1 『コメットリサーチ』
本日から新章『イストリア王国編』が開始しました!
今回の『イストリア王国編』はちょっと長めになる予定です。
最初がマノーラへと旅をして、マノーラ到着後にサツキとミナトが円形闘技場コロッセオに挑戦する修業・成長パート『コロッセオチャレンジ』になります。
ヒナの父・浮橋教授との再会もこのパートでありますが、裁判はまだちょっとだけ先になりますので、それまでのお話もお楽しみください。
また、この『イストリア王国編』からは、本作と同時に連載している『ASTRANOTE』の主人公コンビ・レオーネとロメオも、主要キャストとして登場します。
二人は本編中ですでにサツキとルカに出会っていて、『メイルパルト王国編』でも再登場をほのめかしていました。
『ASTRANOTE』は一話ごとのページ数もやや短く読みやすいと思いますので、そちらも読んでいただけるとうれしいです!
両作品共、ブックマーク・評価、感想など、応援よろしくお願いします!
刀と刀がぶつかり合う。
激しい音を立てて、火花さえ散る。
ミナトは歌うように言った。
「もしかして、僕に本気出せって言ってる?」
口元に浮かぶ微笑も、いつもの透き通ったような朗らかさではない。挑発的だった。
「わかるかね」
「うん。剣が、そう言ってる」
つばぜり合いの形から、ミナトはぐっと押した。
サツキとの距離が取れた。
「じゃあ、いくよ」
真剣での勝負など、普段はほとんどしない。竹刀を使う。けれども、サツキとミナトはたまにこうして真剣を使った修業もした。
タッと音が鳴り、ミナトが一気に距離を詰めた。
間合いに入るのも一瞬なら、斬り下げるのも一瞬である。
《瞬間移動》という魔法を使ったから、そこにミナトの剣術も合わされば、常人ならば反応することさえできない。ミナトが『神速の剣』と呼ばれるゆえんである。
しかし、サツキは特別な目を持っている。
これを《緋色ノ魔眼》といって、通常では目に見ることのできない魔力というものを視認でき、かつ筋肉のわずかな動きや重心の移動をも把握可能にする。
また、激しい音が鳴った。
「あはは。いやあ、まいったなァ。ギリギリで止めてあげることも考慮してたのに、受けたばかりか、吹き飛ばないなんて」
涼しい顔のミナトに対して、サツキは歯を食いしばって「く」と力を込めた。
「はあぁぁぁっ!」
つばぜり合いの形から、サツキが刀への力をさらに込めて、ミナトを押し飛ばす。
「《波動》の力かな。パワーだけじゃあ崩せない。むしろ、僕より強い」
「スピードに差がありすぎるけどな」
「それも、サツキの《緋色ノ魔眼》がカバーしてる。もう僕の《瞬間移動》に反応できるようになった。普通、何度見せても反応できるようになる人などいないのに」
「でも、いないこともないんだろ?」
「うん。例外はいる。オウシさんとスサノオさんはきっちり反応する」
「なるほどな」
ミナトが手の力を抜く。
「で、サツキ。なにかわかったかい?」
修業中のライバルというより、友だち同士みたいな声に戻る。気になるものを見つけて相談し合う調子である。
「うむ」
サツキも肩の力を抜いて、刀を鞘に戻した。
カチン、とミナトも刀を収める。
「おお。それで?」
「ミナトの《瞬間移動》には、弱点もあるようだぞ」
「サツキ、そこまでわかったのか。話してよ」
実は、サツキとミナトは、ミナトの魔法《瞬間移動》について二人で研究していたのである。
時は創暦一五七二年九月三日。
どこにでもいる普通の少年・城那皐が、異世界から召喚されて、約五ヶ月が経過した。
サツキが降り立ったこの世界は、世界樹という大木が人々に魔法の力を与えた、魔法世界である。
目覚めると上空から落下していて、途中で気を失って、再び目を覚ますと、見知らぬ少女の腕の中にいた。サツキを召喚した少女・青葉玖子に抱きとめられたのだ。
クコは、サツキより一つ年上、白銀の長い髪を持ち、背もサツキより少しだけ高い。実は、アルブレア王国という国の第一王女で、国を救う手助けをしてほしいと頼まれた。
悪の大臣に乗っ取られようとしているそうで、話を聞いたサツキは、クコに協力することにした。
サツキは、世界樹のある晴和王国に召喚されたため、遥か遠くにあるアルブレア王国を目指すことになる。
サツキのいた世界と酷似した地図を描くこの魔法世界では、世界樹は日本にある。そこが晴和王国である。クコのアルブレア王国はイギリスに相当するため、日本からイギリスへと旅するようなものだ。
文明はサツキの世界でいう幕末から明治時代だろうか。西暦一八五〇年から一九〇〇年くらいと思われる。発展した技術に違いもあるし、科学レベルも一概に言えないが、自動車や飛行機などもない。だから長旅になる。
まず、二人は、その旅の中で、王国奪還を目的とした組織『士衛組』を結成した。
アルブレア王国への道中、仲間を増やして、現在では十一人になった。
士衛組には役職もある。
組織のトップでリーダーが局長のサツキ、サブリーダーが副長のクコ。
参謀役で局長の秘書を兼ねる総長が医者の娘・宝来瑠香。
この組織の頭脳となるサツキとクコとルカは司令隊と呼ばれる。
次に、壱番隊隊長が不思議な少年剣士・誘神湊。壱番隊隊士はもう一人いたのだが、実はスパイであり脱走したために、現在では壱番隊はミナト一人しかいない。
弐番隊は三人いる。弐番隊隊長は、亀の姿をしたダンディーな『万能の天才』玄内。その正確な年齢はわからないが、渋いおじさんのようで、士衛組のご意見であり指導役でもある。弐番隊隊士は陽気なメラキア人の料理人・大門万乗と地動説証明のためにイストリア王国を目指す少女・浮橋陽奈。
参番隊も三人。参番隊隊長がクコの妹で第二王女の青葉莉良、参番隊隊士はクコのいとこで空を飛べる少女・音葉薺とそのナズナの幼馴染みで祖父が藤馬川博士の学者仲間でもある海老川智波。
最後に、偵察や局長の護衛を担う監察が、超一流の技を持つ影の忍者・夜鳶風才である。
そして現在――サツキたち士衛組は、イストリア王国に上陸して、首都マノーラを目指して旅をしていた。
サツキの世界の記憶と照らし合わせれば、地理的にはイストリア王国がイタリアになる。首都マノーラはローマだ。
そこでは、仲間のヒナにとって大きな目的があった。
父・浮橋教授の裁判に参加することである。
浮橋教授は地動説を唱え、宗教裁判にかけられている。
異世界の知識を使ってサツキも協力し、『万能の天才』玄内も知恵を尽くし、ヒナと三人で地動説証明の論理は導き出せた。あとは、イストリア王国の首都マノーラに行き、浮橋教授と会って裁判当日までに話を詰めるだけである。
裁判まであと二週間ほど、マノーラへの旅路の中でも、サツキとミナトは修業と研究に余念がない。
ミナトが聞いた。
「僕の《瞬間移動》が、オウシさんとスサノオさんに捕まるのには、なにか理由があるんだろう?」
「あの二人は特殊な感知法を使ってると思われるから、俺の気づきとは違うだろうけど理由はあるはずだ。俺はオウシさんみたいに《波動》で感じ取るんじゃない。目で見えた」
「《緋色ノ魔眼》。だもんね」
それがサツキの魔法である。魔力を可視化することができ、動体視力も高まり、身体の重心や筋肉のきしみもわかる。
「俺の緋色の目で見たところ――魔力の帚星、とでも呼べばいいのかな。魔力の痕跡のようなものがかすかに見えるんだ。ミナトの《瞬間移動》には」
いつも読んでいただきありがとうございます!
新章に入ったので、サツキとミナトのラフイラストを掲載します。
二人それぞれの初登場時にも掲載したイラストになっていて、クリック・タップすればみてみんからキャラクタープロフィールをご確認いただけます。
みてみんのページにはプロフィールのほか活動報告へのリンクがあるので、そちらで別衣装やカラーイラストなどもごらんいただけます。
今回はまだサツキとミナトしかセリフもありませんが、次回からほかの士衛組メンバーも登場します。クコやリラたちのラフイラストも、みんなが登場する次回に掲載しますね。
そんな始まり方をする『イストリア王国編 コロッセオチャレンジ』では、サツキとミナトがメインになるので、二人の活躍にもご期待ください!
【サツキ】
【ミナト】
おまけで、サツキとミナトが二人でいるカラーイラストも掲載です!
神龍島編の時に掲載したものですが、神龍島の中の特定の場所を描いたものではありません。カラーでの二人のイメージ補完になれば幸いです!




