第40話 隕石の贈り物
目を通して頂き有難うございます。
「ちょっとジェニーって誰よ!」
サリーがプンスカ怒った。
「サリーさん私から説明しまーす。今日はお二人に暫くお別れを言いに戻って来ました、座っても良いですか?」
ジェニーの神妙な様子にサリーも怒気を抜かれた様に座った。
サリーはジェニーの話を深く聞き入っていた。
ジェニーはF.B.Iにゴールドマンと自分の居場所を通報したらしい。
「明日、私たちは同時に逮捕される予定でーす。」
「ジャネッ じゃなかったジェニー、何も其処までしなくても...」
「おー、此れが私に出来る精一杯です、POJOの為に全力を尽くしたいのでーす。」
「POJOさんが殺されただなんて...酷いわ。」
「サリーさんにお願いがありまーす。しばらくこの物件の大家さんを引き受けて欲しいでーす。実際の管理は管理会社に任せて貰って空き部屋の掃除とゴミ収集場の管理くらいですが報酬は家賃収入の一部が振り込まれる様にしまーすので書類を書いて欲しいでーす。」
「今度はサリーが大家さんになるのか?」
「浮気したら追い出してやる。」
「…いや、まだ付き合ってないだろう?」
「もう一つお願いがありまーす。レディーJをお願いしまーす。あれはちょっと特殊で部屋のPCでしか起動できない様にプロテクトが掛かって居まーす。ちょっとお耳を拝借でーす。」
ジェニーは普段通りだった。
サリーは耳打ちされ何か驚いて聞き返していた様だった。
『第2試合の勝者は!』
おっと、気を取られていて試合を見て居なかった。
『オモンディ氏!』
やはりアフリカ大陸NO.1は伊達では無かった。体力を2/3残しての勝利だった。
「剣ちゃん残念だったね。」
サリーがポツリと呟いた。知り合いみたいだが俺の記憶には該当者がいない。
「さあ、荷物を移動しましょう、ジェニーのPCも馬ちゃんの部屋に運ぶから。」
◇
サリーが帰った。ジェニーにお休みを言った。翌朝ジェニーは普段と変わらぬ様子で出かけて行った。
昨日の1回戦はほぼ順当だった。台風の目は驚くべき低レベルにも拘わらず驚異的なパワーで1回戦を突破した漆黒の戦士デビル×××。
①オモンディ,アフリカ大陸 ,lv332
②カオス,アジアオセアニア大陸東部,lv331
③MR.POJO,アメリカ大陸,lv335
④デビル×××,アメリカ大陸,lv191(本戦初出場)
⑤オイルフェンス,アメリカ大陸,lv291(本戦初出場)
⑥PKG,アジアオセアニア大陸西部,lv291
くじ引きの結果①-②の勝者が③と対戦、④-⑤の勝者が⑥と対戦となった。POJOとPKGという優勝候補が二人共強いくじ運を見せつけた形となった。
「カオスさんと同じブロックか...くそっ」
デビル×××と化した馬之助を止めたかった俺は仲間のカオスさんと同じブロックを引いて悪態を付いた。
『第2回戦第1試合開始!』
「カオスさん、頑張れー!」
隣でレディーJを開いたPCといつも通り赤いドレスのサリーちゃんを開いたノートを2台並べてサリーがカオスさんを応援している。
「会場まで行きたかったなあ」
「まあ、こっちのPCで見ればいいよ。特等席に座っているから。」
POJOは貴賓席の椅子に座り微動だにせず試合を見つめている。
『Mr.アフリカ!出し惜しみは出来まい、私の最新兵器を食らって貰おう!』
『Mr.カオス!望むところだ!千匹の獅子を纏める師子王すら打倒した我が槍を受けるが良い!』
互いの口上に会場が湧く。カオス氏は漆黒の黒刀を仕舞うとごつい手甲を取り出し両手にはめた。両手だけが金属で出来た巨大ゴリラに見えてくる。
『その重そうな手甲で我が槍が止められる物かっ!』
お互い全身鎧である。オモンディは装甲が薄そうな脇腹辺りを集中的に突いて来た。
カオス氏は手甲を盾に弾いているが全てでは無い。
『どうしたっ!』
槍の速度が上がる。しかしここで防戦一方かと思われたカオス氏が片手剣を両手に取り出す。それは剣というには短く幅広で先の尖ったチェーンソーか細長い盾の様な形をしていた。解説者はジャマハダルと説明していた。
金属ゴリラの両手に鉛色に鈍く光るジャマハダル、異様な出で立ちのカオス氏が叫ぶ
『Go!』
その瞬間、両手甲の背面から炎が噴射しカオス氏はジャマハダルを掲げたまま水平にオモンディーへ向かって飛び出した。
弾かれた槍を引き戻すのと同じ速度でカオス氏がオモンディーに切っ先を叩き込む。
『ズガン!』
オモンディの鎧に大きな裂傷が付き、体力ゲージを大きく減らした。
『!! 何だその金属は?』
オモンディ氏の鎧はオリハルコン色。この世界で一番頑丈な素材の筈。
『まさか、アダマンタイトの精製に成功したと言うのか?!』
オモンディは可成り焦っている様だった。
『これは、アダマンタイトではない。その上を行く幻の金属ロンズデーライトだ!流星イベントで隕石を採取した時に偶々見つけた極レア素材、世界中探しても剣を作れたのは俺だけだろう、くらえっっ!』
オモンディは自慢の槍でジャマハダルを弾くが体ごと突っ込んでこられると体を入れ替える隙に攻撃を許してしまう。とうとう一か八か防御をすてカオス氏の喉元向けて槍を渾入する。
『勝者!カオス氏!東部所属ー!』
すごい、カオスさん。その武器ならいくらデビル×××のパワーが上がっても鎧毎串刺しにできる。その前にPOJOと戦わなくては行けないが…
負けちゃおうか?負けてカオスさんに任せちゃおうか?
「バン!」
背中に張り手を食らった。
「ワザと負けたら後でチクるから...」
「ぐっ!!王者がそんな事する訳ないじゃないか…」
「どうだかー?中身が馬ちゃんだし。」
「どっちを応援するんだ?」
「そりゃあ自分の所のGMに決まっているでしょう。」
そこはお世辞でも俺を応援すると言って欲しかった。
しかし明日はカオスさんと対戦か~おっかなビックリな気分である。
『第2試合を始めます!』
今日はこの2試合で終わりである。
期待のダークホース、デビル×××(lv191) の登場に会場のボルテージも最高潮だ。
一方のオイルフェンス(lv291)は予選会で一度デビル×××に敗北を喫しての本戦出場である。予選での雪辱を晴らす為最初からガンガン攻撃して来ることも予想された。
『それでは、始め!!カーン!』
ゴングが鳴った。片や漆黒の魔槍を正中に構え、片や薄紫がかった金色のオリハルコンで出来た長剣を右肩に背負う様に構える。
『lv200にも満たないひよっ子が、装備だけで勝てると思うなよ?』
『■そういう貴様はレベルが高いだけで勝てるのかな?』
『けっ!大事な試合にオートモードとはふざけた奴だ!ブルってしょんべんにでも行っているのか?構わねえ、死ねぇー!!』
オイルフェンスは雨後の竹の子の様に死亡フラグを生え散らかして突進する。
彼の剣は光を帯びて居てスキルを発動している事が明白だった。
オリハルコンの長刀+スキルでは普通の武器で受けたら受けた武器毎切り裂かれてしまうだろう。普通の武器ならば…。
『ガシャン!』
『くっ貴様!その槍は何で出来ている?』
『この槍は0から出来ている。もう直ぐこの世界も無に帰る、死ねぃっ!』
長剣を受けとめた槍で螺旋を描く様に剣を絡め取るとデビル×××はその太い腕と膂力でもってオイルフェンスの両手から長剣を弾き飛ばしてしまった。
『ばっばかな?!この俺が力負けする等…』
驚愕の余り一瞬無防備になったオイルフェンス。
デビル×××はその隙を見逃さず、最短の動きで魔槍を横殴りに振った。
『ガシャン!』
場外に叩き落とされたオイルフェンスは直ぐに起き上がると、飛ばされた剣を取りに場外を走り出した。
因みに場外負けは無い。20秒以内に戻らなければ一旦試合を中断してお互い中央に戻って再開というルールになっている。
『びゅんっ!ギャッ!ズゴッ!!』
そして場外にいる敵を攻撃しては行けないと言うルールも無い。
デビル×××は走り出したオイルフェンス目がけて魔槍を全力投擲、凄まじい筋力で投げ出された槍は敵の甲冑を貫き地面に突き刺さった。
串刺しになったオイルフェンスは驚きに体を震わせながらも槍を引き抜こうとするが、その間にHPがどんどん減って行く。
『勝者、デビル×××!』
『あの二人、予選会から更に差が付いた感じだな。』
隣に座って居るMr.PKG氏が話しかけて来た。
『次は君が彼と当たる事になる。大丈夫か?』
『おいおい、Mr.ONE。あんなポッと出の奴との対戦を心配されるほどサボっちゃいないぜ?それより、アンタこそカオスの新必殺技を躱せるのか?そっちの方を心配しな。』
『うむ、お互い頑張ろう。』
いい感じで会話を締めた積りだった。だがPKGはニコリともせずに席を立つと控室に引っ込んで行ってしまった。
何か悪い事言ってしまったんだろうか?と気にしながらPOJOも席を立つ。
そこにカオス氏が走り寄って来た。
『Mr.ONE!私の戦いをご覧になって頂けたでしょうか?明日は胸をお借りします、宜しくお願いします!』
カオスさんにとってPOJOは憧れの人だ。間違っても中に入っているのが別人だとバレてはいけなかった。確かPOJO氏はカオスさんの事を"Mr.ケイオス”と呼んでいた..。
『Mr.ケイオス。素晴らしい戦いだった。明日は互いに全力を尽くして頑張ろう!』
騙している事が心苦しい。
俺は逃げる様に控室へと急いだ。
◇
翌日、朝から大賑わいの会場で試合前にインタビューを受ける準決勝進出者4人。
普通こういうのは前日の夜じゃ無いのか?
インタビューの方は何とかばれない様にそれっぽく、しかし手短に返事をして難を乗り切った。
『それでは準決勝第1試合、王者Mr.ONEー! vs 極東の彗星、Mr.カオスーー!』
カオスさんの紹介...極東は分かるが彗星ってなんだ?
『えー、放送をお聞きの皆さまには説明させていただきます。昨日カオス選手の使った技は新技登録されまして、名称は”彗星パンチ”だそうです。』
『それで二つ名に彗星の文字が入った訳ですね、解説の”パンパリーナ”さん』
『はい、その通りです。』
『では、パンパリーナさん。この試合の見どころについて早速解説頂けますか?』
『良い事を聞いて頂きました、ボムニンさん。今回の見どころは昨年王者に惜敗したカオス選手が第2試合で見せた新必殺技で何処まで王者を追い詰めれるかという所に掛かっているのですが...実は前情報で絶対王者Mr.ONEは入院中でベストコンディションでは無いという情報が入って来ています。』
『大丈夫でしょうか?この放送は試合前の二人には...』
『武台に乗った二人はセコンド以外の雑音はOFFにしていると思われますので大丈夫です。もし聞こえていたとしてもカオス選手は手を抜いたりはしないでしょう。』
『何故でしょうか?』
『其れだけ王者を尊敬し、信頼しているからです。』
『成程ー。』
「ごめん、雑音の切り方教えてくれ...。こっちは素人なんだよっ!」
パソコンの前であたふたする俺。
今日はサリーも居ないので誰かに聞くことも出来ない。
『さあ、試合開始の様です。王者は未だ剣を出して居ません。余裕なのでしょうか?』
言われて慌てて腰のシークレットボックスから聖剣シノマロムナを出して構える。
カオスさんは既にジャマハダル両手に構えている。
『始め!』
『俺の彗星ガントレットとドラ〇ンキ〇ーを受けて貰います!』
カオスさん、ドラ〇ンキ〇ーは著作権に引っかかるから公式大会で言っちゃダメー!
まあ、形は確かにそんな感じだけど。
『彗星パーンチ!!』
開始早々カオスさんのガントレットから白青の炎が噴き出す。
自らも地面を蹴って、ジャマハダルを突き出したままウル〇ラマンの様に突っ込んで来た。
(つづく)
遅く成りましたが評価・ブクマを頂きまして大変有難うございます。
最後まで続けれる様頑張ります。




