6 『二人の珍客あるいは偶然の連続』
フウサイの警戒が解けたことで、サツキもその必要がないと悟った。
すると、とびっきり明るい声が静かな歴史的空間に響き渡った。
「やっとついたー!」
「とうちゃーく!」
聞き慣れた男女の声は、「ばんざーい!」と両手をあげて喜びを表す。サツキは予想外の珍客にすっかり心がほぐれていた。
「ばんざーい!」
「ばんざーい!」
「ばんざー……あれ?」
「ばんざー……うわぁ!」
二人は軽快な足取りで駆け寄ってきた。
「サツキくん! こんなところでなにやってんのさー?」
「クコちゃんってばシャハルバードさんといっしょかぁ! あ、リラちゃんもいるー! おーい!」
「アキさん! エミさん!」
クコが驚きの声を上げる。
まさか、こんな迷宮の奥にまでやってきたのが、この二人だと思わなかった。
明善朗と福寿笑。
サツキにとっては、この世界にやってきてクコ以外で初めてできた友だちである。クコに召喚された翌朝、星降ノ村で出会ってからというのも、何度も出会いと別れを繰り返し、何度も助けられた。最近会っていなかったら気になっていたのだ。
そんなアキとエミを知っていたのは、サツキとクコだけじゃない。リラもだった。だから、リラはクコとあの二人を見比べてしまう。
「お姉様、アキさんエミさんとお知り合いだったんですか?」
「はい! バンジョーさんと晴和王国へ向かう旅の中でお二人に出会い、ガンダス共和国のラナージャからは三人で船もいっしょに乗りました。晴和王国の浦浜で一度別れたんですが、そのあともサツキ様と出会った翌日には再会して、光北ノ宮や王都、田留木城下町、鳶隠ノ里、浦浜と何度も会って、ラナージャへの船もいっしょだったんですよ。それからはお会いしなかったので、ちょっとさみしかったんです」
二人の会話を聞き、アキとエミは笑っている。
「あはは。クコちゃんとリラちゃんが知り合いだったなんて、ボクらも驚いたよ」
「言ってくれたらよかったのにね! て、あれれ? 今、お姉様って言わなかった?」
「うん。言った気がする」
「まさか、それって」
クコはうなずいた。
「はい。わたしが探していた妹は、リラだったんです」
「えぇぇぇぇぇ!」
とアキとエミは大げさなほどにびっくり仰天していた。
リラはつい噴き出してしまう。
「ふふ。おもしろい偶然もあるものですね」
「はい。旅は偶然の連続なんですよ、リラ」
と、クコは楽しそうだった。
サツキは友との再会をうれしく思いながらも、気になったことを聞いた。
「お久しぶりです。俺たちは碑文を読むために来たんですが、お二人はなんのためにここまで?」
「そうそう。ボクらは写真を撮りに来たんだ」
「いっぱい撮ろうと思ってね」
「今朝はスラズ運河でいい朝日も撮れたし、気合入ってるんだよ」
「ね! アタシたち急いでここまで来たんだから!」
ルカは首をひねる。
「スラズ運河って、一日でも来られる距離だけれど、ちょっと遠くないですか? 朝日を見てからここまで来るのは難しいわ」
「送ってもらったんだ」
「ピラミッドの中は魔法道具でショートカットしちゃった」
えへ、とエミはさわやかにウインクしてみせる。
適当な説明に、サツキもつい笑ってしまう。
――この二人ならなんでもありに思えるから不思議だ。ワープできる魔法の使い手とかに送ってもらい、魔法道具もちょうどいいものがあったのかもな。
少し前。
アキとエミは、ピラミッドの入口にいた。
「ここからは迷宮なんだって。どうやって進む? アキ」
エミの問いにも、アキはからっと笑ってみせる。
「迷ったら《打出ノ小槌》を振るに限るよ」
「そうだね! そーれ、なんか出てこーい」
にこにことエミが《打出ノ小槌》を振る。
すると、トロッコが出てきた。二人は顔を見合わせて、ニッと笑う。そして、声をそろえて言った。
「ラドリフ神殿まで連れてって」
二人の声に反応し、トロッコの先に線路が引かれてゆく。
「行っくぞー!」
エミが意気込んで乗り込み、アキも飛び乗ってビシッと指差した。
「しゅっぱーつ!」




