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守り抜いた先で 〜完〜

氷の刃が胸を裂いた瞬間、

アッシュの身体は確かに限界を超えていた。


血が滴る。

呼吸は荒い。

視界は揺れる。


それでも――

アッシュは前に出た。


それはソウルベアラーとしての炎の力ではない。


ただの人間としての一歩。


その一歩が、氷の世界にひびを入れた。


グラキエスの瞳が揺れる。


「……まだ立つのですか」


アッシュは答えない。

答える余裕など、もう残っていない。


ただ、胸の奥で燃える“意志”だけが、

身体を前へ押し出していた。


黒炎が灯る。

白炎が灯る。


だが、それらはもう“力”ではなかった。


アッシュの生き方そのものが、炎になっていた。


灰色の炎が静かに揺れる。


派手な爆発も、轟音もない。

ただ、静かに、確かに燃えている。


グラキエスはその炎を見て、

初めて“恐れ”に似た感情を抱いた。


「……これは……炎ではない……

 あなたという存在そのもの……?」


アッシュは踏み込む。


その足取りは重く、

ふらつき、

今にも倒れそうだった。


だが――止まらない。


「俺は……守ると決めた……

 だから……止まらない……!」


灰色の炎が、アッシュの背中を押す。


黒焔剣と白煌剣は、

もはや武器としての形を保っていなかった。


刃は折れ、

柄はひび割れ、

形はほとんど残っていない。


それでもアッシュは、

その二本を握りしめた。


(……これで……終わらせる……)


グラキエスが氷の翼を広げる。


「来なさい、アッシュ。

 あなたの“意志”がどこまで届くのか……

 この私が見届けましょう」


アッシュは最後の一歩を踏み出した。


灰色の炎が、静かに燃え上がる。


黒焔剣が“破壊”を宿し、

白煌剣が“断絶”を宿し、

二つの軌跡が重なる。


「――うおおおおおおおッ!!」


灰色の閃光が走った。


氷の翼が砕ける。

氷の核が露わになる。

世界が震える。


グラキエスは腕を交差して受ける。


だが――

受けきれなかった。


灰色の炎が、静かに、確かに――

“停止”を焼き越えていく。


「……そうか……」


グラキエスが、初めて小さく息を吐いた。


「止められぬものがあるとすれば……

 それは“力”ではなく……」


崩れゆく身体の中で、

その瞳は、どこか穏やかだった。


「……“進み続ける意志”なのですね……」


終焉の炎が、グラキエスを包み込む。


破壊ではない。

浄化でもない。


“終わり”を与える炎。


グラキエスの身体が光に溶けていく。


「……見事です……アッシュ……」


最後に、魔王グラキエスは微かに笑った。


「どうか……守り抜いてください……

 あなたの……世界を……」


光が弾けた。


氷の玉座が砕け、

氷の世界が崩れ落ち、

静寂が訪れる。


アッシュは膝をついた。


終焉の炎はゆっくりと消え、

アッシュの髪は、黒髪のただの人間へと戻っていく。


(……終わった……)


遠くから仲間たちの声が聞こえる。


「アッシュ殿!!」

「大丈夫ですか!!」

「生きていてくれ!」


その声に、アッシュはゆっくりと顔を上げた。


「……ああ……」


かすれた声だった。

それでも、確かに言葉になった。


「生きて……守れた……」


灰色の炎の残滓が、かすかに揺れる。


それはもう、力ではない。

奇跡でもない。


ただ――

確かにそこにあった“意志”の名残。


アッシュはゆっくりと立ち上がる。


足は震えていた。

それでも、前を向く。


「……エリシア……イグナ……」


わずかに、息が詰まる。


「……ありがとう」


アッシュは胸の奥で燃える意志を握りしめ、

ゆっくりと、しかし確かに前を見据えた。


「これからは……自分の足で……進む」


崩れた玉座の向こう、

差し込む光が、氷の欠片に反射する。


世界は、もう止まっていない。


すべては、再び動き始めていた。


――そしてその中心で、

一人の男が、確かに歩き出す。


灰色の炎は消えた。


だがその意志だけは、

決して消えることはなかった。

もう、何ものにも止められはしなかった。

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