閑話 あらあら、12月23日ですって
「お、お、お父様。お、お、お母様。フゥ〜」
「ウフフ、エディにはハードルが高かったかしら? 普通で良いのよ。今は私達しか居ませんわ。エディ、いつもの貴方に戻ってちょうだい」
「そうだぞ。王族と言えども所詮、人族だ。大もすれば小もする。オナラだってするぞ! ブー」
「あなた! はしたないですよ! エディ、こんな大人になってはダメですよ」
「エヘヘ、ウッ……父さん! 臭いよ!」
「窓だ! 窓を開けろ!」
俺は今、王様と王妃様と一緒に居る。
初めは緊張したものの、王様のふざけ方にすっかり緊張も忘れた。
「父さん。……父さんの誕生日は、10月の何日なの?来年は必ずプレゼントを用意するから、教えて欲しい……です」
「俺にかぁ! そ、そうだなぁ」
「ウフフ、エディ。表向きは10月生まれになっているけれど、実際の誕生日は今日よ」
「え? 今日なの! プレゼント、どうしよう……」
「プレゼントなんていらないさぁ。俺にとって今年ほど嬉しいプレゼントはない。エディ、本当に生きていてくれてありがとう」
「父さん。来年は何か贈るから。今年は……そうだ! 俺もプレゼントはいらないから、父さんと母さんの話を聞かせてよ! 2人の出逢いとか、結婚秘話とか何でもいいから。俺に教えて」
「え? 私達の?」
「俺の誕生日も終っているし、父さんもいらないって言うし、母さんもだよね。だったら、俺が知らない事を教えてよ! それが俺へのプレゼント!」
「プ、プレゼント?」
「そうだよ。父さんと母さんは、俺が生きていた事がプレゼントなんだろう。俺へのプレゼントは、2人の事を詳しく知る事」
「あまり良い話では無いわよ。それでも知りたい?」
「もちろん!」
「……じゃ、話すわ。あなた、良いわね」
「オゥ」
俺は父さんと母さんの出逢いから結婚までの話を聞いた。
確かに、いい話では無かったけれど、俺にとって知っておくべき内容だったかもしれない。
「まず、私の姿を見て気が付いているとは思うけれど。私、異世界人で渡来者なの。日本人でね。名前は末政愛音と言うの。名前よね。今でこそ、前の世界の名前で過ごす事が出来るけれど、昔は駄目だったの。この国で生きて行くためには、全てを捨てなければいけなかったのよ。それでも私はラッキーだったわ。初めてこの世界に来た時、お世話してくれたのが……と言うより、私が初めて出会った人達がデハント夫妻と一人息子のルバーくん一家だったの。私の事を慈しんでくれたわ。今の私がいるのも、デハントパパとクトリアママそしてルバーくんのおかげなの。
ウフフ、懐かしいわ。私ね。21歳で短大を卒業して、念願だった保育士になったの。楽しかったわ〜。子供達が可愛くて、もちろん大変だったわよ。お絵描きやら、ピアノやら、遠足に学芸会。幼稚園の先生って忙しいのよ。でも、楽しくも充実していた毎日。
そんなある日、裏山で子供が遭難したと聞いてみんなで探したわ。はぁ〜、私も迷子になってしまったの。川縁で一夜を過ごしたら……この世界に来ていたわ。
私の年齢は22歳。学園に入るには、歳を重ね過ぎているわね。それでも、入園したわ。だって分からなかったんですもの。いろんな事がね。そこで、知り合ったのよ」
「父さんと!」
「えぇ、そうね」
窓を閉めた父さんが、俺の左側に座ったんだ。
右には母さん。
夢にまで見た光景に隠れて泣いてしまったのは、秘密にしたい。
「その頃の俺は、勇者学園で教師をしていたんだ」
「え? 王様なのに?」
「アハハハ! その頃はまだ皇太子だよ。王家の者は、民を守る勇者を育てる役目も担うんだ。そのため、王位を継ぐまでは教師をする義務があるんだよ。エディも学園を卒業すれば、異世界人クラスの教師になる。そのつもりで勉学に励めよ」
「はい!」
「と、言っても雑用からだけれどなぁ」
「うん。俺、頑張るよ。で、父さんは勇者クラスの先生で、母さんは異世界人クラスの生徒だよね。どうやって知り合えたの?」
「それは……ねぇ。エディには少し早いかしら?」
「そうかもなぁ」
「なに? 俺、何でも知りたい!」
少しだけ悩んだ母さん。
父さんは何故か紅茶をいれてくれた。
俺にはミルクティー。
「何で?」
「ウフフ、この人ね。紅茶だけは絶品なのよ。私なんかより美味しくいれてくれるの。……そうね。派閥争いなんて何処にでも転がっているわ。私だけが被害にあった訳ではないものね。いいわ、エディ教えるわ。派閥って分かる?」
「アレでしょう。貴族派と勇者派だよね。ナナから聞いて知っているよ」
「まぁ! ナナって、ソノアの娘のナナちゃんよね?」
俺はとりあえず頷いた。
「あの子ったら何を教えているの! 今度、会ったら叱っとかなきゃ!」
「ノジル、それは少し違うようだ」
「え?」
「そのナナと言う娘は、他の異世界人とは何処となくだが違うような気がする。ソノアもガロスも、何も知らぬだろうよ」
「あらあら、そうなのね。一度会って見たいわ」
「父さん、母さん!続き! 派閥がどうしたの?」
「ウフフ、ごめんなさい。えっと、そうねぇ。エディが言ったのは、貴族派と勇者派と王族派ね。もちろん、それも派閥よ。けれど、私が体験した派閥は異世界人クラスの中での派閥なの」
「え? ! 異世界人クラスって5人しかいないのに? ?」
「確かに、今は5人だったわね。でも、私の時は2クラスあって12人もいたのよ」
「へぇ〜」
「10人以上、人が集まるとグループが生まれるのわ。それがそのまま、派閥争いに発展してしまったの。
はぁ〜、アレは本当に酷かったわ。12人中、7人が過激派で5人が穏健派だったの。過激派は、自分達を虐げる勇者に反旗を翻そう! やられたらやり返せ! 反撃しろ! ! と激越なシュプレヒコールで活動していたわ。私はもちろん穏健派よ。だって、デハントパパとクトリアママを裏切れないし、2人が私を本当の娘のように可愛がってくれているのを知っていたから。ルバーも、実の弟と思っているわ。もちろん、そんな人達ばかりではない事も知っている。でも、争った先に何があるのよ! と思っちゃったから。私は穏健派のみんなと、一緒に行動していたの。それがちょっと気に入らなかったのね。私、騙されて冷蔵庫に閉じ込められてしまったの。半日ぐらい居たかしら?」
「1日だよ」
「あら、ごめんなさい」
「授業も終わり、明日の用意をしている時刻に慌てたルバーが飛び込んで来て、姉さんが! 姉さんが! と騒ぎ立て始めた。もちろん勇者学園の教員用の部屋でだ。誰も相手にしないし、素知らぬ顔をするばかり。頭に来た俺は怒りを露わにして、ルバーと一緒に探し出したんだ。大変だったぞ」
楽しそうに話す父さんと、ため息混じりの母さん。
2人は対照的だったのには、少しだけ笑った。
俺は知っているんだけれど、知らない単語を質問してみた。
「父さん。冷蔵庫って、アノ冷蔵庫?」
父さんに質問したのに、答えてくれたのは母さんだった。
「ウフフ、違うわ。エディが想像した冷蔵庫と、この世界の冷蔵庫とは別物ね。3畳ほどの大きさの部屋に、水属性の魔術と風属性の魔術で低温になる様施している場所なの。部屋の奥はさらに温度を下げて、冷凍スペースになっているのね。使う分には便利だけれど、閉じ込められるには過酷な空間だったわ」
「それだけじゃないぞ! ノジルは水属性の魔力持ちだったから、冷蔵庫の水の魔術に邪魔さらてスキル“魔力察知”でも感じる事が出来ずに苦労したよ。
その日は分からずじまいで、一旦帰宅した。策を練り直すこととなったワケだ。翌朝、俺はふと思いついてなぁ。冷蔵庫なら同じ属性を持つノジルが隠れるのにもってこいだ! とね。ガロスに頼んで冷凍庫を最初に見に行く事にしたんだ」
「ガロスって、ナナのお父さん? 貴族なのに?」
「アハハハ! 確かにガロスは貴族だが、魔力が無かったからなぁ。勇者に成れない。そこで一般兵士として入隊したんだ。最初の任に当たったのが料理番だった。冷凍庫の管理をするのが、初仕事だったはずだぞ。
俺とルバーとガロスで冷凍庫へと行ったら……鍵が開いていた。死んでいるかと焦ったが、意外にピンピンしていたんで笑ったよ」
「確かに外傷も心的ストレスもありませんでしたわ。だって私、水属性で水に関することから何でも出来てしまう体質なんですもの。冷凍庫は水属性の魔術よ。私の周りだけ解除する事なんて容易い事だわ。少し風が吹いていたけれど、寒くもなかったし食べ物も飲み物も目の前にあるから、平気だったわよ。でも、心細かったわ」
「そこで、初めて出逢ったんだ! そして、好きなった。一目惚れ?」
「アハハハ! エディはせっかちだなぁ。確かにこの出来事でノジルとは知り合えたが、一目惚れかと言われると……少しだけ違うなぁ。ただ、黒髪の美しい女性だと思ったよ。まずは“知り合い”からだったなぁ」
「そうだわねぇ。確かに“知り合い”からだったわ。でも私の場合“皇太子だ”も付けて欲しいわね。それからね、エディ。護衛と称して、いろんな話をしたわ。皇太子様からシュード様に変わって、シュートさんまでが早かったわね。ウフフ、その頃には“好き”にランクアップしていたわ」
「父さんは?」
「俺かぁ。う〜ん、そうだなぁ。俺も同じだったよ」
「相思相愛になったんだ」
「それは、違うわね」
「え? ?」
「エディが言った様に相思相愛の好きも確かにあるけれど、この頃の私の好きはルバーも好き、エディも好き、みんなが好きの“好き”よ」
「まぁ、俺もそんな感じだったかなぁ。でもなぁ、エディ。夏休みが終わった立秋の頃、俺は見てしまったんだ。そして気が付いてしまった」
「何を見たの?」
今度は母さんが緑茶をいれてくれた。
甘味があって美味しかった。
「フゥ〜。さすがノジルがいれてくれたお茶は美味しなぁ」
「うん。甘い! 美味い!」
「ありがとう」
暫しの沈黙が続いた。
俺が恐る恐る、父さんを覗き込むと目が合い、微笑んで話し出した。
「見てしまったんだよ。ノジルが、俺の知らない男と楽しげに話をしている姿を、だ。その時、胸に痛みを覚えた。訳の分からないムカつきに驚いたが、俺は気が付いてしまった。痛みを伴う事で知る事柄もある。俺は……ノジルを愛てしいる、となぁ」
「あなた」
母さんの手を確りと握り、俺には頭をクシャクシャにされた。
照れ隠しだね。
「気付いたからには即行動だ! 俺は王族、貴族を説得した。もちろん失敗したさぁ。そう簡単には行かない事ぐらい分かっていた。でも、デハント夫妻に反対されたのには予想外だった。家族共々王族と近しい一家だったからなぁ。……我が娘と思っている彼女を伏魔殿の様な所に嫁がせる訳にはいきません。ノジルはルバーと結婚させます……と、婦人に言われた事は今でもはっきり覚えている。それでも、諦める事が出来なかった」
「その話は後になってルバーから聞いたわ」
「母さんはこの時、父さんの事はどう思っていたの? 説得していると知っていたの?」
「もちろん知っていたわ。でも、出来るとは思っていなかったし、私自身もまだ好きのままだったから。揉めないで欲しい、としか思っていなかったわね」
「……父さん……それからどうしたの?」
「アハハハ。エディ、俺は諦めが悪いんだ。反対されたからと言って引き下がる俺じゃない。奇しくも誕生祭が迫っていたから、最終手段にでた」
「最終手段?」
「あぁ、そうだ。誕生祭では闘技大会が行われる。優勝者には、王からお褒めの言葉と希望した褒美が貰えるんだ。だが、一般兵士はガロスが優勝し、勇者・異世界人はルバーが優勝する。ここ最近ではこの2人が毎年勝っていたんだ。その為に褒美は無くなった。その年は、俺だとバレない様に覆面をつけて出場したんだ。体術に関してはルバーに引け劣らないし、魔術にしてもスキルを併用すれば勝てない相手ではないからね。決勝までは難なく進めたんだが……やはりルバーで蹴躓いた。彼奴は本当に強い。それだけじゃないんだ。途中、覆面の一部が破けてしまい、俺は顔を隠しながら戦ったんだが大変だったぞ」
「バレたの?」
「まぁ、王族の人間が出てはいけない、と言う決まりは無いから中止になる事はなかったが……ルバーはやり難かったと思うぞ。それでも、本気で戦ってくれた。俺は嬉しかったよ」
「勝ったの?」
「……俺の魔力が切れるのが先か、ルバーの体力が無くなるのが先か。まさに、そんな感じの攻防にルバーは自身の最大の魔術を放ったんだ」
「ど、ど、どんな技?」
「雷属性の“迅雷”。激しい雷が辺り一帯に降り注ぐ技だよ。その時も、闘技場の半分の面積を雷が埋め尽くした。さすがに諦めたよ。でも、声が聞こえたんだ。……シュード負けないで!……とね。俺は地面に這いつくばり、雷撃に耐えた。そして、声の主を見上げた。ノジルは泣いていたよ。手を胸の前で握り締め、震えていた。俺は立ち上がり、拳を天に向かって振り上げた」
「そして、叫んだのよね。……明鏡止水の心で俺はラブを貫く! ノジル! 俺のラブを受け止めてくれ! ……素顔を晒したあなたが言ったのよ」
2人は見つめ合い、微笑みを浮かべていたんだ。
ラブラブたぁ〜。
「で! どうなったの?」
「伏せたおかげで、直撃してもすぐに地面へと逃す事に成功した。俺はルバーに走り寄り渾身の一発をお見舞いして……倒れた」
「あなた、物事は正確に! ですわ。エディ、確かに雷は地面へと走り抜けたけれど、影響はしっかり体にあったのよ。走り寄る? 赤ちゃんハイハイの方が速いくらいの速度と、小猫パンチの様な威力でルバーの頬を撫でた、が正解ね。まぁ、ルバー自身も魔術“迅雷”の影響で動けなかったんだけれど。結果としては、引き分けだったのよ」
「じゃ、父さんの褒美は……無し、なの?」
「そうだなぁ。勝ったわけではなかったから。でも、ノジルが俺の元に来て……私はシュード様と結婚いたします。その際、子供はもうけません。表にもでません。私はシュード様を影ながら支えたいと思います……そう言い切って、頭を下げたんだ。俺も隣で下げた。何処からともなく拍手が起こり、闘技場全体に広がった。さすがに反対はされなかったよ」
「父さんも母さんも、よかったね! でも……」
「ウフフ、いいのよ。私に子供が出来なくても、こんなに可愛い息子がいるんですもの! 私は幸せよ。それにあなたの母親は、初めての友達。私の大親友だったの。ルバーと同じクラスの幼馴染。ごめんなさい……エクサ。貴女を助ける事が出来なくて……ごめんなさい」
「母さん! 俺は今、幸せでイッパイ、イッ〜パイ! だよ。確かに俺を産んでくれた母さんはいないけれど、育ててくれる母さんならいる!
俺……前の世界で1人だったんだ。いつもいつもいつも! たった1人で死んだ。そんな俺なのに今では、父さんに母さん。ホゼに青にマノアにナナ! みんなみんなみんな! 俺の側に居てくれるんだ! だから、大丈夫だよ」
「エディ……よかったわね」
「うん!」
父さんと母さんと俺の3人で泣いた。
嬉しい時も人って泣けるんだ!
落ち着いてから、母さんに最後の質問をした。
「ねぇ、母さん。母さんはいつの段階で好きから進化したの?」
「進化? そうねぇ……。ルバーとシュードが戦っている時、私はルバーでは無くてシュードを応援してしまったの。負けて欲しくない! そんな風に強く願っていた事に気が付いた時よね」
「そうなんだ。その時、好きが愛に進化したの?」
「ウフフ、エディ。男は痛みで愛を知るのなら、女は想いの深さで愛を知るのよ。よ〜く、覚えておくのね。女の想いは、重いわよ」
「う、う、うん」
なぜか父さんも大きく頷いていた。
その後は晩御飯まで、3人のお喋りは続いたんだ。
この日は父さんの公務はお休みになったのは、少しだけ申し訳無かったかなぁ。
エヘヘ、でも楽しかった。
シュード王と婦人ノジルの出逢いから結婚までの話でした。
好きと愛の違いは……人の感情を文字にすると胡散臭いですなぁ。
作中に出て来た“明鏡止水”と“ラブ”に関しては、分かる人がほくそ笑んで下さい。
次回予告
「ココが予告をするところね。初めて? だっかしら? ハチとロクはした事あるわよね」
『はいワン。でも、ナナもした事あった様な気がするワン』
「そうだったかしら? まぁ、いいわ。で、予告なんだけれど……なになに? ナナとクラーネルの試合から学園の方針が大きく変わった。夏休みを前にして何かが起こるのか! 乞うご期待(仮)……ハチ、ロク、仮って何?」
『あたいも知らないニャ』
『僕もワン。なになに? ……まだ何も書いてないし、どうなるかも不明な為に仮……だって』
「予告なのに、そんなんでいいの?」
『そんなの知らないワン』
『そうニャ』
「だったら少し盛る?」
『めんどくさいからコレでいいと思うワン』
『そうニャ! そうニャ! 書かない方が悪いニャ! ほっとくニャ!』
「そうねぇ。予告終わり!」
次回予告をナナとハチとロクにしてもらったんだが……任せるんじゃ〜無かったと後悔しています。
確かに書いていませんが、バイトもgoもサン&ムーンもあるので忙しいのです!
しかもバイトは書き入れ時で忙しいときた!
大変なのですよ! ナナちゃん!
ですが、来週は今年最後の更新です。
頑張って書くので読んでやって下さい。
それではまた来週会いましょう。




