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54 『主従あるいは散歩』

 サツキは、一人で走り出してすぐ、思い出した。


「あ。フウサイは……」


 いつも忍術でサツキの影に隠れているフウサイだが、上空にいたら影は地面だ。あまりに遠いと地面に影さえできないかもしれないし、サツキは不安になった。

 だが、声が答える。


「ここにござる」


 姿も現れた。


「よかった。離れたわけじゃなかったんだな」

「御意。人間、完全に影がなくなることはないゆえ」


 特殊なシチュエーションでもない限り、完全に消えることはないらしい。

 忍者・フウサイは、常に影から主君・サツキを見守っている。《(かげ)()(がくれ)(じゅつ)》という忍術で他者の影に潜めるのだ。また影に隠れようとしたところで、サツキは言った。


「せっかくだから、いっしょに歩かないか?」

「よいのでござるか」

「うむ」

「では」


 主従二人、並んで歩く。

 サツキは聞いた。


「フウサイは、ミナトの魔法のこと知ってたんだよな」

「一応、存じていたのでござるが、ミナト殿に口止めされていたゆえ。申し訳ござらん」

「それはいいんだ。俺も聞こうとは思ってなかったし、自分で知りたかった。でも、どおりでミナトが強いわけだと思った」

「サツキ殿は、ミナト殿の異名はご存知でござろうか」

「いや」

「『神速の剣』、あるいは『天才的剣法家』。そう呼ばれるのも、魔法もありながら、剣の実力もあるゆえかと」

「そうか。すごいな」


 しかし、とフウサイは言いかけてやめる。


 ――しかし、ミナト殿はサツキ殿を評価している。サツキ殿の未来に思いを馳せること、ただの友には持ち得ぬもの。


 サツキは、足を止めた。

 目当ての恐竜を見つけたのである。

 声をひそめて呼びかける。


「いたぞ。フウサイ」

「恐竜ではないのでござろうか」

「どうだろうか。グリプトドンに似てる。この島に来て見かけたカメよりも、グリプトドンっぽい」

「グリプトドンでござるか」

「グリプトドンは、カメというよりアルマジロに近いと言われているんだ。カメみたいに手足を引っ込めて身を守ったり、アルマジロみたいに丸くなるらしい。あ、草を食べてるぞ」

「草食でござるな」

「前にテレビで見たんだ」

「テレビとは、映像を投影する機械の」


 フウサイは常にサツキの影にいる。つまり、サツキからほとんど片時も離れない。離れたように見えるときも、大抵は影分身が別の場所へ行くだけで、例外はサツキが修業中かつフウサイも個別に修業をする際、フウサイの睡眠時などに限られる。だから、サツキの世界の知識も割合知っているのだ。


「うむ。それによると、グリプトドンの歯は植物を食べるのに適した平らな形状になっているらしい」

「平らだと、適しているのでござるか」

「すりつぶすのに便利なんだ。つまり、植物がよく茂った場所に生息していたことになる。しかし、化石が発見されたあたりは砂漠になっていた」

「それすなわち、環境の変化」

「ということになる。おもしろいよな。生物を調べることで、昔はその場所がどうなっていたかを知ることもできる。地質調査でもそれが正しいと証明されたんだぞ。逆に、環境を調べることで、そこに生息していた生物を知ることもできるんだ。たとえば、あの岩肌の傷」


 とサツキが指差す。

 高さ四メートルくらいの岩肌である。


「あの高さに届く大きさの生物がいることを示している。さらに、研磨されている様子から、身体をこすりつける習性がある生物であることもわかる。爬虫類の肌質ではない。壁にこすりつけることで、ノミやダニを取りたいような体表。であれば、その大きさだとマンモスかメガテリウムがいたことになる。みたいな具合だ」

「事実、このあたりにマンモスはいるようでござる」


 フウサイが影分身で周囲を偵察して、マンモスを確認したらしい。

 茂みと草原が合わさったような地形だから、いろんな生物がいる可能性もあったが、この恐竜の島にはマンモスまでいるとわかり、サツキは興味を持った。


「不思議だな。本当にいるのか」

「間違いなく」

「やはり、ここは古代の実験施設だったのかもしれないな。火山帯や草原地帯、ジャングル地帯など、地質もまるで違う場所が集まりあっていて、妙に不自然な気がするんだ」

「確かに」

「まあ、この件をつなげる仮説は、海老川博士と先生の地質研究の結果によって、みんなに話そうと思う」

「その仮説では、恐竜などの古代生物の存在があってもおかしくないと言えるのでござるか」

「おそらくな。だが、そもそも、生物を人工的に生み出すことだけで言えば、科学が進めば絶滅種もその生物の細胞から再現できるかもしれないんだ」

「そんなことが可能とは」

「細胞のデータ、つまりDNAと呼ばれるものの復元限界は、俺の知っているところでは500万年以上。確か600何十万年で完全に分解される。だが、科学がそれ以上に進化したなら、あらゆる生物がここに集えるんだから」


 サツキのおかしな知識に、フウサイはいつも楽しませてもらっている。忍者として生きてきて、そのための修業しかしてこなかったフウサイにとって、サツキの話は新鮮で興味深い。

 だが、やはりフウサイからしてみれば、この主人の側に控えるとき、研究熱心な幼き主を見守る執事のような気持ちに近いであろう。

 少し離れた場所からグリプトドンのような生物を観察して、そのあと目当ての恐竜も観察したら、ミナトと約束した場所へと移動した。


「たまにはいっしょに散歩もいいな」

「ありがたき幸せでござる」

「また散歩しよう」

「はっ」


 主従水入らずの散歩を終え、ミナトと合流すると、サツキはクコやアキとエミたちがいる場所へと戻った。

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