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21 『読みあるいは予感』

 ――今、アルブレア王国は乱れている。ゆえに、二年から三年以内には、新しい国家になると予想した。そこに関わり、アルブレア王国と密接な関係を作りたい。そのための貿易の窓口を持っておきたかったから、『世界の窓口』(うら)(はま)()()(がわ)氏からもらった。


 それが、オウシの読みだった。


 ――が……。


 オウシは、まったく予想外なパズルのピースを見つけて、心躍っていた。将棋やチェスの盤面に、不思議な動きをする知らない駒を発見した喜びに近いだろうか。サツキを見つめる瞳は強く輝く。


 ――お主は、何者じゃ。なぜ《()(どう)》を感じる。


 シンパシーなんてものじゃなく、魂がバチッと引き合った感覚がする。それはサツキもオウシ相手に感じたものだが、この『波動使い』には《波動》が響き合っているとわかる。


 ――アルブレア王国の王女姉妹が組織を作り、正義の味方をしているのも、国を支配しているブロッキニオ大臣から政権を取り戻すためとみた。そこまではいい。


 そこまではこれまでの状況から洞察できていた。


 ――それだけで、革命の予感が的中したとわかる。が……サツキ、お主を見てわしは予想を変えるぞ。一年短くなった。アルブレア王国は、一年……早ければ一年以内じゃ。ふ。一年もかかるまい。


 そこまでの計算を弾き出して、オウシはニヤリと笑った。


「トウリめ。妙な偶然を作ってくれた。感謝するぞ」

「……?」


 サツキはその意味がわからない。

 実は、オウシとトウリは、これから二年から三年以内に大きな革命がアルブレア王国の地で起こると予想していた。だが、よほどの役者がそろわねばそれくらいはゆうにかかろうといったものであり、その「よほどの役者」がこの船で見えるだけで二人もいれば、一年以内に革命を達成するのは夢ではない。むしろ、当然の帰結というものだ。

 そのもう一人は亀の姿をしているが、オウシにはただ者ではないとわかる。

 オウシはまだ気づいていないが、しかもこの船にはまだかなりの役者が乗っている。このあとそれが天から降ってきて、初めて気づくことになる。

 クコはサツキとオウシの会話が途切れたのを見計らい、改めて挨拶した。


「士衛組としては、まだ名乗っていませんでしたね。わたくしは副長をしています。(あお)()()()です」

「士衛組総長、(たから)()()()です」

「わたくしリラは、士衛組参番隊隊長を務めています。参番隊はこちらです」


 ルカが名乗ったあと、リラに促されて、参番隊の二人が挨拶する。


「お、(おと)()(なずな)……です」

()()(かわ)()(なみ)です」


 ヒナがチナミの横に並んで、


「あたしは(うき)(はし)()()。弐番隊です。隊長はこちら」


 パッと手を広げて玄内を盛り立てるようにした。


「おれは(げん)(ない)。弐番隊隊長をしてる。まあ、こいつらの監督みたいなもんだと思ってくれ」


 これで、ここにいる士衛組の面々の挨拶は終わった。

 いなかったのは、ミナトとバンジョー、そしてフウサイである。ミナトは見張り台にのぼって昼寝中、バンジョーは調理場にいて、フウサイは謎の青年が空から飛んで来るとわかるや姿を隠していた。なにかあったときに影で動けるよう、どこかに忍んでいるのだ。

 また、海老川博士(えびかわはかせ)は操舵室にいるため居合わせていない。


「え!? 空耳じゃないよね?」

「カ、カメがしゃべった……」

「う、うそ……」


 スモモとミツキとヤエは驚き、チカマルは動じることなくにこりと微笑むのみであり、オウシは歯牙にもかけなかった。


「いい声じゃ」


 と音楽でも鑑賞するように目を閉じて、玄内の渋みのある声に聞き入っているくらいである。

 ヒサシはやたらうれしそうに歩み寄り、握手を求めた。


「やあ、うれしいな。あの『(ばん)(のう)(てん)(さい)』玄内さんにお目にかかれるとはね。よろしくお願いします」

「趣味人同士、おまえさんとは気が合うとは思ってたぜ」


 と、玄内は握手に応じた。

 ミツキは『万能の天才』の名を聞き、


 ――なるほど。近頃『万能の天才』は姿を見せないと聞いたが、まさか亀の姿に化けていたとは。


 と納得する。

 一軍艦の面々も、『万能の天才』の名前にようやく玄内を理解した。『万能の天才』は晴和王国では知らぬ者はない有名人でありながら、その姿を知る者はほとんどいないという、都市伝説じみた存在なのである。王都では、王都の平和を守る『(おう)()()()()(てん)(のう)』の一角『(おう)()(しゅ)()(しん)』としても知られ、『(おう)()(うら)(ばん)(にん)』であるトウリと並び謎多き人物だった。

 他にも、ミツキは「(おと)()」の名前も引っかかる。


 ――気になるのは、もう一人……音葉薺。彼女はあの元将軍家の音葉の子か。


 裏で『(おう)()()()()(てん)(のう)』を束ねるのが、『(まぼろし)(しょう)(ぐん)(おと)()(かえで)。もし幕府が続いていれば、音葉家十六代目将軍になっていた人物であり、今でも能吏として宮中に仕えている。

 今ここにいる中で有名なのは、王女姉妹を除けばこの二人であろう。

 メガネの下から士衛組一同を改めて見て、局長サツキに言った。


「それにしても。士衛組。噂には聞いています。ご活躍だそうですね。世間では、悪党をやっつける正義の味方、ともっぱらの噂です。まさかこんなところでお会いできるとは」


 これまで、ソクラナ共和国の首都『(せん)(いち)()(もの)(がたり)(でん)(しょう)する(まち)』バミアドで、士衛組は初めて世間に名乗りを上げた。あそこは『(たい)(りく)()()()』でもあるから、噂は広まりやすい。それ以降も、街を移動するたびに悪事を働く者たちを捕縛し、場合によっては小さな親切もして、地道な活動をしていた。

 サツキは気になって問うた。


「悪い噂は聞きませんか」


 間者(スパイ)だったケイトが、士衛組に斬られた。それを利用し、士衛組の名をとぼしめるために大臣たちがなにか手を打っていてもおかしくはない。サツキ自身はまだそういった噂を耳にしたことはなかったから聞いた次第である。

 果たして、ミツキはメガネを中指で押さえつつ答えた。


「いいえ。ただ、正確には出始めている、といったところでしょうか」

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