24話 あらあら、貴族ですって
まったく馬鹿げた話しよね。
忠大に竜王の話を聞いていたら、ガーグスト山を越えて来る魔獣ワイヴァーンの事が心配になり話を聞いたのよ。
そしたら……。
「ナナ様も学園に入りますし、知っておかれた方がいいのではないでしょうか?
ルバー様、ガロス様……いかがいたしましょう」
「うむ……」
「だろう……ね」
あら?
何かしら、お父様もルバー様も言いよどんだわね。
お互いお見合いをして、ハンナを見たわ。
そのハンナは仕方なしに、話しを始めたの。
「ナナ様。各地方を統治している者達が、貴族と言われている事はご存知ですね」
「もちろんよ。ロタ家でしょう」
「はい、そうです。メースロア地方を統治しておりますのがセラ家、マーウメリナ地方を統治しておりますのがモア家、ガーグスト地方を統治しておりますのがノラ家、そしてルジーゼ地方を統治しておりますのがロタ家です。この4家が貴族と言われる方々です。貴族の上には王族がおりまして、下には民の者がおります。そして、魔力を有している者が勇者で、別の世界から来た者と転生してきた者を異世界人と言います。ここまではご理解しておりますか?」
「もちろんよ。私は転生してきたので異世界人ね。……さっきから回りくどいわ。なんなの?」
私がハンナに切り込んだ。
すると、意外な方向から助け舟が出されたわ。
『姫様。どの世界にも偏見や差別は付き物です。この世界とて同じでございます。
私達が調べたところによりますと。勇者と異世界人との間には隔絶した偏見があるようです。民の者は勇者に傾倒し、異世界人のことを便利な道具としかみない傾向があります。なぜその様になったのかと言いますと……一部の人が勇者絶対主義とでも言いますか、勇者至上主義とでも言いますか。とにかく、この世で産まれ育った勇者が一番上で後は配下の者。そんな考えを持つ勇者がおります。その者の考え方が水面下で広がりつつあるようです』
「ナナ様……」
「ハンナ。少し黙っていてちょうだい」
「ナナ様?」
私は怒りに震えたわ。
本当に忠大の言う通りね。
どこの世界にも偏見や差別、虐めや虐待。
この世界にもやはりある。
まったく馬鹿ばっかり。
「ハンナよ。どうもネズミ達が話したようだぞ」
「え!」
「お父様……その通りですわ。この世界にも偏見や差別、虐めや虐待……あるのですね」
「ナナよ。ネズミがどんな風に言ったかは分からんが……ある。民の者は魔獣に怯え、助けてくれる者に寄り添う。強い者の傘の下に入らねば生きて行けぬ。それが世の中よ。自然とより強い者へと民は集まるようになる。今一番多い民を有しておるのはガーグスト地方を統治するノラ家だ。そのノラ家には勇者至上主義の考えを持った者がいる。力の無き者は力のある者に従うべきだという考え方だなぁ」
「お父様……お父様はひょっとして……」
「その通りだよ。君のお父様は、ルジーゼで産まれスアノース育ちなんだ。貴族だった為に勇者クラスに入れられて……だよね。でも当時はね、勇者クラスには貴族と王族もいたんだよ。その中でもひ弱だったのがコイツで、格好の的になっていたわなぁ」
「ルバー……俺に喧嘩を売っているのかなぁ?」
「まぁ~まぁ~、怒るなよ。でも本当の事だろう。それでもお前は努力と鍛錬を続けて、ソノア様のハートを射止めた。何が良かったんだろね」
「そりゃ~、俺の魅力に……なんでだろうなぁ?」
「うふふふ。お父様はとても魅力的ですわ。優しいですし、力も強いですし、私の自慢です」
「ナナ……」
「それにお爺様から教えていただきましたわ。魔力だけで強さを判断していけない、魔力は魔術を使う糧に過ぎぬと。強さとは優しさだと思います。お父様は十二分にお強いですわよ。
うふふ……お父様、お爺様、ハンナ。私は平気です。いじめや差別でへこたれる程、優しい人生を歩んでおりません。返り討ちにしてやりますわ。おほほほ!」
「「「……」」」
「あははは!ワシの孫は最強じゃのぉ~。面白すぎるわ!でもナナ、十分に気をつけるのじゃぞ。そなたが泣けば悲しむ者が、こんなにいることを忘れてはいけぬ。のぉ~ロクとハチ」
そうなの!
いつの間にか、私の影から出ていたの!
そして私のお膝で気持ちよさ気に寝ているのがロクで、足元ではこれまた気持ちよさそうに寝ているのがハチ。
尻尾をハタハタさせながらね。
まったくも~可愛いんだから!
「でも勇者は王国のモノではないのですか?」
「確かにそうじゃが、例外は存在する。貴族や王族に産まれた勇者は、跡取りとなる為に許されとるんじゃ」
「あら?お爺様。異世界人は?」
どうしたことかしら?
お爺様もお父様もハンナもルバー様も、押し黙ったわね。
目の前にあるミルクカップの影を見ると、忠大が話してくれようと口を開きかけた。
『姫様……』
「ネズミよ。俺から話そう。言い難い事をすべてお前たちに言わせるのは心苦しい」
『はっ』
そう言って忠大は口を閉ざしたわ。
代わりに話しだしたのはお父様。
「ナナ……。異世界人は昔、奴隷として扱われていた。この国の者では無い、そんな理由で拘束し知恵を搾取していた時代がある。現国王になり、異世界人といえども奴隷として扱う無かれと発言され、奴隷制度自体が無くなった。ところが今も異世界人を蔑む輩はいるし、統治者になる事は出来ぬ。コレがこの国における異世界人の立ち位置なんだよ。……すまない……こんな国に産まれてきてしまったと、悲しまないでほしい」
お父様は頭を下げたわ。
私は思いっきり笑い飛ばしてあげました。
「おほほほ~!
お父様もお爺様もハンナも、本当に私を甘く見過ぎですわ。私は100年間生きてきたのですよ。のほほんと生活をしてきたのではありません。死ぬような目にも会いましたし、差別に蔑み、自暴自棄にもなりましたわ。それでも真っ当に生きる道を選び、信じて生き抜きました。たかが虐めや差別でへこたれるほど優しい心根は持ち合わせておりません。やり返しはいたしませんが……それ相応の報いは受けていただきますわ。おほほほ〜」
「「「……」」」
あらあら、どうしたことかしら?
お父様もハンナもルバー様も、引きつった笑顔が眩しいわ。
すると忠大が話しかけてきたのよね。
『姫様。竜王の行方について調べて参りましょうか。おそらく遺体となって土に返っているかも知れませんが、痕跡ぐらいはあるものと思います』
「そうねぇ~。気になるけれど……今はいいわ。それよりも、この王国における異世界人の状況について調べてきてちょうだい。幸せに暮らしているのなら問題は無いわ。もし!もしも、虐待や差別、奴隷として扱われているのなら報告してくれるかしら」
『はっ』
「ナナ!僕にもその情報を教えてもらえないかい……」
「ルバー様にですか?教えてしまっても……大丈夫ですか?変な事になりませんか?」
「ナナ!こう見えても、僕の姉は異世界人なんだよ。僕が産まれてまもなくの頃、川遊びをしていた両親が流れ着いた10歳の少女を助けたんだ。僕の育ての親と言っても過言ではないね。物凄く美人で優しい人だよ。僕は異世界人を差別したり奴隷として見たことない!さらに、さらに、言うなれば僕の姉は現国王の第1婦人なんだぞ!もちろんシュード王も奴隷制度には大反対だし、異世界人に対しても差別の気持ちなんかこれっぽっちも持ち合わせていない!まだ、言うと……」
「わかりました!ルバー様!連絡をしますから、それくらいで勘弁してください。それはそうと……気になるワードがありましたわね。第1婦人と言うことは第2婦人、第3婦人といるのですか?」
ルバー様に質問したのに、答えてくれたのはハンナだったわ。
「各貴族と王族は領地を護る使命があるので、勇者が家を継ぐことを許可しています。……勇者を産むために一夫多妻を黙認している始末です。現国王のシュード様は、2人の妻を娶っています。第1婦人はルバー様の姉でノジル様。第2婦人は病を患い亡くなられております。第3婦人はクミア様の2人です。勇者や異世界人だと差別するのはおかしな事なのに、家を継ぐのに男子か勇者かでなければいけないなど、馬鹿馬鹿しい話です」
ハンナが半ギレを起こしていたの。
よほどなんかあったみたいね……そのうち教えてもらいましょう。
それにしても一夫多妻を黙認しているって、何時の時代の話かしらね。
ハンナではないけれど馬鹿馬鹿しい話だわ。
「……と言う事は……」
私はお父様をジロリと見たわ。
すると慌てて否定したのよね。
まぁ~お父様の事だもの、他所に女を作る器用さは持ち合わせていないわね。
「俺!俺はソノア一筋だ!」
「まぁ~、そういう事にしておきますわ。でも得心がいきました。お母様があんなに私の事を心配していたのは差別を受ける事を知っていたからですのね」
「あぁ……その通りだよ。ソノアは差別をする女ではない。ノジル様とも仲良しだし、偏見もない。しかし平気で差別をする者がいる事も、異世界人を奴隷化する事を推奨する為に企む者がいる事も知っている。ナナ、もし辛ければ学園になど入らなくてもいい。俺が何とかする!ナナ…」
「お父様。私は平気ですわ。異世界人の中でも、100歳まで生き抜いた異世界人です。その100年間には殺し合いの末、支配する側される側を作り差別の温床と成り果てた時代もありましたし、そんな中生きてきましたのですよ。そんじゃそこらのヒョっ子と一緒にしてもらっては困りますわ。ただ、あまり気持ちのいい事ではありませんので……何かしら手は打ちましょうかね。うふふ……。ネズミ達、よろしくね!」
『『『『『はっ』』』』』
いつの間にかネズミ達は私の前に勢揃いして命令待ちをしていたの。
だから、お願いしてみました。
周りを見ると……苦笑いのオンパレード。
あれ?
私、変な事を言ったかしら??
「ナナ……君は……何者なんだい?」
「ルバー様?うふふ、私はルジーゼ・ロタ・ナナですわ」
どんな所にも明と暗があると思います。
不幸自慢をするのは、ちょっと違うと思うけれど、誰もが皆何かしらの苦労をしていると思います。
少しでも軽くなるように、明日を笑って過ごせるように、祈っています。
それではまた来週会いましょう。




