処刑配信の投げ銭は止まりません
金属のぶつかり合う音が響く。
数字がクルクルと回りながら増えていく。
コメントと投げ銭がピコンと音を立てる。
「おっと、ここでステラに三万円〜」
「ナイスパ!」
「ナイスパァ〜!」
ノアはステラのナイフをギリギリで躱していく。
「投げ銭って僕も貰えるの?」
「貰えるわけないでしょ!」
ステラの両手には十本のナイフ。
ノアの首と足へ目掛けて一直線に飛んでくる。
「おいっ投げすぎ!」
ノアはバク転で躱す。
床にはナイフが点々と突き刺さっていく。
ステラは、さらにノアの着地点に狙いを定め、ナイフを投げつける。
ノアは慌ててブリッジの体勢で止まった。
「危なっ」
「しぶとい!早く死ね!」
「冷たいな」
ノアはブリッジから立ち上がるとステラに手を伸ばす。
ゆっくりと一歩ずつ近づいた。
「ステラと僕の仲だろ」
ノアはステラの手を取り、指を絡ませた。
「僕達、うまくやれると思うんだけど……」
そのまま耳元で囁く。
「そっちの相性も──」
「却下!」
ステラは容赦なくナイフを振った。
ノアは避けきれない。
白いシャツが裂け、腹から血が飛び散った。
「いたた……うまくいくと思ったのに」
「私はそんなに軽くないっての!このクズ!」
場内では歓声が上がる。
「いいぞ!ステラこのままやっちまえー!」
「硬派なステラちゃんステキ!」
「ステラに5万円〜〜!おっと更に5万!止まらない!」
「ナイスパ〜〜」
ノリノリでカメラに向かって手を振るステラ。
ノアは静かに腹を押さえて止血していた。
「そろそろ、その首もらうから!」
ナイフをノアに向け、高々と宣言する。
歓声が上がる。
分かってはいたが完全にアウェーだった。
「ちょっ、まだ止まってない!」
「血だるまになりな!」
正面からぶつかり、金属音が鳴り響く。
ステラは後ろに飛び上がる。
銀のナイフがノアの首元に一直線に向かう。
「……うまいね、けど」
ノアは、飛んで来たナイフを短刀で塞ぐ。
カシャン。
床にナイフが落ちた。
ほぼ同時に左側からステラがナイフを突き立てる。
狙うのは、左胸。
ズブッ。
肉の裂ける音。
ポタ、ポタ。
赤い雫が床に散る。
ノアは左腕でナイフを受け止める。
「惜しかったね」
「なっ……!」
「この技は対策済みだよ」
ステラは体勢を整えるために後ろに離れる。
黒い長髪が靡く。
その髪をノアは掴んだ。
手に巻きつけ、ステラを逃がさない。
「やっと捕まえたよ、ステラ」
「……っこの!」
ナイフを振るステラの手首を掴む。
ノアが制圧した瞬間だった。
「いい顔だね」
ノアはニヤリと口角を上げる。
ステラの長い脚がノアの顔面を蹴り上げる。
しかし、ノアはあっさりと反対側の脚を払う。
バランスを崩したステラは床に尻をついた。
ステラの腕を後ろに回し、背中の上に乗る。
「さて、お仕置きの時間だよ」
さっきまでのブーイングが消え、歓声が上がる。
「こっちに顔向けてくれ〜」
「ステラちゃん可愛いよぅぅ!」
ステラは歯を食いしばり、屈辱に肩を震わせた。
その時、分厚い扉が開く。
「ノア」
聞き覚えのある低い声。
ノアは声の主に顔を向けた。
スポットライトが当たる。
立っていたのはアルヴァルト。
「義父さん……?」
「荷物は回収したよ」
アルヴァルトの後ろからひょこっとニコが顔を出した。
「ありがとうございます」
「それと、場の空気に流され判断を委ねるのはいけないよ」
「はい」
ステラは身体を起こそうと頭に力を入れる。
ノアは髪を掴んだ手で床に押し付けた。
「厳正に判断します」
モリヤのマイクが響く。
「ここでサンクチュアリの乱入ぅぅ!?」
「やはり傀儡はパパを呼んじゃう無能かぁ?」
盛り上がる場内。
アルヴァルトはくるりと踵を返す。
「では、こちらも配信中だからもう行くよ」
「はい」
アルヴァルトの背中をノアは見送る。
ノアは眩しそうに目を細めた。
「……義父さん」
「あなたの子供でよかったです」
「そうかい?」
アルヴァルトは振り向き、フッと目を細めた。
ニコはアルヴァルトの後ろをついて行く。
「ノア君、先に帰ってるね!」
ニコは大きく手を振った。
「おい!早くステラちゃんにお仕置きしろよ!」
「ずっと待ってんだぞ!」
歓声から罵倒に変わる。
「さてと」
ノアは文字通り尻に敷いたステラを覗き込む。
「……早くやれば?」
「女の子を殴るのはなあ」
「近いことしてるじゃん!」
ノアはステラの髪を離し、立ち上がる。
ステラの手を取り、目の前に立たせた。
「じゃ僕の勝ちってことで」
「それだけ?」
「うん。楽しめたでしょ?」
パァン。
突如、乾いた音が響く。
ノアの肩から血が吹き出す。
「バカ……避ければよかったのに!」
「まあ避けたらステラに当たるしね」
ステラが止血しようと手を伸ばす。
「ステラ!それ以上は裏切りと見なすぞ!」
ザビィが腕を組み、二人を見下ろす。
ノアはステラの手を制する。
「ザビィは空気が読めないなあ」
「もしかして……妬いちゃった?」
ノアはザビィを見上げ、ニヤリと笑った。
「もう、やーめた」
ステラが階段を上る。
カツン、カツンと二階の席に戻っていく。
「なんか冷めた」
ステラはストンと座ると腕を組んだ。
ハルトはニヤニヤとステラを揶揄って遊んでいた。




