27 『タレントブルーム』
サツキとルカは、レオーネの《発掘魔鎚》によって、仲間だけでも潜在能力を引き出して欲しいと頼んだ。
その人が持って生まれた能力、すなわち潜在能力は、だれもがすべて引き出せているわけでもなければ、秘められた力に気づいてさえいない場合もほとんどだろう。《発掘魔鎚》は、その潜在能力の階段を一つ引き出し、一段分のぼらせてくれるという魔法だった。
これによって、サツキとルカは自身の持つ能力が驚くほど解放されたように思った。サツキは魔眼で見えるレベルが上がった実感や、銃弾を剣で斬る瞬発力など、こんなことができるようになっているのかとラナージャでは驚いたものだ。ルカも、《思念操作》でコントロールできる精度が格段に上がった。ルカの魔法《思念操作》は考えただけで物体を動かすことができるが、細かいコントロールは苦手だった。しかし、その精度が上がった。
それを、どうか仲間にも施して欲しい。
二人はそんな想いで頭を下げた。
――レオーネさん、聞き入れてくれるだろうか。
金銭で買えないものを得るのだから、やってくれることの大きさは簡単には測れない。
緊張しながらサツキはレオーネの答えを待った。
レオーネは、そんなサツキとルカに穏やかな目を向けた。レオーネから見て、サツキとルカはクールだ。生真面目な表情やその知性が持つ怜悧さがそう見せている部分もあるだろう。だが、これが必死で真剣な頼みなこともよくわかった。だから、レオーネは涼しく微笑しつつ、爽やかに答えた。
「ヴァレンさんが士衛組に入った。そして、オレたちは同盟関係になったも同じ。ならば、協力は惜しまないよ。謙虚は晴和人の美徳だけど、ここはマノーラ。貪欲なほうが好まれる。マノーラではマノーラ人のするようにせよ、ってね。キミたちの情熱は受け取った」
「ありがとうございます」
と、サツキとルカが再度頭を下げた。
クコが問うた。
「あの。どういうことでしょう?」
「実は、俺とルカはレオーネさんとロメオさんに会っていたとは話したが、そのとき、魔法《発掘魔鎚》で潜在能力を引き出してもらっていたんだ」
「ガンダス共和国、ラナージャのときね」
と、サツキとルカが言って、ミナトがおかしそうに微笑む。
「なるほどねえ。確かにあのときは、強くなりすぎてた」
「だな」
玄内も納得したようにうなずいた。
サツキが尋ねる。
「確か、潜在能力は階段のようなもので、その階段の数を上限一つ分増やして、今いる段数も一段上らせる、みたいなことでしたよね」
これを、サツキは自分のいた世界のテレビゲームに例えて考えた――その場合、100レベルが上限のキャラクターがいて、現在50レベルすると、51レベルにレベルアップして上限レベルが101になるようなものである。ただし、その101レベルと100レベルの能力差がどれほどのものなのかは、その人によっても異なる。
これにはロメオが紳士然と答えてくれた。
「ええ、《発掘魔鎚》における潜在能力の解釈はそれで大丈夫です。人によってはその階段の段数が多かったり少なかったり、一段の高さも高かったり低かったりします。人それぞれ、各段の高さもまちまちです。高い壁を乗り越えるときもあれば、小さな壁を乗り越えるときもあるようにね。乱暴な例を挙げれば、3つの高い壁を乗り越えた格闘家と、小さな壁を100個乗り越えた格闘家、二人が同じ強さから始まり同じ強さにまで到達することもあるでしょう。この先、前者は4つ目の壁が潜在能力の限界であり、後者は200個目が潜在能力の限界かもしれない。はたまた、後者の限界は101個だけどその壁だけはとてつもなく高いかもしれない。けれども、レオーネが《発掘魔鎚》のカードを引いて使うとき、引き出せるのは一人につき一段です」
ここで、クコが質問した。
「カードを引く、とはなんのお話でしょうか?」
「まだ説明していませんでしたね。レオーネの魔法は《盗賊遊戯》。魔法の原理を知ればカード化して自分もその魔法を使えるようになります。カードの枚数を五十三枚としてデッキをつくり、そこからカードを引いて手札とする。手札から好きな魔法を選び使えるというものです。使ったらそのカードはトラッシュして、次のカードを山札から引く。デッキは用途に応じていくつか持っていて、手札を操作するための補助カードのようなものもあります。一度トラッシュしたカードを使いたければ、デッキを入れ替えることでリセットするという手順が必要です」
と、ロメオが説明した。レオーネがにこやかに、
「ランダム性があるのが玉に瑕かな。デッキを入れ替えるのにも、カードを五枚以上トラッシュする必要があるしね」
「なるほど! すごい魔法です」
「先生の魔法にもちょっと似てるかも」
ヒナはレオーネの多彩さにそんな感想を抱く。
レオーネは爽やかな口ぶりで、
「潜在能力の話に戻すと。階段の段数が多い人ほど多く引き出せるため、《発掘魔鎚》を使える回数は人それぞれってこと。むろん、段数を増やしても自分でのぼらないとさらなる高みへは行けない。この《発掘魔鎚》で発掘できるのは、通常で生涯に五回から十五回といったところかな。元の術者であれば、つまりオリジナルであれば、もうちょっと可能だけどね。あとは、もっと進化したいなら、別の魔法で才能開花や潜在能力の解放をするしかない。あるいは、自分の力でそれをするか――だ。とりあえず、ここにいる間はオレがこの魔法で発掘していこう。今日やってみて、明日以降も一日に一度ずつ、可能な限り続けてみる。裁判当日まで、九回はできる」
その中で、すぐに限界に達してしまう人もいるだろうが、それだけ階段をのぼれば相当強くなれると確信できる。むしろ、階段の一段一段の高さが高ければ高いほど望ましい。自分で高い壁を乗り越える必要がないからである。高い壁を越えさせてもらって上限に達したとすれば、都合がいい。
プラスされる能力だが……。本来は眠っていて、自力で目覚めさせるのが極めて困難な才能であり、上限100レベルで例えた101レベルが、どれだけレベルアップまでに経験値を必要とするのか、そしてどれだけステータスが伸びてくれるのか、それは人それぞれな上に未知数だ。
サツキの成長を横で見てきたミナトは、ロメオによるレオーネの魔法についての解説も話半分に聞いて、高揚していた。
――楽しみだなァ。僕が強くなるのも楽しいが、サツキがどれだけ強くなるのか。キミはもっともっと、強くなれるんだから。
ミナトの微笑みに気づき、サツキは顔を向ける。
「どうした?」
「いいや。楽しみで仕方ない」
「うむ。みんなが強くなるのは、楽しみだ。自分の成長もそうだけどな」
「そういえば、お人よしだったなァ、サツキは」
「ん?」
サツキはミナトの言葉の意味がわからず、ぽかんとした。
玄内は話をまとめるように口を開いた。
「大筋はわかったぜ。うちの隊士たちがそこまでしてもらうんだ。こっちとしてもやれることはしてやる」
「なんでしょうか?」
レオーネが聞くと、玄内はニヤリと口の端を吊り上げた。
「《魔法管理者》」




