103/103
エピローグ
氷の世界は、静かに息を吹き返していた。
砕け散った氷の玉座の欠片は、日の光を受けてきらめき、暗闇を追いやるように光を放つ。
アッシュ=ヴァーンは膝の震えを押さえながら立ち上がった。
二十年の氷獄を経て戻った影の英雄。だが今の彼は、もうソウルベアラーではない。
胸の奥で燃えていた灰色の炎は消えた。残ったのは――守り抜いた者たちへの想いと、人間としての意志だけだった。
遠く、戦いの跡に集まる仲間たちの顔が見える。
彼らの瞳は、まだ信じられないという驚きと、安堵に満ちていた。
アッシュはゆっくりと前を見据える。
かすれた声で呟く。
「……エリシア、イグナ……ありがとう」
声には、失われた仲間への敬意と感謝、そして未来への決意がすべて込められていた。
氷の世界の裂け目から、太陽の光が差し込む。
冷たく閉ざされていた大地に温もりが戻る。かすかな風が頬を撫でる。
灰色の炎は消えた。
だが、守るべき意志は確かに生き続けていた。
英雄としての力はもうない。
残ったのは、人間として立ち上がる力――ただそれだけ。
アッシュは歩き出す。
自分の足で、未来を切り開くために。
世界は、もう止まってはいない。
そして、その背には――失った仲間たちの想いが静かに、力強く寄り添っていた。




