終焉の初撃
魔王城最奥――氷の玉座の間。
終焉の炎を纏ったアッシュと、
新たな魔王グラキエス=ノクティスが対峙する。
空気が軋む。
否――
空間そのものが、二人の存在に耐えきれず歪んでいた。
グラキエスは静かに一歩踏み出す。
「……氷を破るとは。
やはりあなたは、“あの時のまま”ではない」
その声に、わずかな愉悦が混じる。
「黒と白……
相反する力を重ねたのですか」
氷の翼がゆっくりと広がる。
「ですが――それでも、まだ届きませんよ」
次の瞬間。
空間が“凍った”。
音も、光も、魔力の流れさえも停止する。
絶対零度。
それはもはや冷気ではない。
“現象の停止”そのものだった。
アッシュは動く。
「――遅い!」
終焉の炎が爆ぜ、
凍りついた空間を“内側から焼き砕く”。
踏み込む。
一瞬で間合いを詰め、
黒焔剣と白煌剣が交差する。
「――断ち切る!!」
灰色の斬撃が奔る。
だが――
「……甘い」
グラキエスは指先で、その斬撃を受け止めた。
否、正確には――
“凍らせた”。
斬撃そのものが空中で停止し、
氷結し、砕け散る。
アッシュの目が揺れる。
(斬撃を……止めた……!?)
グラキエスが一歩前に出る。
「あなたの力は理解しました」
手をかざす。
「ならば――こちらも応えましょう」
氷の翼が、無数に分裂する。
空間一面に、
数えきれないほどの氷刃が展開された。
「《終界凍結・ニヴルヘイム》」
世界が、閉じる。
氷刃が一斉に降り注ぐ。
アッシュは踏み込む。
「来い――!」
終焉の炎が爆発的に広がる。
黒炎が氷を砕き、
白炎が凍結を無効化し、
灰色の炎がすべてを押し返す。
だが――
数が違う。
一枚、二枚、三枚――
防ぎきれない氷刃が身体を掠める。
血が舞う。
「くっ……!」
それでも止まらない。
アッシュは突き進む。
一歩。
また一歩。
氷を砕きながら、前へ。
「……なぜ進めるのですか」
グラキエスが、初めて僅かに眉をひそめる。
アッシュは答えない。
ただ、踏み込む。
「――守ると決めたからだ!!」
終焉の炎が爆ぜた。
一瞬で距離を詰める。
交差。
黒焔剣が“破壊”し、
白煌剣が“断つ”。
灰色の軌跡が、一直線に走る。
グラキエスは腕で受ける。
氷が砕ける。
――初めて。
その身体が、わずかに後退した。
静寂。
グラキエスは自らの腕を見る。
砕けた氷の下から、
わずかに“血”が滲んでいた。
「……なるほど」
その声は、今までとは違った。
静かで、
冷たく、
そして――確かに“興味”ではない何かを含んでいた。
「ようやく……“戦い”になりますね」
氷の翼が、さらに巨大に広がる。
玉座の間を越え、
魔王城そのものを覆うほどに。
外の空が、凍りつく。
グラキエスの瞳が、深く染まる。
「抗うなら、抗いなさい」
「この世界ごと凍らせた上で――
あなたを終わらせてあげます」
アッシュは剣を握り直す。
終焉の炎が、静かに燃え上がる。
「……上等だ」
次の瞬間――
二つの力が、正面から激突した。
世界が、悲鳴を上げた。




