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33 『羽化あるいはミナトの魔法』

 この場に残ったのは、サツキと玄内のほかには、フウサイと海老川博士しかいない。

 サツキは切り出した。


「さっきは、どうしてミナトに魔法を与えたんですか?」

「知れたこと。強くするためだ。ミナトは、あと二回、羽化する必要がある」


 玄内は即答した。


「羽化、ですか」

「ああ。あいつは、すでにかなり強い。それはいつも共に修業しているおまえならよくわかってるはずだ」

「はい。それどころか、俺はミナトの魔法を見たこともありません」

「使う必要すらない相手としか、おまえの前では戦ってないからな」

「先生は知ってたんですね」

「まあな。フウサイとたまに修業するときには使うし、見たことはある。おれに見られたことをミナトが気づいていたかはわからんが」


 そこで、バンジョーがお茶を持って来た。


「先生、海老川博士、どうぞ。サツキも。ついでにフウサイもな」


「ありがとう」とサツキはお礼を述べた。

 四人分のお茶を並べて、バンジョーはまた台所に下がる。

 玄内は湯飲みに口をつけ、それから言った。


「さっきの話に戻すと。ミナトは強いが、あのままじゃ足りないんだ」

「そうでしょうか」

「ミナトの全力ってのは、正直おれにもわからねえ。だが、おれたち士衛組が最後に戦うのは、アルブレア王国騎士の頂上にいるやつらだ。特に、世界最強の『(よん)(しょう)』の一角、グランフォード総騎士団長は避けられない。戦うのは十中八九、ミナトになる。そして、今のミナトはグランフォード以上じゃない。少なくとも、あと二回の羽化は必要だとおれはにらんでいる」

「そうですね。俺はミナトをグランフォード総騎士団長と戦わせようとしています。ミナト自身、それを目標に海に出たと言っていましたから。ただ……『四将』の強さは想像もできませんが、ミナトが今のままでも力不足だとは思いません」

「いずれ、ミナトの強さもわかる。そのとき力が足りないでは済まない。だから、今のうちから強化する。魔法をかけ合わせて使うことにも慣れさせる。おれからあいつに教えられることはないが、強くさせる土台をつくることはしてやれるからな」

「土台……。じゃあ、二回の羽化では……」

「ああ。どちらも魔法をやる予定だ。今回のは、その一回目になる。たった一度だけでも、あいつに与えられた伸びしろはとてつもないものになったはずだ。あいつはそれに、すぐ気づいた」

「では、使いこなすだけですね」

「あれで剣術を磨くことを忘れるタマじゃない」


 そう言ってから、玄内は考える。


 ――いつも、ミナトは下から突き上げるように成長するサツキに、脅威を覚えていた。サツキは自分の成長を実感しながらもミナトに追いつこうとしている。だが、それだけじゃあダメだ。ミナトも大幅に成長することで、サツキの闘志をかき立てないといけない。


 そうした計算の元、玄内はサツキもいる前で、ミナトに魔法を与えてパワーアップさせた。


 ――サツキは、ガンダスあたりから急成長して、いずれ近いうちにもミナトに追いつけるんじゃないかって思い上がっておかしくなかったからな。まあ、それで修業の手を抜くほどぼんやりしてもなかったが。


 玄内は言った。


「サツキ、ミナトの魔法が気になるか?」

「はい」

「さらに、どんな魔法をもらったのか。その二つの魔法について、おれからは教えねえ。自分の目で見ろ。成長して、強くなって、使わせてみろ」

「はい」


 力強いサツキの返事を聞き、玄内は満足した。


 ――よし。この分なら、サツキはもっと成長できる。強くなれよ、サツキ。剣でミナトに追いつくには一生かかっても無理かもしれねえが、ここはなんでもアリな魔法文明の世の中だぜ。


 玄内の見立てでは、早ければあと二ヶ月。それで、一度くらいはミナトに《(しゅん)(かん)()(どう)》を使わせることができるだろうと思っていた。いずれにしても、アルブレア王国到着後の予想である。

 しかし、サツキがミナトに魔法を使わせるのは、もう少しだけ早い。しかも、そのきっかけも、玄内の予想とは異なるものになる。

 ミナトの魔法《(しゅん)(かん)()(どう)》の秘密と、玄内が新たに与えた魔法の互換性の仕掛けについても、その種が明かされるのは……。

 むろん、今のサツキはそれを知るはずもない。

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