意味が分からないので、聞き返す。主殿は左手で物置の向こうを指す。
「そこらの通りを歩いているような人間」
「それは妾の美学に反する」
「そうか……」
主殿はがっくりと項垂れた。
……主殿の希望はなるべく叶えたいところであるが、妾が平凡な人間に変化することは無理である。
妾は悪魔の中の悪魔、もっとも偉大なる存在。そこに在るだけで、存在感を放つ者でなければならない。有象無象の小者たちに紛れるなど、もっての外だ。
すると、主殿が思わぬ提案をしてきた。
「では、私に変化するのは?」
「は?」
「主たる私と同じ姿になるのはどうだ?」
「主殿と……同じ……?」
むむむ。
それは……うーん……嫌と答える訳にいかぬ……。しかし……うーん……。
妾は、主殿の内面の輝きに強烈に惹かれる。
だが、外側は……正直、好みではないのだ。
というか、主殿は内と外との釣り合いがまったく取れていない。普通は、あれだけ内に美しく激しい輝きを秘めているのであれば、外もそれに見合う形になるはずであるのに。何か、妙な力でも働いているのではないかと思うほどだ。
だが、主殿は己の姿に満足している。いや、気に入っていると常々口にしている。
もしかすると、主殿が望んだからこその、あの姿なのかも知れぬ。
「なんだ、嫌なのか」
「嫌……ではないが……」
「じゃあ、仕方がない。せめて、男に変化してくれ。それなら攫われる心配をしなくていい」
むう。
やむを得まい。
その願いは、飲むか……。
※ ※ ※
翌日。
リンは同級生たちから激しい質問攻めを受けることとなった。
「リン、まさか彼氏できたの?!」
「あのカッコいい人、誰、どこの人!!どうやって出会ったの?!」
「紹介してぇぇぇ!」
(……二度とアスラと街歩きはすまい)
同級生たちに揺さぶられながら、遠い目をしてひそかに誓うリンであった―――。
一応、話はなんとなく作っていたんですが、放置していたSSを書き上げました~!
次のSSは、200話達成のときに……




