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85話 あらあら、優しくない世界ですって

 敵の素性が明らかになったのは、僥倖だったとは思うわ。

 でも、何故? も残ったのよね。

 これはまでわかった事を復唱してみるわね。


 まずは紅一点、北岡真理亜きたおかまりあことマリア。

 彼女は公務員の父親と専業主婦の母親、歳の離れた妹の4人家族。

 東京大学教育学部の2年生。

 20歳になったばかりの女子大生。


 次はその彼氏ね。

 同じ年で、同じ大学の同じ学部。小学生から高校まで、剣道一筋で心技体を鍛えてきた、好青年。

 高身長で高学歴。

 非の打ち所のない爽やかイケメン。

 それが、岩城秀幸いわきひでゆき) ことヒデ。

 大学内で迷っていた、北岡さんに声をかけたのをきっかけに友達になり、恋人同士へと発展したみたいね。


 次の3人目は、ヒデの幼馴染で地田幹夫ちだみきおことミッチー。

 ヒデが9年間剣道の主将を務め、ミッチーが副将をした。

 ミッチーは小柄で、高校生なのに小学生と間違うほど小さいの。

 もちろんコンプレックスなんだけれど、すばしっこく懐に入るのが上手い。

 主将でも通るほどの実力者だったわ。

 ただ、カリスマ性とリーダーシップはヒデの方が上。

 本人も自覚しており「お前が1番、オレ2番。それが納まりがいいんだ」と、口癖のように言っていたみたい。

 ヒデも「ミッチーがいるから俺が無茶言える」と、話をしていたみたいね。

 お互いがお互いの立場を理解し、認め合うことはいい事よ。

 親友と呼べる相手は、恋人を見つけるより難しいわ。


 次の4人目は、楽満俊哉らくまんとしや) ことマンプク。

 大学のオリエンテーションでミッチーがビビッと感じるモノがあり、声をかけたらしいわ。

 そういう時の直感は、信じた方が良いわね。

 彼は、動けるデブと言うなの異名を持っていたの。

 何でも、小学生の頃からヒップホップダンスを習っていたらしいわ。

 大柄で3桁に届くほどの体重を軽快に動かし、踊る様はさぞかし迫力満点だったでしょうね。

 少しだけ見たいかも?

 でも、本人は至って柔和のことなかれ主義。

 普段は意見もしないで、ただついて行くだけの存在らしいわ。

 ところが、危険を感じたときと、食べれるモノを発見した時には率先して意見を言うらしいの。

 危険と食べ物が同系列って面白いわね。

 歳は、1年浪人してしまい21歳。

 3人の年上だけれど、弟気質が抜けなくて終始、人の影に隠れる性格をしていたみたい。

 大きい体をして……ねぇ。やっぱり1度、会って見たいわね。


 最後の5人目が問題の人物。

 名前は刀祢昌利とねまさとし) 。

 見た目は、小柄を通り越し子供にしか見えず、身長だけで言えばミッチーよりも低い。

 顔も童顔で帽子を目深にかぶれば、子供料金で通るほどだったらしいわ。

 ただ、白髪混じりのボサボサ頭だけが年齢を表していたみたい。

 歳は35歳。

 彼は護送車で裁判所に向かう途中に、キャンプの帰りだったヒデ達が乗った車と正面衝突してしまい、この世界へと渡って来たみたいね。

 マリアにしても、よく分からない人物らしいの。

 ただ、マンプクが刀祢昌利の名前を記憶していたみたい。

 彼は“医師連続殺人事件”の犯人だったの。

 流石に名前だけではピンと来なくても、この事件だけは記憶にあるわ。

 マスメディアが声高らかに「彼の両親の離婚し、死別。孤独と哀しみが彼を犯行へと走らせた!」と、放送していたもの。

 連日ね。

 知りたくなくても、耳に入るものよ。

 本当に嫌になっちゃうわ。


「ねぇ、マリア。貴女の魔術は“祈り”よね。それにしても、恐ろしい魔術。未来を知り、改変してしまうなんて……怖いわ」

「確かに良さそうな感じですけれど、そうでもないんですよ、ナナさん。突然、頭の中にビジョンが浮かぶんです。クラクラしますよ。それに、攻撃できる訳ではありません。役に立つのか立たないのか、分からない技です」

「その意見に、賛同するわ。私の“獣の声”も、同じだもの。しかも、動物たちと話が出来るだけ……かと思ったらまだ何か有るみたいだし。謎だらけよ」

「わたしもです。うふふ」

「うふふ」


 話してみると、本当にいい子。

 とても人食までして、自分の魔力を上げる極悪人には見えないわ。

 何かあったのか知りたいわね。


「マリア。貴方達の身に何かあったの?」

「……その前に、わたし以外の能力を教えますね」


 少し照れた様に、エヘヘと笑いながら話しだしたわ。

 言いたくないのね。

 それほどの事とは、どんな事なのかしら?

 話してもらわないと駄目なんだけれど……まぁ、話す順番は彼女に任せるわ。

 辛く悲しい事は後回しにしたいものね。


「わたしの能力は“祈り”です。祈る事で未来を変える事が出します。が、わたし自身の未来しか変えられません。

 次はヒデです。彼の能力は“硬化軟化”と言います。触れた物や人を硬い性質に変えたり、柔らかい性質に変えることができます。剣道をしていたので、よく枝を竹刀のように硬くして使っていましたよ。

 次はミッチーです。彼は“裁縫師”と言います。魔力を糸状に出すことができます。どんなものでも縫い止めることができるみたいです。その糸で色んなものを縫い止めて、意のままに操ることができましたよ。マリオネットみたいに、動かしていましたのを覚えています。

 次はマンプクです。彼は“冷蔵庫”と言います。食べられるものに限らず、何でも食べることができます。体の中で保管することも可能で、そのまま消化して魔力に変える事もできます。捕食するときのスピードは誰にも負けないんですよ。掃除機みたいに吸い込まれていく様は、アニメでしたね。でも、何かを食べ続けなければならず、常に空腹状態。1番、燃費が悪い能力です。

 最後に刀祢昌利とねまさとし) です。この人の能力は……“死の宣告”と言います。この力は、体に血文字で名前を書くだけで殺すことができる力です。もしくは、殺害方法を書くだけで、殺す事もできるし必要な道具を出す事もできます。

 こんな感じで、伝わりますか?」


 マリアは、怒られた子供が親の機嫌を伺うかのような仕草で私を見たわ。

 可愛いじゃ無いの。

 姿がアレだけれどね。

 私達は軍人学園のグラウンドの真ん中あたりに、3畳程の直方体の魔術“ヘルシャフト”内に居るわ。

 透明なベールに包まれて、中が見え難くくなってはいるのよ。

 だって、マリアの姿は黒のボンテージスタイル。

 Mの女王様がバタフライマスクをして、革の鞭を振るっているアノ姿よ。

 下手にスタイルがいいから、目のやり場に困るわね。

 今は、私のお昼寝用のブランケットを肩から掛けているわ。

 そんな彼女が座る椅子の後ろに、竜が立ち正面にはロクがお座りしている。

 はぁ〜。

 情報は得られたけれど……ねぇ。

 私はマリアの後ろにいる竜に話しかけたわ。


「竜! 話を聞くだけではどんな能力か分からないわね。貴方は理解できた?」

「僕は何となく出来たけれど。ロクは?」

『あたしは、その女の能力しか記憶にないニャ。シャルルの攻撃が、尽く躱された訳が分かったよ』


 竜が私を見たので、説明したわ。

 はぁ〜、何この羞恥プレイは!

 意識しています! と言いたげの2人。

 竜は平静を装っていつも通りだったけれど、あのキスを見てしまっている私には……辛いわね。

 マリアの方は、終始下を向いているの。

 ちなみに私は、マリアの目の前、ロクの横に居るわ。

 ここから見ると、2人の顔が見れるのね。

 はぁ〜、意識していません顔なのにしてます顔が、痛々しいわね。

 そんな事はさて置き。

 話したくない事をきかないといけないわ。


「マリア……貴方達が狂ったきっかけは何? これまでの話では、人食してまで魔力を求める人達には思えないもの。何かあったのよね」


 私はシンプルに質問をしたわ。

 彼女は瞳を閉じて、深い深呼吸をしてから、話し始めたの。


「スゥ〜、ハァ〜。スゥ〜、ハァ〜。ヨシ! 大丈夫! わたしは、もうすぐ死ぬの。だから、何を喋っても平気なはずよ。その為に、来たんだから!」


 何かを決意したわね。

 そんな声だったわ。

 マリアは顔を上げ、竜を見つめて話しだしたの。

 本当に、大好きなのね。


「わたし、もうすぐ死にます! だから、包み隠さず全て話します! 最後まで、聞いてください」


 目の前にあった、冷えたミルクティーを一気に飲みきったわ。

 そして話しだした内容に胸が潰れそうだった。


「ナナさんの言う通りです。始めっから狂っていた訳では無かったんですよ。あの殺人者が居ても、異世界に居る高揚感の方が勝っていましたから。それに、刀祢昌利とねまさとし) は外見も中身も本当に犯罪者? と疑いたくなるほど良い人でしたし、なんの問題も無かったんです。

 ……ナナさん。この世界って優しくないんですね。ウフフ、意外にミッチーがライトノベル? を読んでいて、詳しくて、役にたったんですよ。それでも、漫画や本の様に優しくなくて……えっと……チート能力? なんてモノは存在しないんです。人にも、話が出来る動物にも合わなくて。右も左も、この世界が何処なのかも、何もかも分からなくて。フラフラと水だけで何ヶ月も彷徨い歩くと、人って少しづつおかしくなっていくんです。そんな時です。ブラックウルフの群れに遭遇してしまって。あっという間に、追い詰められてしまったんです。生きているのが不思議なくらいでしたよ。それほどに、わたし達は心も体も傷付きボロボロでしたね。何処をどんなふうに逃げたかなんて、覚えていません。目の前には、奥が見えない洞窟がポッカリと口を開けていたんです。そこに入ると、ブラックウルフも追いかけて来なかったんです。あぁ! 休める! あぁ! 雨に濡れない! あぁ! 生き残れた! ! そんな思いに支配されていたんです。普段なら、絶対に近寄らない場所だったと思います。でも、その時のわたし達は、壊れかけていたんです。奥に、奥に、進んだんです。今、思うとなんで進んだんょうね。奥になんて行かなければ良かったのに……」


 一筋の涙が頬を滑り落ちたわ。

 1呼吸して、話しだしたの。

 この時、私は気が付いて待ったわ。

 トッシュの異変にね。

 洞窟ねぇ〜、ひょっとして……まぁ、いいわ。

 とりあえず、話を聞きましょう。


「奥に進めば進むだけ、暗さが深まり、目の前の小石さえ見えなくなりました。それでも何かに、導かれるようにして奥へと進みました。先頭にいたのが刀祢昌利とねまさとし) で、その彼に着いていく形でわたし達も歩き続けました。なんで歩けたんでしょうね。程なくして、何かが崩れる音がしました。歩みを止めると、誰かが呻くような声がして、もがき苦しむ様な音もしてしだして、静かになりました。そして……そして、一瞬、明るくなりました。すぐに暗くなりましたけれど。その時、異様なモノを見た気がしました。これまで優しそうに見えていた刀祢昌利が、黒い物体に呑み込まれ支配されて行く様を……見た気がしました。すると突然、薄暗くなり辺りが朧気ながら分かりだしたんですよ! あの時は驚きました。誰が何かをした訳でもないのに、物の輪郭が分かりだしたんですもの。でも、それが全ての始まりだった。彼が仄暗い笑みを浮かべた瞬間、黒いうねりが津波のように広がり、わたし達を飲み込みました。そこから先は、あまり記憶にありません。いつの間にか魔力がある者を食べ、奪うのが当然と思う様になって。おかしくなった刀祢が、洞窟の外に出て雄叫びを上げました。確か……ククルと。そう言ったと思いますよ。よく覚えていませんが。すると、黒のうねりが世界を侵食するかの様に広がりました。でも、それもほんの一瞬で、元の景色に戻りました。アレは、何だったんでしょうね? そして……わたし達も……おかしくなり始め……ました」


 マリアは、肩から落ちたストールを胸に抱き、掻き毟るように続きを話しだしたの。

 その目には、誰も写してはいなかったわ。


「食べても、食べても、お腹が空くんです! 水を飲んでも、血を飲んでも、喉か渇くんです! 力が欲しくて、魔力を渇望してしまうんです! わたしがわたしで無くなるんです! ! 苦しくて、哀しくて、それでも……欲望を止めることは出来ません。そればかりか、人を生きたまま食している姿に、嗤うようになっていたんです。壊れていますよね。アハハハ……ごめんなさい。コレが全てです。嘘も脚色もありません。全てです」


 沈黙が世界を支配していた。

 そんな中、私の耳は奇妙な声を聞いたの。


『・・・! ! チィ、言えねぇのかよ! いい加減にしろよ! お前らが根源だろうが! ・・・! ! この世界を! 神のゆりかごを! 壊すきか! !』


 それは、トッシュの叫びだったわ。

 私には、どんな意味を持つ言葉すら理解できなかったけれど、この世界が狂った原因みたいね。

 そして、口にしてはいけない言葉。

 それって何なのかしら?

 気になるけれど、それよりも先に解決しなければいけない事があるわ。

 私は、震えて泣いているマリアをそっと抱き寄せた。


「マリア……泣かないで。貴女の、苦しみと哀しみを理解できたわ。じゃ、何故? 貴女だけ正気に戻れたの? それにロクの話では、あの子が知っている”氷炎のシャルル”とは別人格だと言うのよ。それは何故なのかしら……話せる?」


 私の腕の中で、小さく頷いたわ。


「おそらくですけれど。シャルルさんを取り込んだとき、わたしの苦しみと融合してしまったんだと思います。……楽になりたかったんです。ごめんなさい」

『……』

「ロク。納得、出来ないの? そんな膨れっ面しないで。シャルルさんだって、マリアの苦しみを理解したはずよ。だからこそ“氷炎のシャルル”の姿を使えたんじゃない?」

「ナナ、それは違うと思う。そ、その女が“氷炎のシャルル”の身体の一部を取りんだからだ。そこに意識は無い」

「アハハハ! アハハハ!可笑しいわ。本当に可笑しいわね。何にも分かっていないわ。竜! ロク。貴女が愛したご主人様は敵に対しては冷血でも、味方には優しくて熱い人よね。名が体を表しているわ。水属性でも無いのに水に連なる、氷の名前を冠しているんですもの。そうよね」

『そうニャ。シャルルは敵とみなしたヤツには容赦なかったよ。でも内に、仲間に、したヤツにはとことん優しかった。美しく青き令嬢として、名が通るほどにね』

「ウフフ、そうでしょうね。貴女を見ていれば何となく分かるわ。そして、マリアの中で沈黙を貫いているシャルルさん。貴女はマリアの哀しみを何とかしたかったのよね。その優しさがアダとなり、呑み込まれてしまった。と、私は考査したわ。違う?」

『……』


 あらあら、沈黙で答えてくれたわ。

 もうひと押し必要かしら?


「本当は乗っ取るつもりで意識下に潜ったはずよ。何とか言ったらどう? 他の人には聞こえないわ。私だけが、貴女の声を聞く事が出来るの。聞かせて! シャルル!」

『ウフフ、買いかぶり過ぎよ。私はそれほど偉くないわ。でも……止めとくわ。過ぎさった事。私は……氷炎のシャルルでは無いわ。私は、わたしは……もう1人のわたしよ!』

「ウフフ、そうね。ごめんなさい」


 皆にはなんて話そうかしら? と、悩んでいると思い詰めた竜が叫び声を上げたわ。


「だったら……だったら! 僕と愛し合ったシャルルは何者なんだ! !」


 その叫びはもっともね。


「貴方が愛した女性は……紛れもなく北岡真理亜よ!」


 思わず私が、答えてしまったの。

 みんなが私に注目したわ。

 当のマリア本人もね。

 はぁ〜、何が彼女を正気に戻したのかが知りたかったのに!

 人の色恋沙汰に口を挟みたくは無かったのに!

 呪いの秘密を解かないと助からないのに! !

 何を私は言ってしまったのかしら。

 余計な一言よね。

 はぁ〜。

何故に話が進まない!

まぁ、話の肝になる部分ですので、もう少しお付き合い下さい。


次回予告

「忠凶ちゃん。わたしと貴女で予告をするわよ」

『はい。青森様』

「あら、嫌だ。わたしの事は青と読んで」

『では、青様とお呼びいたします』

「じゃ、それでいいです。では、わたしが予告をしますね」

『はっ』

「次回予告

敵の素性と能力が明らからとなった今、残るはマリアの助けるのみ!しかし、それが最大の難問となる。ナナはマリアを! そして、竜の心を! 助ける事が出来るのか!悲しみに立ち向かうナナ達を刮目せよ。

どうかしら? 少しどこぞの軍人ぽくしてみたの?」

『はっ。とてもよろしいかと思います。最後の“刮目せよ”の決めポーズは秀悦です』

「そう! 分かってくれるのね!人差し指をビシィ!とするのか大切なのよ!」

『素晴らしいです』

「ありがとう!」


どこまでも褒め合うのこれにて!

ちなみに、この次回予告では普通に話せます。

次回こそはマリアが助かるかどうかの話になると……思います……よ?


それではまた来週会いましょう!

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