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4 『ロストレガシー』

 ミナト、バンジョー、チナミが甘い物を食べに行ったので、残ったのはサツキとクコ、リラ、ルカ、ナズナ、ヒナ、玄内になった。一応、フウサイは常にサツキの影に潜んでいる。


「集合が四時か」


 サツキのつぶやきに、ルカは無表情に言った。


「どうやら、今日はこの街に泊まることになりそうね」

「うむ。そのようだ」


 四時に集まっても、すぐに出発できるかはわからない。仮にすぐに出ても、ポパニの街から出られるのが夕方になってしまう。サツキとしては、一日だけ歩みが止まることも、特に気にしていない。気に入らないのはヒナのようである。


「えー。早くマノーラに行きたいぃー」

「お気持ち、わかります」

「しょうが……ないよ、ヒナちゃん」


 リラが共感を示し、ナズナがヒナの背中をさすってなだめるが、ルカはクールに言う。


「さっきまで、早く着くに越したことはないんじゃない? とか澄まし顔で言ってたのはどこのだれだったかしら」

「あ、あのときはサツキの気遣いが……って、なんでもないわよ!」


 顔を赤らめて怒るヒナを見て、ルカはため息をつく。


「まったく。相変わらず素直じゃない子ね」

「あんたには言われたくないわよ」


 ヒナとルカの間に入るように、リラが説明する。


「ポパニからマノーラまでは、列車が走っています。あとは列車に乗れば二時間ほどですわ。夕方の便も取れるかわかりませんし、明日ゆっくりでも」


 それを聞いて、ヒナはため息をつきつきナズナに後ろから抱きついてもたれかかる。


「確かに、ポパニ発は十七時が最終便だから間に合うか微妙なところだけどさ」

「まあ、早く行くのに越したことはないっていうのには、私もめずらしく同意しても――」


 と言いかけたルカの言葉と、サツキの発言がかぶる。


「俺のいた世界では、この都市も『世界三大夜景』と言われていたんだ。ここに泊まれば、きれいな夜景が見られると思うぞ」

「いいわね。サツキ、どこで夜景見る?」


 ルカがサツキの腕に絡みついて聞くと、ヒナがそれを引きはがす。


「油断も隙もないわね! ルカ、あんたあたしたちの存在無視してない? 今日もサツキは、夜はあたしと先生といっしょに研究するのよ」

「では、研究しながら、みんなで夜景を見ましょう!」


 クコが元気溌剌、右手をあげて提案した。

 だが。


「却下」


 と、ヒナとルカに言われてしまう。声がそろった。


「え……?」


 どうしてダメなのか、クコにはよくわからなかった。呆然としてしまっている。


「お姉様」


 リラが苦笑交じりにクコをなぐさめる。


「わたしもサツキ様と夜景が見たいのに、どうしたらいいんでしょう?」

「強引にみんなで見るのが一番よさそうですね。お姉様の意見が一番丸くおさまります。ふふ」


 と、リラは微笑む。


「いいですよね?」


 リラが振り返ると、


「あら?」


 もうサツキはいなかった。

 玄内といっしょに歩き出していた。


「サツキ、古代都市の遺跡がある。こっちだ」


 と、玄内が口の端をニヤリとさせて、サツキも目を輝かせている。


「それは気になりますね」

「遥か遠い時代の遺跡だ。古代人が残したらしい」

「俺の世界には、ナポリの近くにポンペイという古代都市があって、火山の噴火で――」


 としゃべっている。

 ポンペイの話を聞いて、玄内は楽しそうだった。


「おまえってやつは、話が弾むぜ」


 サツキも玄内も知的好奇心が強く、探究心が強い。科学も歴史も好きだし、つい先日、サツキが召喚される前にいた世界がこの世界と地続きだという仮説も立ったばかりで、もしかしたらこの世界の歴史にも影響を与えているかもしれないのである。玄内もサツキの話には興味を惹かれていた。


「て、ちょっと待ちなさいよー!」


 ヒナが慌ててサツキを追いかけ、ルカは苦笑を浮かべて歩き出す。

 リラはくすりと笑ってつぶやく。


「サツキ様ったら、相変わらずです」

「そうだね」


 とナズナも楽しそうだった。


「ほら、リラもナズナさんも行きましょう」


 クコが二人の手を握って、青葉姉妹が走り出しナズナが背中の羽で飛んだ。

 ナズナは背中につけたぬいぐるみのような羽をぱたぱたさせ、《(てん)使()(はね)》という魔法で空を飛ぶことができるのである。


 サツキたちは、列車に乗った。

 晴和王国の『()()(みやこ)(こう)(ほく)(みや)から『王都』(あま)()(みや)に行くときに乗って以来、サツキがこの世界に来て二度目の乗車だ。

 列車は、アルブレア王国が最初に運行を始め、晴和王国、メラキア合衆国、シャルーヌ王国、ミゲルニア王国、イストリア王国など限られた国でのみ走っている。まだまだ鉄道技術は発展し始めたばかりなのだ。

 ちょうど、ポパニの中心地からは列車が走っており、列車では三十分ほどかかる。

 海沿いを走るため、列車からの景観も見事だった。

 窓から見える景色に目を奪われている間に、遺跡近くの駅に到着してしまったほどである。

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