15 『シークレットソサエティー』
ヴァレンは、士衛組の仲間の一人にしてくれと言った。
思いがけない申し出に、士衛組一同は面食らった。
テーブルの下で、クコが隣に座るサツキの手をそっと握る。その手を自分のスカートの上に置いた。サツキの手はクコの手と太ももの間にくる。クコは手をつなぐと、つないだ相手とテレパシーで会話できる《精神感応》という魔法を持っているのだ。
「(サツキ様)」
「(なにかね?)」
「(リラの恩人を疑うつもりはありません。わたしはヴァレンさんが仲間になっても構いません。でも、サツキ様なりに考えて結論を出したのであれば、わたしは納得するつもりです)」
「(そうか)」
ルカが問うた。
「ありがたい申し出ですが、先に理由を聞かせてください。今世紀最大の『革命家』にして、盗賊団ともマノーラの裏の警察とも噂される組織の首領のあなたが、なぜですか?」
ヴァレンは平然と、
「アタシがあなたたちに期待しているからよ。世界を革命する組織になるんじゃないかって思ってるの」
サツキはヴァレンに言った。
「俺は世界の革命になど、興味はありません」
「でも、あなたたちは、少なくともアルブレア王国には革命をもたらすつもりでしょう?」
「どうしてそれをご存知なのですか?」
前のめりにクコが聞くと、ヴァレンは品よく笑った。
「ンフ。もっと隠しておかないとダメよ。素性も目的も、まだ秘密なんじゃない?」
はっとしてクコは手で口を押さえるが、もはやなんの意味もない。この店内はラファエルによって人払いされているし、相手はこちらのことは知っているのである。
玄内が呆れたようにクコを一瞥する。
「『ASTRA』に隠し事は無意味だ」
「あの、『ASTRA』ってなんですか?」
サツキが聞くと、ルーチェが答えてくれた。
「平和のための革命軍であり、正義の味方です。サツキ様たち士衛組の皆様と同じですね。ただ、『ASTRA』にはスパイ組織やマフィア組織の一面もあるでしょうか。盗賊団だという人もいますが、義賊的なことをまれにすることもあります」
これだけの説明では、『ASTRA』の活動の幅が広すぎて、逆にわからなくなる。
ヴァレンが優雅に述べる。
「アタシたち『ASTRA』は、世界中にその情報網を張り巡らせているわ。だから大抵のことはわかっちゃうのよね。たとえば、アルブレア王国の王女姉妹が城を抜け出し、旅をして仲間を集めて、悪の大臣と国を賭けて戦おうとしていることとか」
ルーチェが慎ましくリラに微笑みかけて、
「ワタクシたちがリラ様にお声がけしたのは、アルブレア王国の王女だと知っていたからではありませんよ。ワタクシが気になってしまいまして」
「そうでしたの」
と、リラも楚々と笑った。リラには、ルーチェやヴァレンに悪意がないことも、リラを利用しようとする意志などないことも、しゃべってみたからわかる。
サツキはクールな面持ちのまま言葉を返す。
「ブロッキニオ大臣のことまでご存知でしたか。しかし、彼を悪と断定できるのですか?」
「ンフ。だって、あれは悪だもの。彼なりの矜持や、彼の革命性は、一定の人を惹きつけるものもあるかもしれない。けれど、悪意を持っているし、悪意を振りまく行動を起こしている。それがわかってるから、あなたたちも戦うのでしょう?」
「確かに、戦うことにはなるでしょう。ただ、俺たちがするのは革命ではなく、取り戻すことだけです」
「それだけで済むかしら? アタシはね、あなたたちなら、二度と同じことが繰り返されないように、なにか手を打つと思ってるの。それがすなわち革命と呼ばれるほどのものになるってね」
「……。そうですか」
サツキはなにも思案を持たなかった。けれども、「ただ勝つだけでいいのか?」と自問自答を繰り返していたところでもあり、ヴァレンの言葉通りに、なにか手を打ちたいとも思っていた。
――俺はまだ、どんな手を打つか考えている段階でしかない。ヴァレンさんには、なにか具体策はあるだろうか……いや、俺がクコとリラと考えなければならないことだ。今聞くべきはそこじゃない。
むしろ、サツキはヴァレンという人を知りたかった。ヴァレンを知らなすぎる。これはただ者ではない、一種の超人だと思える空気は肌感覚でわかるが、何者なのか、表面的な人となりやパーソナルデータが欲しい。
だが、あなたはいったい何者なんですかと聞くのも失礼な話だ。むしろ、対話によってヴァレンを知っていくのがよいかもしれない。
サツキは問いを向けることにした。




