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7 『魔法の絨毯あるいは空の旅』

 突拍子もないような魔法の効果によって二人がやってきたことなど知らないサツキは、追求もしなかった。

 そのあと、アキとエミの二人はたくさん写真を撮り、みんなで記念撮影までして、神殿を出ることにした。

 アキがエミに笑いかける。


「エミ、今度はなにが出るかな?」

「またトロッコだと楽しいんだけどね!」

()()()城下町以来だったもんなあ」

「ねー」


 クコは「トロッコ?」と小首をかしげるが、サツキには記憶がつながる部分があった。


 ――そうだ。田留木城下町に行ったとき、アキさんとエミさんは馬車も使ってない上に寄り道までしてたのに、やけに到着が早いと思っていたんだ。それは、こういうことだったのか。


 つまり、あのときも《(うち)()()(づち)》によってなにか移動手段を出現させた。それがトロッコだったのだ。


 ――待てよ……。ガンダス共和国ラナージャに到着する三日前、船が白鯨(アルビノクジラ)の潮に吹き上げられたとき、船はバルーンをつけて大量のプロペラも装着され、空を飛んで難を逃れた。てっきり先生が助けてくれたのだと思っていたけど、先生は「礼ならアキとエミ(あいつら)に言え」ってはぐらかしたんだ。それも、小槌の力だったのか。


 そんなことなどお構いなしに、エミは《打出ノ小槌》を振った。


「なんか出てこーい、そーれっ」


 ぽん、と地面に絨毯が現れた。


 ――小槌には魔法道具を出す効果がある。それは、(りゅう)(せい)(きょう)(にじ)(きり)(たき)で知った。《(からす)(かがみ)》というアイテムをくれたおかげでクコに会えた。一度使ったらなくなってしまったけど、他にも様々なアイテムを出現させられるんだ。


 やっと点と点がつながった思いのサツキに対して、リラは絨毯よりもエミの《打出ノ小槌》に驚いていた。


 ――やっぱり、スティスちゃんとの戦いで宝箱を出した効果といい、同じ物としか思えないわ。


「エミさん。これ」


 いそいそと、リラは《取り出す絵本》から《打出ノ小槌》を取り出した。小槌を見比べて、エミはうれしそうに笑った。


「あはは。アタシのに似てる! おそろいだね!」

「わたくしのこれは、(せん)(しょう)(ほう)()さんという方にもらった魔法道具なのですが……」

「えぇ!? リラちゃん、仙晶さんのこと知ってるの?」

「へえ、顔が広いんだね!」


 エミとアキが感心するが、リラはそれどころじゃない。


「お顔が広いのはアキさんとエミさんです。友人の魔法から作った魔法道具だとおっしゃっていましたが、まさかそれがエミさんだったなんて」

「仙晶さんったら、アタシの魔法で道具作ったなー。あはは」

「なんでも作っちゃうんだから! あはははは」


 サツキはあごに手をやって考える。


「せんしょう……仙晶さん……あ! もしかして、この帽子をくれた仙晶さんが、その人なんですか?」


 帽子は、星降(ほしふり)(むら)でサツキが初めて会ったアキとエミにもらったものである。そのときにこんなことを言っていた。


「《()(どう)(ぼう)()()(ざくら)》って言って、魔法道具なんだ」

(せん)(しょう)さんがくれたんだよ」

「これが似合う人がいたらあげなさいって言われててさ。『ぼう』に関する八つの効果があるんだ」

「使って楽しいと思うし、じゃんじゃん使ってね!」


 これまで疑問だった仙晶という人物のことまでつながった。帽子をもらったときも、船の上でもその名前を聞いていた。そこにリラまで絡んでいたとは思わなかった。


「うん。《()(どう)(ぼう)()()(ざくら)》は仙晶さんが作ったの」

「サツキくんも知り合い?」


 とぼけたことを言うアキの問いかけには首を振り、サツキは言う。


「船の上でもその名前が出たので、覚えていただけです」

「けれど、だからさっきの戦いでリラが《打出ノ小槌》を振ったら宝箱が出たのね……」


 と、リラはさっきの戦いにおける疑問が一つ解決した思いだった。

 なるほどね、とルカもやっとリラの小槌の仕掛けがわかった。


「《打出ノ小槌》は、振ると大きくしたり、なにかいい物が出てきたりするんだよ。元の大きさにも戻せるし、小さくもできるの。物を出す場合はすぐに消えちゃうけどね」


 エミが効果の説明をしながらリラにウインクした。


「アタシたちは《打出ノ小槌》仲間だから、なにか知りたいことがあったらなんでも聞いてね」

「はい。ありがとうございます」


 リラとエミが微笑み合い、アキが絨毯の上に乗っかった。


「さあ、みんな。この《()(ほう)(じゅう)(たん)》は空を飛べるんだ。これで一気に外に出ようよ」




 その後、空を飛んで道を右へ左へ曲がって、外に出られる窓になった部分を見つける。アキとエミは絨毯になんの指示も出していないのに、勝手に道を選んで外まで連れて行ってくれたようだった。

 ピラミッドから外に飛び出すと、かなり高い位置にいたことがわかった。

 上から見おろすピラミッドは神秘と文明を感じられたし、『千の塔の都』ファラナベルの街を眺めれば人々の営みから息づく歴史と世界の広さ、ナルサ川の雄大さを思わされた。

 空の旅は一瞬で、ピラミッドの前に降り立つ。

 役目を終えた《魔法ノ絨毯》は消えてしまった。


「アキさん、エミさん。ありがとうございました」


 クコがお礼を述べ、サツキたちも続けて感謝を告げた。

 二人は腰に両手をやって、


「ボクたち、このあと向こうの遺跡にも行って写真を撮るからさ」

「ここでバイバイだね」

「また会おうよ!」

「ごきげんよーう!」


 陽気に別れの言葉を口にして、羽が生えたような軽やかさでどこかへ行ってしまった。


「また会えたのに、もう行ってしまいましたね」


 クコはそれほど残念そうでもなく、穏やかな声だった。きっとまた会える、とわかっているからだろう。


「うむ。もう少しいっしょにいたかったが」


 さみしくもあるが、サツキもクコと気持ちは同じだった。またすぐに巡り合う。


「彼らは不思議だね。だが。ワタシは、サツキくん――キミのことも不思議……いや、特別な存在だと思ってる。ワタシたちは今回、この国でサツキくんたちと一度別れることになる。だが、離れていても、いつでもキミたちに協力しよう」


 シャハルバードが力強く申し出てくれた。


「ありがとうございます!」


 クコが喜びの笑みと共に頭を下げ、サツキもお礼を述べた。


「すごく助かります。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします、シャハルバードさん」

「ああ。そして、士衛組の健闘を祈ってるよ」


 リラも、ガンダス共和国ラナージャから共に旅をした四人にお礼を言った。


「本当にありがとうございました。みなさんがいて、とても心強かったです。そして、楽しい旅になりました」

「アタシたちはどこにいたってリラの味方だからね」

「おいら、リラのこと応援してるよ!」

「シャハルバードさんはすごい人さ。そんなシャハルバードさんに認められたリラなら絶対に大丈夫だ」


 ナディラザード、アリ、クリフがそう言って、シャハルバードが手を差し伸べる。リラは握手した。


「ワタシたちはもう仲間だ。きっと、アルブレア王国まで会いに行く。キミたちの力になる。約束だ」

「はい。シャハルバードさん」


 こうして碑文を読み解いたサツキたちは、ピラミッドを出てアキとエミと別れ、『船乗り』シャハルバードたちとも別れて、メイルパルト王国の首都・ファラナベルを六人で旅立ったのだった。

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