拝啓ご主人様、タバコが買えません
銃口から薄らとのぼる煙。
左胸への衝撃。
遅れて届く乾いた音。
やけにスローに見えた。
(……なるほど)
くぐもった音が漏れる。
(声は出せない、か)
崩れ落ちる身体と共に視界が赤く染まった。
(あとは運次第かな)
青い瞳はゆっくりと閉じていった。
──五日前。
スマホの通話終了をタップした。
「逆探知完了」
スマホの画面には、通信会社の発信元データ。
流れる文字を追う。
窓を開け、タバコを咥える。
火をつけると細い煙が夕焼け空に消えていく。
小さく息を吐き、スマホをポケットにしまった。
発信元は、エクリプスの拠点。
「裏切り……かな」
小さく呟いた。
玄関に向かい、座って靴を履いた。
ヒロが眉を寄せながら手を取る。
「ノア、命令だ」
「……絶対帰って来い!」
ヒロの握る手にぎゅっと力が入った。
フッと笑い、軽く握り返す。
「了解」
ヒロの後ろで見守るサクラに目で合図を送り、玄関を出て行く。
扉がゆっくりと閉まる。
パタン。
ノアは大きく息を吐いた。
「行くの、だる……」
ポケットからタバコを取り出し、火をつける。
軽く煙を吐くと、駅へ向かって歩き出した。
手元のタバコを覗き込む。
「あと三本か……買ってこ」
駅前のコンビニでレジに並ぶ。
「166カートンで」
「身分証お願いします」
「えっ」
「身分証がないと販売出来ません」
「いやいや、いっつも買ってるし」
品出しする年配の店員に声をかける。
「濱さん!僕いつもここで買ってるよね」
年配の店員はゆっくりとレジに向かうと張り紙を指差した。
「ごめんねぇ」
「最近マナーが悪いって本部にクレーム入っちゃってさ」
張り紙には駐車場でイキる若者の写真。
顔は隠されているが、手にはタバコと酒が見えた。
「……身分証もってない」
「じゃあまた来てよ」
「こいつら消すから売ってよ!」
「……けす?」
「濱さん!一箱でいいから」
「ごめんねぇ」
「……」
必死な交渉も無駄に終わり、ノアはトボトボと駅の改札を通って行った。
電車を降り、駅を出る。
タバコを取り出し、火をつけた。
「あと二本……」
キョロキョロと辺りを見回し、一軒のコンビニを見つける。
「ラストチャンス!」
真剣な目で自動ドアをくぐった。
一分後、ノアは項垂れて店を後にした。
ポケットに手を入れタバコを握りしめ、ひたすらに道を行く。
「一本はニコ救出のご褒美にして、あと一本か……」
「今回の戦いはキツイかもな」
ツッコミは不在だった。
日が落ちた、薄暗い道。
工場地帯の照明がキラキラと輝く。
金網で囲まれた敷地に侵入していく。
「もう少し駅近にしとけばよかったな」
ノアの口から愚痴が漏れる。
カチャッ。
背後から聞き慣れた金属音。
「動くな!」
くるりと振り向く。
「僕に言ってる?」
「お前しかいないだろ!」
ノアは静止を無視してスタスタと近づく。
引き金が引かれる。
その瞬間。
銃を持つ手を蹴り上げ、そのまま肩に踵を落とす。
背後に立ち、男の腕を後ろに回し捻り上げる。
呻き声と共に、手から銃がこぼれ落ちた。
「おっ。これ貸して」
男を盾にしながら迎え撃つ。
パァン。
渇いた音。
何度も。
何度も響き渡る。
「や、やめ、う、撃つなぁぁ!」
情けない男の声が響いていた。
「……うるさ」
銃のグリップで男の後頭部を殴る。
力なく堕ちた。
あたりには戦闘員達の山が出来ていた。
ノアは一人ずつポケットの確認をして行く。
「……まじで」
「一人も持ってない」
ノアは一面の星空を見上げた。
「もしかして、ここって禁煙……」
夜風が金色の髪を揺らしていた。




