86話 あらあら、死の宣告ですって
敵の能力が明らかになったのは良かった……はず? と、言うのも。
私とハチは、ちんぷんかんぷんだったのよね。
ロクはマリアの能力だけなら、理解できたみたい。
彼らの能力をパーフェクトに理解できたのは竜だけ。
その能力は、とても異世界人らしいと言えるわね。
竜が詳しく、説明してくれたわ。
まずは、マリアこと北岡真理亜。
彼女の能力は“祈り”。
頭の中に突然、未来のビジョンが浮かび、祈りのポーズをする事で改変できるようなの。
驚きの力よね。
まぁ、自分の事のみの制約はあるにしても、未来改変は最強能力だと思うわ。
次に、彼氏のヒデこと岩城秀幸 。
彼の能力は“硬化軟化”と言うらしいの。
触れた物や人を硬い性質にかえたり、柔らかい性質に変える事ができるらしいわ。
竜、曰く。
「柔らかい布を鉄の棒みたいな硬い物に変えていた。1番、問題だったのが、自身の体を硬い物質に変えることができる事なんだ。見た目には何も変わらないのに、硬い身体に変わってる。素手なのに、硬い石で殴られた様なの攻撃を受けるんだ。正直、戦いづらかったですよ」
だって。
なるほどね。
見た目が変わらない……この事は、重要ポイントよね。
次はミッチーこと地田幹夫。
彼は“裁縫師”ですって。
裁縫よ!
洋裁かしら? 和裁かしら?
などと思ったら、似て非なるものだったの。
この能力は、魔力を糸状に出して色んなものを縫い止め操る技なの。
傀儡にして戦わせていたみたい。
この技は何が厄介かって、味方と戦わされる事。
悍ましいわね。
実際に戦った竜は、精神的に多大なるダメージを受けたと言っていたわ。
それもそうよね。
味方だもの。
こちらから、攻撃はできないわ。
でも、向こうからは攻撃される。
しかも、全力の攻撃がね。
一方的にやられるしかない状況。
それでも、弱点はあるものよ。
それは……火。
火属性に弱かったみたいなの。
で・も・ね!
彼の能力はこれだけにあらず。
魔力の糸で、色んな物を縫い止め即席の武器を作っていたみたいなの。
厄介極まりないわね。
次はマンプクこと楽満俊哉 。
彼の能力は“冷蔵庫”。
はぁ? なにそれ? ?と思ったんだけれど、最悪の能力だったみたいなの。
冷蔵庫。
……食料品等の物品を低温で保管することを目的とした製品である……。
この文の、食料品を何でもに変えて、製品を人物に置き換えたのが、能力“冷蔵庫”らしいわ。
……何でも等の物品を低温で保管することを目的とした人物である……。
分かったような〜。
分からないような〜。
複雑よね。
でも竜にとって、マリアに次ぐ憎むべき敵みたいなの。
この男こそ、多くの仲間を平らげた魔人だったようね。
ありえない程の大口で、次から次へと丸呑みしていく様は、子供の頃に遊んだ施設、ドーム型エアートランポリンの入り口みたいだったらしいわ。
そう言えば、竜坊が遊園地に行くと、何時間もその施設で遊んでいたわね。
あの頃は、可愛かったわ。
和んでいる場合では無いわね。
この“冷蔵庫”の嫌らしいところは、保管だけではないみたいなの。
魔力として取り込んだり、貯蓄したり、他の人に魔力を加工して分け与えたりと、冷蔵庫としての機能そのままに、電子レンジの役割も果たしていたみたい。
チンするだけで何でもできる!
主婦の右腕よね。
厚い脂肪に守られ、すばしっこく動く様は、自立して掃除をする機会にも通じる物があるそうよ。
本気で厄介よね。
最後は刀祢昌利 。
彼の能力は“死の宣告”。
私的には“冷蔵庫”と同じくらい訳の分からない能力よね。
“死の宣告”は、自身の身体に血文字で名前を書くだけで殺す事が出来る技。
殺害方法を書くことで、殺す事も、その為の道具も出せるんですって。
これだけ聞いても分かんないわ!
竜にしても同じだったみたい。
目を白黒していたら、刀祢昌利 はご丁寧に説明してくれたらしいわ。
その行為もイ・ミ・フゥ〜、よね。
それだけ、絶対的自信があったようよ。
そして、実演してくれたらしいわ。
最悪な形でね。
彼は親指を傷付け、自分の腕に“龍王以外の魔物毒殺”そう書いたらしいの?
その途端、竜の周りにいたリザードン達が泡を吹き倒れていったんですって。
それは、あっという間の出来事だったそうよ。
その後、“龍王の右大腿部表皮5裂傷”。
そう書いたら、竜の右太ももに5cm位の傷口がパックリ開いたそうよ。
そこから先は、次から次に傷が増えて行ったみたい。
おそらく、書いた事が現実になる能力。
それを嗤いながらしたそうよ。
遊んでいたのね。
悪趣味だわ。
そして、マリアの呪いはこの男の仕業よね。
はぁ〜、何とかならないかしら?
そのマリアから狂った原因を聞いたわ。
彼等は追い詰められていたの。
右も左も分からない! 言葉も通じ無い! 人すら居ない!
こんな世界で、渡来者が生きていけるわけ無いわ。
私なら無理ね。
彼等はブラックウルフに追い立てられ、生きる為に開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまった。
洞窟の奥。
暗闇の中。
何かが崩れる音。
薄まる闇。
うねる黒い津波。
そして……。
『・・・! ! チィ、言えねぇのかよ! いい加減にしろよ! お前らが根源だろうが! ・・・! ! この世界を! 神のゆりかごを! 壊すきか! !』
トッシュの叫びから導き出される答えは……1つ。
「トッシュ。答えなくていいわ。頷いてちょうだい」
私の言葉で現れたのは、前紅蓮の龍王。
彼は竜の中にいる、もう1人の人格者。
誰を愛していたのか分からなくなり錯乱している竜に変わり、姿を見せてくれたわ。
その姿を確認した私は、続きを話しだしたの。
「刀祢昌利 は、龍の祠にある勾玉を呑み込んだのね。属性は黒。禍々しいまでの黒に支配されてしまった……のね」
この言葉を聞き、トッシュは大きく頷いたわ。
そして気になる事といえば、言ってはいけない言葉よね?
「ねぇ、トッシュ。龍の勾玉を取り込むと、支配されるの? 何を口にしてはいけないの? 誰が口止めをしているの? 特殊魔術の呪いは解けないの?」
「ナナ、ストップ! そう一気に質問するな! 答えきれん。最後の質問は、俺じゃ無理だ。ルバー辺りが適任だろう。最初の質問は……龍の魔力は危険なんだ。神の力を、人の身で制御できるわけ無い。それに、話を聞く限りでは、心身ともに追い詰められてきたと聞く。そんな状態では、龍の魔力に支配されても仕方がないだろう。次に、口にしてはいけない言葉とは……まだ、言えん。もう少し待ってほしい。張本人に話を付けてくる。それまで、待ってほしい……待ってほしい」
最後は3回も同じ事を言ったわ。
だったらこの話は、終わりね。
さぁ! 本題に入るわよ !その前に。
〈「忠凶。忠凶、聞こえてる?」〉
〈『はっ』〉
〈「ルバー様を連れてきてもらっていいかしら? 今から一筆書わ」〉
〈『一筆は必要ございません』〉
〈「え? どうするの?」〉
〈『我々で話し合った結果。伝言カードを作り、お見せすることで意思を迅速に伝えるよう考査いたしました。そのカードを用い、連れて参ります』〉
〈「そ、そうなのね。よ、よろしく」〉
〈『はっ』〉
何でも考える子達ね。
よくやるわ。
ルバー様が来る前に、竜の方を何とかしないと駄目ね。
「トッシュ。竜と変わってくれる?」
「無理だ。完全にヘソを曲げてやがる」
「でも、声は聞こえているはずよね」
「だなぁ」
はぁ〜。
気持ちは理解しているわ。
なんせ、初恋で結婚まで考えた相手からの裏切り。
目の前で、仲間を殺され捕食される姿。
100年の恋も冷めるわね。
彼が愛しのはシャルル。
北岡真理亜では無い、もう1人の魔人……の、はずだった。
でもね。
氷炎の魔人シャルルは、ロクの飼主のシャルルでは無く、マリアの苦しみとシャルルの優しさが生み出した人格だったの。
解離性同一性障害。
昔で言うところの多重人格よね。
マリアにとって人食こそが、心を壊す行いだったの。
当たり前よ!
誰だって壊れるわ! !
その心を護る為に形成された人格がシャルルだったの。
ロクが愛したシャルルの姿を模したのは、そこに造形があったからよね。
だから、竜が愛した女性はシャルルでは無くてマリアだったのよ。
そのことを知った竜は……。
「だったら……だったら! 僕と愛し合ったシャルルは何者なんだ!」
と、心からの叫びを上げたのよ。
それに思わず私が余計な一言を言ったのよね。
「貴方が愛した女性は……紛れもなく北岡真理亜よ!」
はぁ〜。
もっと違う言い方があったよね。
我ながら情けないわ。
はぁ〜。
今でも2人は愛し合っているし、想い合っている。
傍から見て、一目瞭然だわ。
憎しみだけで終わらせたく無いわね。
私はマリアに、もう一杯ミルクティーを入れてあげたわ。
トッシュの中にいる、竜へ話しかえる前に確かめたい事があったの。
私は落ち着いたマリアに話しかけたわ。
「マリア。貴女は何故、正気に戻れたの」
「それは……」
恥ずかしそうに、カップに浮かぶトッシュの顔を見つめながら話しだしたわ。
うふふ、トッシュでは無くて、彼女には竜に見えていたでしょうね。
「そ、それは……。竜と話したくて。側にいたくて。と、兎に角わたしが見つめていたかっんです。竜は優しくて仲間思いで、皆をまとめる能力に長けた人なんです。それでいて、子供みたいに笑うんです! 物凄く可愛くて素敵な人です!」
目を輝かせながら、幸せそうに話したマリア。
本当に大好きなのね。
テーブルに置いたミルクティーを口に含み、ゆっくり飲んだわ。
好きと言う感情を呑み込んだみたいね。
「……氷炎の魔人シャルルを襲った後、わたしの心は壊れてしまったんです。そんなわたしを助けてくれたのがシャルルです。彼女が矢面に立ってくれたから、生きてこれたと思います。
わたしに転機が訪れたのは、龍の里に入った時です。いたずら子ぽく笑う竜に、わたしが一目惚れしてしまい。シャルルに心だけ変わってもらったんです。もちろん、ほんの数分ですよ。わたしには、仲間になったフリで近づき油断させる役目があったからです。それに、わたしにはヒデという恋人もいましたし……。でも、それでも! 話したくて、声を聞きたくて。1日の内に変わってもらうのが、数分から数時間に変わり。まる1日、わたしの日もあったりで。好きな気持ちが愛に変わって行くのに、時間はかからなかったです。
そして、竜を襲ったあの日。わたしには記憶がありません。朱に染まった竜の顔が、シャルルからわたしへと引き戻ったんです。でも、後の祭りですよね。いくら弁解しても、聞いてもらえるとは思いません。無理です。攻撃をするフリで何とか逃がす事に成功し、安堵しましたが……。彼を愛した記憶は消える事なく、心に燻り続け。会いたくて、会いたくて、どうしても、会いたくて!
紅蓮の龍王を捕獲する名目で、会いに行こうと画策したんですが……ヒデにはバレバレで。追い詰められて、最後には刀根の能力で“1週間後マリア心臓停止”の“死の宣告”を受けたんです。
コレが全てです。わたしは、なんの為に生きてきたんでしょうか? ゲームの中の主人公でさえ、魔王から世界を守る使命を持っています。竜にも、ナナさんにも、天使のような可愛いあの赤ちゃんにも、生まれてきた役目があるんです! わたしには、わたしには! ……何も……無い。わたしの役目って何ですか? 生きてきた意味ってあったんですか? わたしがこの世界に来た目的ってあるんですか?」
マリアの心の叫びが爆発したわ。
「会いたくて」のくだりで、思わず涙がホロリと出そうになったのに!
流れ落ちる寸前で戻っちゃったわ!
私は溜め息とともに話しだしたの。
「はぁ〜。アホくさ。バカバカしいわ。使命? 役目? そんなのあるわけ無いじゃない。あるのは生きていく事。命あっての物種なの!
なに? ゲームの中の主人公でさえ使命があるですって。アレは物語なの! フィクションなの! 作り物なの! 否定するつもりは無いわ。アレはあれで楽しいからね。だからと言って、自分の人生に当てはめないでよ。可笑しいでしょうが!
竜にも私にも役目がある? そんなもの無いわね。あるのは、明日を楽しく生きる為の今日があるだけよ。みんなが楽しく笑っていられるなら幸せだわ。もちろん、そんなに上手くは行かない事だらけよ。世の中なんてそんなもんだわ。でもね。マイナスでも2つ合わせればプラスになるのよ。沢山あるなら掛け算でもすれば、プラス計算になるわ。要は気の持ちようなの。使命なんて、役割なんて、気の持ちようよでどうとでもなるわ。それでも役目が欲しいのなら……竜の想いを遂げさせてくれない? 貴女も竜も、お互いが大好きなのよ。胸が痛いわ。それが、貴女の使命ね」
マリアは、私を呆けた顔をして見つめているわ。
いつの間にか、トッシュから竜へと姿が変わっていたの。
その竜も、似たような顔をしているのは少しだけ、笑えたわね。
「竜、よく聞きなさい。愛が深ければ深いほど、裏切られたときの反動は大きいわ。愛情の裏返しは愛憎だと言う人もいるわね。でも、私は違うと思うの。愛情の裏返しは情愛だわ。情愛とは、いつくしみ愛する気持ち。深く愛する心を言うの。竜、愛していたのよね。側にいて守りたいと思ったのよね。仲間よりもマリアを、シャルルを、取ったのよね。その愛は、憎しみに変わってしまったの? 楽しかった思い出も、愛し合った日々も、憎しみ色に染められてしまったの?」
「……」
「竜……」
「ナナさん! 止めてください。わたしは一目、見れればそれで良かったんです。うふふ、やっぱり、優しい。竜は仲間思いで、助けてくれる頼もしい存在。昔のままの竜で安心したわ」
私の言葉を遮り、話しだしたマリア。
私を見ていたかと思うと、くるりと反転。
竜を見つめて。
「コレで本当に最後。わたし、貴方を愛せて幸せだったわ。今度こそ、仲間を助けてあげてね。わたしが持ってきた情報が、貴方の役に立てたのなら嬉しい。もう二度と、わたしみたいな女に引っかからないでよ。騙されやすいんだからね」
そう言って、はにかんだ笑顔がとても美しく儚かったわ。
竜、今度は貴方が男を見せる番だわね。
私が喋りだす前に、言葉の意味を理解した竜が話しだしたの。
「シャルル。いや、マリア。……君を守れなてごめん。……婆ちゃん! やっぱり無理だったよ。僕は彼女を愛してるんだ! 僕が愛した女性はシャルルだったよ。でも、中身はマリアだ! 僕のシャルルは北岡真理亜だ。その彼女が泣いているんだ。僕は! 今度こそ守りたい! 助けたい! 婆ちゃん! ……どうしたら良い?」
「竜!」
「マリア!」
「わたし、私! わたし達!死にたくない! !」
堅く抱き合った2人。
そして、マリアの本音が紡ぎだされる。
今度こそ守りたい竜と、真実の愛に寄り添う事が出来たマリア。
2人の距離は一気に縮まったようね。
良かったわ。
本当に良かった。
さて、これからが大変よね。
呪いを解くための助っ人が、そろそろ来てもいい頃なんだけれど……?
「ナナくん! 入るよ」
来たーーーー! !
私の救世主が現れた! !
「ルバー様! 助けてください。命が尽きそうなんです! 早く! 早く! 助けて! !」
「ナナ! その前に、状況を説しなさい。話はそれからだ」
「お、お、お父様! !」
そうなの。
ルバー様だけかと思ったら、お父様までついて来ちゃったみたい。
どうしましょう!
どうしましょうったら!
どうしましょう!
でも、お父様も天才肌だから妙案を知っているかも!
竜! そしてマリア!
貴方達の愛は婆ちゃんが護って見せるわ! !
遅くなってすいません。
仕事で残業してしまい……眠たさに負けてしまい……寝てしまいました。
竜とマリアはめでたく結ばれましたね。
今流行りの略奪愛。
不倫ですぞ!
文○砲?
私も愛されたい……あ! 涙が!
次回予告
「貴方、竜さんとマリアさんが結ばれて良かったですね」
「だなぁ。それにしても、マリアは美しい。なぁ! も、も、もちろんノジルは綺麗だぞ! うん、綺麗だ!」
「ふん。まぁ〜、イイわ。次回予告。
晴れて結ばれた2人。呪いを解くためにナナ達は苦戦する。マリアを助ける事が出来るのかぁ!2人の愛は永劫に続くのかぁ!見逃せないLoveがここにある。
はぁ〜。略奪愛……私もされたいわぁ〜」
「ノジル!!!!!」
王様と王妃様にしていただきました。
私は略奪愛より、普通のLoveが欲しい。
ではまた来週会いましょう!




