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22話 あらあら、混乱したなぁ〜ですって

 ハチとロク、ネズミ達に恭順の首輪をつけて私の配下に据える事に成功したの。

 これでこの子達は、安心よね。

 とりあえず、ホッとした。


 スアノース王国に来て、初めてまともな食事をしたわ。

 なぜか、魔獣なのにハチもロクもネズミ達も美味しそうに食べていたの。

 確か魔獣って、お腹は空かないのでは?

 でも美味しそうに食べているから、良いんだけどね。

 夕食も終わり、お父様の執務室で食後のコーヒーを頂いていたわ。

 と言っても私はミルクだったけれどね。

 それにしてもよ。

 この世界に来た異世界人の、食に関する欲求は果てしないわね。

 驚きを通り越して呆れたわ。

 だってカツ丼に親子丼、天丼に海鮮丼。

 ちなみに本日のメニューは親子丼でした。

 似たような素材を探してきては研究を繰り返し、この世界で前の世界の料理を再現したみたい。

 何より驚いたのが、豆があること。

 豆があるという事は味噌が出来て、醤油も作れる。

 悪無き欲求……恐ろしいわ。

 そんな事を考えていると、ルバー様が紙とペンをテーブルに置いて話し出したの。

 聞きしに勝る迫力で来たのよね……こちらも恐ろしいわ。


「ナナ……すまないが答えてもらうぞ。

 魔獣とは何だ!魔族は実在しているのか!あの山の向こうは何が広がっているんだ!!」

「ルバー様。落ち着いて下さい。私が異世界人だとバレてからここまでで、感じたことがございます。私はこの世界の事を何も知らないのだと。知っている事はハチとロク、ネズミ達から聞いた話と前の世界での記憶だけです。私には何が当たり前で、何が非常識なのかが分かりません。そこで質問形式でお答えします。ルバー様、答えていただけますか?」

「も、も、もちろんだよ」


 迫り来る意気込みをいなして、話の主導権を手にしたわ。

 そうでないと余計な事まで話さないといけなくなりそうだもの。

 ハチとロクとネズミ達の話はなるべくしたく無い。

 私の方が悲しくなりそうだからね。


「では質問です。獣と魔獣の違いは何ですか?」

「それは……」

「魔力の違いですわ。ナナ様」

「ハンナ……確かにそうだわ。では魔獣はどこから産まれてくるの?」

「「はぁ?」」


 ハンナは間抜けな声を出したわ。

 もちろんルバー様もね。

 ところがお爺様とお父様だけは渋い顔をしていたの。


「え……それは……魔獣として産まれてくるのではないのですか?」

「ハンナ、それでは正解とは言えないわね。私の質問も悪かったかしら?

 魔獣はね……産まれるのではなくて造られるが正解なの。魔獣の元は全て獣なのよ。理解できたかしら?」

「「……??」」

「う〜ん……魔獣は……説明し難いわね。簡単に話すと、獣に従魔の首輪をつけて魔力を注ぎ、魔獣へと進化させるの」

「なるほど!コレで理解できたぞ、ガロスよ!あの突起には魔力を注ぐ役目もあったんじゃ」

「確かに、そうですね。父さん!血を付けるだけなら突起は必要ありません。その血を獣の中に入れる事により、強力な魔力を注ぐ事が出来るのですね。なるほど」


 私の話を聞いた、お爺様とお父様が興奮気味に話しだしたの。

 ハンナとルバー様は置き去りよね。


 ちなみになんだけれど、ハチとロクは私の影の中ですやすや寝ているわ。

 ネズミ達は今日得てきた情報を整理しながら私の話を聞いているんだけれど、面白いのが彼らは一心不乱に絵を描いているのよ。

 丸とか三角とか描いているのよね。

 でも……でもね、小さいの!

 もう少し大きく描かないと伝わらないわね。

 あれ?

 ハチとロクは従魔の首輪では無くて進化をしているわ。

 でもネズミ達は従魔の首輪で魔獣に進化したのよね。

 それなのに、私が出会った時は首輪をしていなかったわ……なぜかしら?

 気にはなるけれど、今は脱線した話を元に戻さないと。


「お爺様もお父様も、落ち着いてください。話が逸れていますわ」

「す、すまんのぉ。長年の謎じゃったからついつい興奮してしまったわい」

「確かに、興奮です」

「ルバー様!ここからが本題です。話をしっかり聞いて下さい」

「……分かった」

「魔獣は獣が魔力を注がれ進化したものです。では人族側に度々、出現していた魔獣とハチ達、そして今回のワイヴァーンとでは何が違うのでしょうか?」

「え!……君がワイヴァーンの件で言っていたね。そう、理性があるか無いかだ」

「ルバー様、その通りですわ。ではなぜ理性が無いのでしょう?」

「はぁ?」

「それは、失敗ですの。従魔の首輪と言えども万能ではありません。少し時間をいただけますか?……ありがとうございます。ねぇ忠吉、従魔の首輪について聞きたいんだけどいいかしら?」

『はっ』


 そう言うなりミルクカップの影から忠吉が出現したわ。

 何処からでも出て来るのね。


「相変わらず神出鬼没ね」

『僕達は影移動が出来ます。スキル影の上位版、影法師の最大の特徴です』

「へぇ~便利ね。そうそう、従魔の首輪なんだけど使い捨てではないの?」

『いいえ違います。ですがほぼ使い捨てです。と言いますのも、一度使いますと外すことは出来ません。首にピッタリと張り付き皮膚に食い込みます。そうする事で魔力が身体全体に行き渡るわけです。首輪の形が残っていれば再利用は可能ですが、少しでも傷が入ると使い物になりません』

「だったら、なぜ貴方達は私に会ったとき首輪はしていなかったの?」

『はっ、それは……』


 突然ミルクカップの影から忠大が出てきた。


『姫様。その話はあまり気持ちの良い話ではありません。お聞きにならない方が良いと考えます』

「忠大……私は貴方達のことは知っておきたいの!教えてちょうだい。私は平気だから」

『私から話すから、忠吉は下がっていろ。

 私達ドブネズミは初め1000匹居りました。900匹は首輪に吸収され消えてしまい、残り100匹は魔獣へと進化しました。しかし、魔力が少なく使い物にならないと判断されてしまい、無理やり従魔の首輪を外されました。そのさい生き残ったのが私達5匹のみ。今は恭順の首輪をしていて見立ちませんが、傷跡は残っておりますよ。もちろん、痛みはありません。1番魔力が多かった忠凶のが分かりやすいかもしれませんが……ご覧になりますか?』

「もちろんよ」


 私の目の前に忠凶が進み出て、首周りの毛をかき分けてくれたわ。

 恭順の首輪の上下に現れたのは、消える事ない痛みと苦しみを具現化した様な傷跡があった。

 私よりも先に反応したのは……。


「ナナ様!この傷跡は……何ですか?」

「ハンナ、この傷跡は従魔の首輪を無理やり剥がされた跡よ。首輪はリサイクル出来るみたい。首輪を着けて魔獣と成れても魔力が弱ければ無理やり剥がされ、もう一度首輪として作り直す事が出来るようよ。忠凶、ありがとう。私は貴方達を心から歓迎します。ルジーゼ・ロタ・ナナが責任を持って貴方達を守ります。ですから貴方達は私の為に働いて下さい。これからも末永く、よろしくお願いします」

『『『『『はっ』』』』』


 列に戻った忠凶も、膝を立て左手を胸に当てて頭を下げたわ。

 綺麗に揃った騎士の礼を私はしっかりと心に刻み込め、ルバー様達を見た。


「従魔の首輪にはまだ問題があります。ネズミ達のように魔力が弱くとも理性が残っていれば、そのまま放置できます。ですが魔力が強くとも理性が無ければ扱う事は出来ません。そういった状態の魔獣をオーバードライブと言うそうです。操作できない魔獣を放置すれば自分たちも危うくなります。そこで魔族はオーバードライブした魔獣を首輪ごと人族側に捨てている……コレがこちらで言うこところ魔獣だと思います。理解出来ましたか?」

「「「……」」」


 皆が同じ顔をしていたわ。

 目が点と言うヤツね。

 その表情を私は“理解した”と捉えて話を進めた。

 だって、返答がないんだもの。


「次の質問です。魔族と勇者の違いはどこにあるのですか?」

「「「!!!」」」


 これまた返答が無いわ。

 少し待って見るかしら?

 私は小首をかしげてハンナを見たの。

 するとハンナはルバー様を見て、ルバー様はお父様を見て、お父様はお爺様を見たわ。

 お爺様は……難しい顔をして話し出した。


「……魔力の量かのぉ……?」

「質問が難しかったのかしら?お爺様、お父様、ルバー様、ハンナ、正直言って私は魔族を見たことがないわ。そんな私でも、話を聞いただけで違いが理解できましたの。魔力を持つ者という意味では同じでも志が違うように感じました。

 ロクやハチの話を総合しますと、魔族は膨大な魔力を宿していて奪い従える人。さらに付け加えるとしたら、自己顕示欲が精強で、強力な魔力を求めて同族殺しさえも厭わない方々。一方、勇者は魔力を宿し民を守り命を支える人。もちろん学園制度が確立してからは少し違うのかもしれませんが、それでも根本的理念は変わらないと感じますわ」

「ナナ様、その通りです。勇者は民を守り命を支える人。ガウラ様の時代の信念は今も脈々と受け継がれています」

「それでこその勇者だと私も思うわ。ではハンナに……では可哀想ね。ルバー様に質問です」

「もちろん、どうぞ」

「魔族はどうやって魔力を奪うのでしょうか?」

「……同族殺しも厭わない……ハンナでは答えにくい……この事から推察される答えは……」

「それ以上、答えなくても結構ですわ。さすがルバー様です。ですが実際には悪魔的思想ですね。

 はぁ~……魔族が魔力を奪う方法は、自分より強い魔族の血を浴びるか、飲むか、捕食するか……ですわ。魔族にもいろんな方がいるようです。山奥でひっそりと暮らしている者や強い配下を集める者。そして、奪う者。

 今回、魔獣の中の魔獣。最強の魔獣竜王が何者かに襲われ一族もろとも奪われてしまったとのことです。その際に紅蓮の竜王が瀕死の体でメースロア山を越えて、人族側で亡くなったと思われます。魔獣ワイヴァーンはその死体を取りに来た……そんなところです。少しでも魔獣や魔族の事を理解してくれましたか?」

「「「……」」」

「理解してくれましたか?」


 もう一度念を押すために言ったのに、また無反応だわ。

 でも反応が無いのではなくて、理解するのに時間がかかっているのかしら?

 そう思っていると口々に出てきた言葉は……。


「ナナ様、混乱ですわ」

「ナナ…君は理解できたのかい?」

「……さらに混乱したなぁ……」

「ルバーよ。ナナの言葉を纏め王に報告せよ。さらに恭順の首輪はすべてルジーゼ・ロタ・ナナへ譲り渡す。またナナ以外、使用を禁ずる。製作者ルジーゼ・ロタ・ガウラの言葉と記せ。よいな、天地万物の勇者ルバーよ。しかと記せ、分かったなぁ」

「はっ」


 お爺様が格好良く話を纏めてしまったわ。


 そして恭順の首輪は私のモノとなったのね。

 当たり前と言えば……当たり前よね。


 だって私しか使えないもの!


まずは……申し訳ありません!

昨日、更新したかったのですが私の具合が悪く本日更新となりました。

来週は必ず金曜更新いたしますので……見捨てないで〜ください。


人族側に魔獣や魔族の事が伝わりましたが、何がが動き出すのでしょうかね。


それではまた来週会いましょう!



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