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53話 あらあら、竜の魔力ですって

あけましておめでとうございます。

本年度もナナ共々よろしくお願い致します。



 歓迎遠足から帰って来てから、学園制度が大きく変わったの。

 これまでは、お高く止まったエリート集団だったからテストなんて無かったみたい。

 でもハチの魔力と魔術に当てられて、方向転換。

 中間・期末テストを実施する事にしたのよ。

 テストも無事終了し、引っ越しも完了したし、やれやれと思ったのもつかの間。

 問題はその後やって来たの。

 きっかけはエディの話からだったわ。

 王家の秘宝“雷鳴の首飾り”が騒動を誘発させたのね。

 まったく困っちゃうわ。

 あの子達にもねぇ。

 だって、私の制止も聞かずに探しに行ってしまったんですもの。

 王家の秘宝探索にね。

 今、何処にいるのかしら?

 忠大、忠吉、忠中、忠末、忠凶……危ない事はしないで!




『忠大! この道で合っているのかぁ?』

『勿論だ。ただ……ここから先には道が無い。みんな気を付けてくれよ』

『『『『オゥ!』』』』


 今、ボクたちが居るのはスラム街、城寄りの亀裂。

 こ、こ、ここから下に降りる? !

 忠大!

 本当にここで合ってるの?


 ビュー、ビュー、ビュー!


『本当に降りるの?』

『とりあえず、あそこの休息地まで……』

『ちょっと待て、本当に行くのかぁ?』


 忠吉の気持ちも分かるぞ。

 だってここは、差し込む光だけでは下など見えぬほど深い地割れ。

 ボクたちネズミだけしか通ることができない細い崖道。

 でも……限界と言うものがある。

 遠回りでも安全な道があるんじゃ無いの?

 そう考えたのは、ボクだけではなかった。


『オイ! 忠大。他に道があるんじゃないのか?』

『忠吉。確かに、ある』

『だったら!』

『しかし、大回りになるんだ。少しでも速く。姫様に届けたい。私はそう考えての、この道だったんだが……意見があるのなら聞こう』

『『『『…………』』』』

『無いなぁ。怪我をするな。命を大事に、姫様の力になるんだ』

『『『『はっ』』』』


 従うしかない。

 ボクたちが生きているのも、役に立てるのも、すべて姫様のお蔭なんだ。

 その想いに報いなければならない。

 意を決して崖道を下った。

 ここまで際どい道は初めてかも知れない。

 一歩間違えれば奈落の底。

 龍王の顎……ゴォーゴォーと唸りを上げている。

 そんな光景に、足も竦むよ。

 4人家族の食卓しか無い、広さの岩がへばり付いて居る。

 そこから更に、下へ下へと降りて行く。

 一時ほど経った頃、漸く底が見えた。

 辺りを見回しても闇のなか……ではなく、青い稲妻が周辺を照らしていた。


『忠大、あれは?』

『忠凶! 先走るな! ……竜の祠のようで……違うなぁ? 人の手が加えられているようだ。アイテム……なのか?』


 そっと忠吉が近づき、祠に触れる。

 もちろんスキル“走破”を使うためだ。

 このスキルを使うと一瞬、意識が途切れる。

 そして、専門分野に知識を振り分けるのだが……ボクのところに来た情報は何かなぁ。


『嘘だろう! 雷属性だ!』

『雷鳴の首飾りだ!』

『人の手による竜の祠だと!』


 雷属性がボクで、雷鳴の首飾りが忠吉で、竜の祠が忠大。

 三者三様の言葉に、ボクたちが見つめ合った。

 すぐさま別れた情報を1つにまとめた。

 ボクたちが使うスキル“走破”の弱点だね。

 でも1人で抱えるには大きすぎるんだ。

 仕方がないよ。


『忠吉。マジックバック改に収納しろ』

『分かった』

『姫様の元に帰るぞ』

『『『『はっ』』』』


 想いは1つ。

 姫様の役に立つこと。

 その為の労力は苦にならない。

 でも、世の中は驚くことばかりだよね。

 だってさぁ。

 このアイテム“雷鳴の首飾り”なんだけれど、欲深な種族の象徴だったんだ。

 各地に散らばる雷属性の祠を探して、壊して首飾りした。

 変だと思ったんだよね。

 ハチ様の時は、土属性の魔力磁場が凄くってスキルが使えない程だったのに、ここでは普通に発動出来たから。

 人族は、無い物ねだりする種族なのかも知れないと結論付ける。

 ボクはもと来た道を戻りながら、そんな風に思ったんだ。




『姫様。ただいま戻りました。皆、無事にてマジックアイテム“雷鳴の首飾り”を首尾よく、見つけ出すことに成功しました。少し時間がかかりましたが、お持ちすることが出来て幸いでした』


 ネズミ隊のみんなが戻って来たわ。

 探しに行ってから約半日が過ぎていたのよね。

 今は昼。

 私達は食堂でご飯を食べていたわ。

 そんな私の目の前に、ネズミ隊のみんなが整列したの。

 初めは何のこと? と思ってしまったけれど、すぐに思い出して慌てたわ。


「あなた達、大丈夫なの! どこも怪我していない?」

『はっ。どこも御座いません。そんな事よりご覧になりますか?』

「え? ……え! ダメよ! それ王家の秘宝でしょう。エディ、どうしましょう?」

「う〜ん。先ずは父さんとルバー様に報告……かなぁ? あ! 母さん」

「あらあら、どうしたの?」


 食後のお茶を持って来た人は、お母さんことノジル様。

 事情を説明すると、みるみる顔を赤らめたわ。


「まぁ! それが本当で、本物なら大変な事だわ! 〈貴方。シュード様。私の声が聞こえますかぁ?」〉

 〈「ノジルか。どうしたんだ?」〉

 〈「はい。今、エディ達とお食事をしていたんですわ。そうしたら、ネズミちゃん達が王家の秘宝“雷鳴の首飾り”を持参したっと言っているらしいの!」〉

 〈「なぁ! ! それは、本当なのだなぁ!」〉

 〈「私は話を聞いただけで、正確な事は分かりませんわ。そもそも、私は知らないですもの。どうしましょう?」〉

 〈「分かった。今からルバーに連絡するから、ナナくんに闘技場へと来るように伝えてくれ」〉

 〈「はい、分かりました」〉


 そんな会話をしていたなんて知る由もない私は、ルバー様にスキル“意思疎通”で連絡をしていたの。


 〈「ルバー様。聞こえていますか?」〉

 〈「うん? ナナくんかい?」〉

 〈「はい、ナナですわ。お知らせしたい事があるので連絡致しました。今、宜しいですか?」〉

 〈「勿論いいとも。美しい姫の声を、何よりも優先するよ」〉

 〈「まぁ、お上手です事。そんなことより。ネズミ隊がマジックアイテム“雷鳴の首飾り”を持ち帰りましたわ。このアイテムが王家の秘宝かどうかを調べる手立てはありますか?」〉

 〈「ナナくん。その話は誰かにしたかい?」〉

 〈「誰って……。食後にネズミ隊が報告に来たので、エディ達とノジル様にはお話しいたしましたわ」〉

 〈「そうかぁ。だったらすまないが、少しそのままで待機していてくれ」〉

 〈「分かりましたわ〉ルバー様が待機してて欲しいとのことです……わ?」


 あれれ?

 話に夢中で周りを見ていなかったようね。

 エディはノジル様と何やら話しているし、ホゼはお茶と薩摩芋のきんつばを美味しそうに食べているし、青ちゃんとマノアはハツカネズミ姿のネズミ隊にちょっかいを出しているし、私は放置されているし、何だか拗ねちゃいたくなるわ。


「みんな! 私の話を聞いて! ……る?」


 声を大にして言ってみると、みんなが私を見つめたの。

 たじろぐじゃないのよ。

 そんなとき、ノジル様から話があったのよね。

 誰と話していたのかしら?

 きっと王様よね。


「ナナさん。闘技場に行っていただけますか?」

「はい。ですが、ルバー様からその場で待機と言われています。どうしますか?」

「その事なら、シュード様から話が通っていると思いますよ。ナナさんは闘技場へと向かって下さい。他の人達は、お茶でもしていましょうね」

「「「「はい!」」」」


 後ろ髪を引かれる思いで席を立ったわ。

 薩摩芋のきんつば! !


「ルバー様。申し訳ございません。遅くなりましたわ。あら、王様もいらしたのですね」

「無論だ。ノジルから話を聞いた。その……本物なのか?」

「それを確かめる為の精査ですよね。ルバー様」

「そ、そ、そうだね。あははは」


 私の周りにはルバー様と王様、お父様にハンナといつもの面々。

 でも今回はそれだけでは無く、沢山のギルド職員と王室職員の人達がひしめき合っていたの。

 ギルド職員は雷属性のマジックアイテムに興味津々で、王室の人達は王家の秘宝に注目しているわ。

 どちらも目がギラギラしているもの。

 引くわ〜。


「ルバー様。この方達は……なぜ居るのです?」

「すまない。伝説のマジックアイテムと聞けば、見たくなるのがギルド職員という生き物なんだよ」

「それに関しては、俺の方もすまない。王家の秘宝の発見は、我等の悲願だったんだ。それが見つかったとならば、誰もが見たいと思うであろう」


 との事だったわ。

 仕方ないとは言え。

 闘技場の観客席から見下ろされている光景は、サーカス団の熊なった気分だわ。

 とっとと渡して帰りましょう。

 薩摩芋のきんつばが私を待っているわ。


「忠大、いるかしら?」

『はっ、ここに』

「マジックバックの中にあるコレでいいのよね。出すわよ」

『姫様! お待ち下さい! 忠吉、説明を頼む』

『はっ。王家の秘宝“雷鳴の首飾り”はその名の通り、雷属性の魔力を秘めた勾玉と白属性の魔力を秘めた真珠が連なりネックレスに仕立てたモノです。ところが、100年ほど経年劣化に伴い、結いております紐が大変脆く触り方に失敗致しますと分解する危険が御座います。さらに、魔力が強い勾玉には威力を抑えるコーティングが施してあるのですが、そちらも取れかけております。土属性のお持ちの方でないと、手にするのは危険ではないかと思います』

「そんな代物なの! ルバー様。どうしましょう! !」


 私は忠吉からもたらされた“雷鳴の首飾り”の現状について話したわ。

 固唾を飲んで、盗み聞きをしている面々を尻目にね。

 話を聞き終えて発言したのは王様。


「そうかぁ。ハチくん。君は確か土属性の持ち主だったね。ココに出してもらえるかかなぁ」

「王様。ココに……ですか?」


 指をさしたのは下。

 地面に出せって言うの? ?

 ルバー様を見ると頷くばかり。

 出せと言われたので出しますけれど、王家の秘宝でしょう!

 いいのかしら?


「ハチ……出して……くれるかしら……ココに?」

『ココに? 秘宝じゃなかったワンかぁ?』

「そうなんだけれど、王様がいいと言った以上いいんじゃないかしら」

『それは、あんまりワンね。だったら、アースカリメリ』

「え! キャ! もう、突然で驚くじゃないの!」

『ごめんワン』


 そうなの!

 この子ったら、魔術で30センチ四方の土を盛り上がらせたの。

 ハチの目の前にね。


『えっ〜と、これワンね』


 ハチが急拵えの台座の上にお手をしたわ。

 その先から出てきたのが、バチバチと静電気を帯びている首飾り。

 痛そう〜。

 でも、肩こりには効きそうなバチバチね。


「ハチ……コレが本当にそうなの?」

『そうワン。ルバーなら土属性を持っているから、チクチクしないワン。スキル“走破”で覗いてみるといいよ。とっととしないとコーティングが剥がれて大惨事になるワン』

「本当なの! ルバー様! 早く確認して下さい。コーティングと言うかぁ……塗装が取れてしまうと大変な事になるみたいなんです」

「わ、わ、分かった」


 恐る恐る触るルバー様。

 俺が……の言葉を飲み込んだ王様。

 似た様な顔をしていても、内容が違う緊張に私も当てられたわ。

 ドキドキする!

 でも、この行為が進化を促す事になるなんて……。


 パリパリ、パリン!


『解! アースドーム』


 イイ音が響いたの。

 ハチの咄嗟の判断で台座を元の戻し、ドームシリーズ最強の魔術を出して“雷鳴の首飾り”を覆ったわ。

 そして、私に今の状態を説明してくれたの。


『ナナ! 大変ワン! 触り方がマズかったのか、バラバラになってコーティングが剥がれたワン。竜の魔力が暴れ出した! コレじゃ、バックにも入らないワン』

「バックに入らないってどう言う事?」

『元々、無理があったワン。竜の祠に祀ってある竜の魔力は、人族も魔獣も扱える代物では無いワン……常軌を逸している……。1個の勾玉でスキルが使えなくなる程の魔力を有しているのに、それが5個も、みんな死にたいワンね』

「あははは〜、その通りだわ。ルバー様。どうしますか? 王家の秘宝は分解されてしまった様です。さらに、竜の魔力を抑える為のコーティングが剥がれ、あの中で暴れているみたいですわ。首飾りに戻す事は不可能かと思われます」

「「なぁ!」」


 絶句するルバー様と王様。

 なぁ! と言ったきり次の言葉が出てこないようね。

 パクパク開く口と困惑する目。

 その姿は後ろに控えている、ギルド職員と王室職員も同じ顔をしているわ。

 意識を戻す為に喝! でも入れようかと、口を開きかけたとき私に話しかける者がいたの。


『姫様。少しだけ私の話を聞いてもらえないでしょうか?』

「忠大。いいわよ」

『はっ。ありがたき幸せです。……姫様。私達に進化のチャンスを頂けないでしょうか?』

「え? ! ダメよ。許さないわ。どれだけ危険な事か理解しているの?」

『……もちろん理解しております。ですが、姫様を守る為に、私達も進化をやり遂げたいと存じます』

「私の為と言うなら、進化なんて考えないで。今のあなた達でも十分に役に立っているわ。必要無いじゃない」

『しかし……』

「まだ、言うの! ダメよ、ダメ!」


 にべもなく断ったわ。

 当たり前よね。

 竜の魔力を取り込む行為がどれだけ危険な事なのか、知らない無いはずではないのに。

 なんでそんな事を言ったのかしら?

 そんな私の疑問が顔を出ていた様で、ロクが説明してくれたわ。


『ナナ。ネズミ隊の気持ちも考えてやりニャ。あたしだって……あたしだって、今回の事で参ってんだよ』

「え? 今回の事って何?」

『ナナが蟻地獄に落ちて、しかも魔力磁場でスキルが使えない。ハチが進化する事で、ナナを助ける事が出来た事ニャ。あたしは、悔しかった。ナナの影の中に居れば! あたしに魔力があれば! ……そう思わない日は無いよ。此奴らだって同じニャ。いや、あたしより辛かったと思う。だって、スキル自慢のネズミ隊が全く役に立たなかったんだ。あたしだったら心が折れるよ。進化して魔力を増して、ナナの盾になりたいと思うのも頷けるニャ』

「そんな……」

『ロク様。ありがとうございます。ですが少しだけ違います。私達は、進化したい訳でも魔力を増したい訳でも御座いません。私達が欲しいのは、属性です。もう1つの属性を獲て、魔術“創造クリエイト”を覚えたいと存じます。創造クリエイトが有れば、姫様の危機を他者にお伝えする事が出来ます。

 私達の力は魔力に非ず! です。私達の力は情報力で御座います。それが出来ないのであれば、私達の存在意義を失います。姫様の役に立ち、力になれる事こそ私達の喜び。どうかお願いです。私達にもう1つの属性を獲るチャンスを頂けないでしょうか』


 今度は私が言葉を失ったわ。

 この子達は、私の為に、私を助ける為に、全てを賭けているのね。

 だったら、私はこの子達のために何をしてあげればいいのかしら?


「1つだけ約束してちょうだい」

『はっ』

「手を失っても、足を失っても、寝たきりになってもいいから……死なないで! 私の為に、死なないでちょうだい」

『『『『『はっ』』』』』

「ルバー様に相談してみます。ダメなら諦めなさい」

『『『『『はっ』』』』』


 はぁ〜、ため息しか出ないわ。

 何て言えばいいのかしら?

 当のルバー様は固まったまま。

 そうよね。

 壊した本人ですもの。

 王様が慰めているわ。

 それにしても凄いわね。

 私が忠大と話をしている間に、ギルド職員対王室職員の様相を呈し始めたの。

 壊したのは雷属性の研究をしたいが為の欺瞞だ! とか。

 王家の秘宝と言えども、マジックアイテムは我らギルドの保有すべきもの、王室にとやかく言われる筋合いなど無い! とか。

 喧々豪語、それぞれ各々が言い合いをしているわ。


 そもそも、私の声って届くのかしら?

 はぁ〜、どうすればいいかしら?

 はぁ〜、ため息しか出ないわ。

 はぁ〜、薩摩芋のきんつば。

 はぁ〜、食べたかった。

ネズミ隊は進化出来るのか?

本当なら進化している予定が……すいません。

長くなりそうなので2つに割りました。


次回予告

「みんな! あけましておめでとう! はぁ〜、ナナに直接言いたかったわ」

「ソノア様。仕方がありません」

「そうだぞ。ワシだって会いたいわい」

「リルラとお父様。でも……」

「暗い顔をするなソノアよ。ナナが心配するぞ。元気に次回予告でもしてやれ」

「そうです。ソノア様。元気を出して下さい。もうすぐ夏休みです。きっと戻って来てくれますよ」

「そうね!ありがとう。次回予告をするわ。

ネズミ隊の提案で進化させる決心を付けたナナ。ルバーに話そうにも、王家の秘宝が壊れた事で慌てるギルド職員と王室職員。そんな中、ナナは雷属性の勾玉をネズミ隊に与える事が出来るのか! そして、進化した先にあるものとは! 見逃せない物語がココにある! こんな感じでいいかしら?」

「素晴らしいですわ。ソノア様」

「ワシの方がもう少し……ウグッ」

「黙っていて下さい。ガウラ様」

「す、す、すまぬ」


ソノア様、ガウラ様、リルラに次回予告をしてもらいました。

懐かしい面々ですね。

夏休みに帰ってくることを期待しているようですが……。

ソノア様、ごめんなさい。

ナナは白熊に会いに行く予定です。


それでは今年も毎週金曜日に会いましょう。

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