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40 『戦争解釈あるいは科学の進歩』

 サツキはクコを見て笑顔が移る。だが、玄内に心の底を見透かされたように聞かれる。


「どうした?」

「いえ」


 かぶりを振る。

 バンジョーやクコやヒナが科学について話す中、サツキは考える。

 科学はどうしたってこの世界でもいずれは発展してゆく。

 クコは前向きだが、科学技術の進歩は争いも生む諸刃の剣だ。

 サツキにはこれからのこの世界への不安もあった。


 ――前に話したように、蒸気船や軍艦が行動範囲を飛躍的に広げる。それによって、各地で領土争いが起こる。


 領土には、海も含まれる。つまり領海である。


 ――海上も抑えれば、漁獲量も増やせて自国の民を富ませることができる。国同士でそうした場所の奪い合いが起こるのは必至だ。


 そういえば、サツキは前に見た映像作品にこんな話をするものを見た。


『戦争なんて無益だ』


 だれかがそう叫んで、争いを止めようとしていた。


 ――そんな馬鹿な話はない。戦争が無益なものか。戦争で勝てば、領土を得られる。海も得られる。日本だっていくつもの領土問題を持っているが、それだけ重要なものなのだ。


 ばかりではない。


 ――戦争に勝てば、そのマンパワーも戦勝国のものになるのだ。技術までもが戦勝国のものになる。


 例えば、工場。


 ――かつて戦争に負けた日本では、戦勝国が日本の航空機メーカーに工場を明け渡すよう命じた。戦勝国軍の車両の修理に必要だったからだ。


 とある工場では、勤めている数万の人間がやめることになり、残った千人強の人間が戦勝国に依頼された仕事をすることになったそうだ。また、この工場では軍用機の製造を禁止されていた。抗戦させないためにはよくある手段である。

 日本は高い技術力を持っていたといわれている。


 ――日本の軍事機は戦勝国に輸送されて使われたというし、物資も戦勝国のものになろう。世界に戦争をしたがる国が尽きないのも当然ではないだろうか。


 戦勝国の一部の人間が、戦争は無益なものだと創作物で描くなどして、イメージを植え付けることはよくある。そうすると、いくつかの効果が生まれる。まず、戦争を仕掛けた国が悪いのは当然ながら、仕向けた側の国が仕方なく応戦する形に見えるし、その際の戦勝国は自らの利益のための戦いをしたようには見えにくくなる。次に、一度戦勝国と敗戦国の構図ができたあと、そうしたイメージ戦略を敗戦国側に広げると、戦争をしても犠牲を出すだけで無意味だし戦争はやめようと無条件降伏をさせやすくなる。あるいは、降伏ではなくとも、強力な軍事力によって一方的な条約を作りやすくなる。戦争を避けられるなら、と平和のためだし仕方ないと思考するようになる。

 戦争が無益だとする意見は、必ずしも平和につながるとは限らないのである。

 なにより、サツキが例の『戦争なんて無益だ』という言葉に反問したくなったのは、こうした戦争による効果を計算したらこの言葉は間違っているじゃないかと結論づけたかったからではない。


 ――無益なのは、戦争そのものではない。憎しみ合うことこそが無益で、むなしいことなのだ。罪を憎んで人を憎まず、という言葉と同じく、憎むのは戦争そのものだけで充分だ。


 あまねく時空を貫くおそらくほとんどすべての人類の願いは平和ではないか、とサツキは思う。


 ――だからこそ、戦争にならないよう、国家間の交流をよりよいものにして、さらには牽制し合い、平和のために努める必要があると俺は思ったものだ。


 サツキの言葉をわかりやすくすれば、みんなで仲良くするということだ。

 しかしながら、世界では、常に一部の権力者が戦争をしたがっている。それほどに戦争は戦勝国に莫大な利益を生むからである。それによる自国の負傷者が出ても、指導者が兵ひとりひとりにまで慈悲をかけるかわからない。それよりも、人によれど指導者ならば自国の巨利を求めて戦争したがる者もあるだろう。たとえ国民が望まずとも。あるいは、自身の富と名声だけのために戦争を企て、一般大衆を苦しめる者さえある。


 ――ブロッキニオ大臣も我々との戦争を望んでいる可能性も高い。そうなれば、規模も大きくしたがるだろうか。いずれにしても、軍事に頼らぬ革命はない。ブロッキニオ大臣のしたがる革命との戦いに、軍事力は必須だ。俺はどんな戦いを繰り広げるのがよいか……。


 などと考え始めたところで。

 リラが聞いた。


「サツキ様の世界には、どんな科学技術がありましたか?」


 我に返ってサツキが答える。


「いろいろあった。生活を豊かにするものも、戦争のためのものも。一口には言えないな」

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