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2 『船あるいは移動』

 一度崩壊した世界――

 そんな要領を得ないことを言われてもピンとこないバンジョーは首をかしげる。


「そうだぜサツキ。ミナトじゃねえけどよ、そんなこと言われたってだれもわかんねーって」


 (うき)(はし)()()は照れくさそうに腰に手を当てながら、


「ちょっとサツキ? そんなよくわかんないことより、向こうではどんな星を見たの? べっ、別に、最近あんたと星の話とかしてなかったし、聞いておこうかなーって思っただけよ。悪い?」

「悪くはありませんが、ヒナさん、その話はあとです」


 チナミは、淡々と幼なじみのヒナを制止し、再会したらすぐにでもサツキに見せたかった自作の数独パズルをそっと浴衣の中にしまい直す。将棋が好きなチナミに、サツキの世界には数独というものがあると教えてやると、チナミはそれを気に入り、サツキとチナミは互いに作っては交換して解く遊びをしているのだ。

 バンジョーが手を叩く。


「まっ、久しぶりなんだからよ、まずは飯にしねーか?」

「そうだな。詳しい話が聞きたい。海老川博士(えびかわはかせ)、場所を貸してもらえますか」


 (げん)(ない)に頼まれ、海老川博士はやわらかい笑顔で首肯した。


「ええ、構いませんよ。せっかくなら、もう私の船に乗って出発しましょう。そこでなら、だれにも聞かれることなく話せます。それに、今なら天気のいいうちに(しん)(りゅう)(じま)まで行けそうですからね」


 クコは疑問を持ったように目を丸くして、


「海老川博士は気象が予測できるのですか?」


 と聞いた。

 海老川博士はゆっくりかぶりを振る。


「人並みにしかわかりませんよ。ただ、私の魔法《動物ノ森(けものふれんず)》は、動物の言葉がわかるのです。人間の言葉で話しかけるだけで、動物と会話をすることだってできます。ここまで言えば、どういうことかわかりますかな」


 サツキは帽子のつばに手をやって、周囲をちらと見ながら言った。


「つまり、その魔法で、カモメたちが天気の話をしているのを聞いたんですね」

「ふふ。ええ、そういうことです」


 海老川博士は満足げに微笑んだ。

 この世界では、サツキの世界では空想のファンタジーのものだと思われていた魔法を使える人がいる。全員ではなく、人口の一割ほどらしいが、だれの身体にも魔力が流れており、自然に魔力の影響を受けて、通常より強い力を持ったりすることもあるという。

 サツキはこの世界に来てすぐ、クコに魔力を流し込んでもらい、クコの魔法で肉体の感覚を共有して魔法を使うイメージを追体験して、その後、独自の魔法を使えるようになった。

 ここにいる士衛組のメンバーも、料理人のバンジョー以外はそれぞれが独自の魔法を使うことできる。特に玄内はすごい。常人に扱えないほどの数の魔法を所有し、他人に与えることさえできる。サツキだって玄内にもらった魔法があるほどだった。バンジョーに与える魔法は考え中らしい。だが、サツキはミナトの魔法についてだけは知らなかった。ミナトの本気を引き出せるようになったとき、見せてもらえるのだろう。サツキがミナトの魔法について知るのは、あとほんの少しだけ先の話である。


「博士の魔法はすごいんだから」


 胸を張るヒナに、チナミがジト目を向ける。


「なんでヒナさんが得意そうなんですか」


 ドヤ顔をしながらヒナがやや顔を赤らめた。そんなヒナの反応は無視したように、バンジョーが愛馬・スペシャルの手綱を引きながら聞いた。


「海老川博士、馬車は船に載せても大丈夫っすか?」


 海老川博士はにこりとうなずく。


「あの馬車が乗る大きさはあります。馬車も乗せて、その後、神龍島からイストリア王国へ船で向かいましょう」

「オッケーっす! ありがとうございます!」


 ビシッと敬礼するバンジョー。

 荷物をまとめた一行は、馬車と共に船に乗り込んだ。

 船上で、


「それで、一度崩壊した世界ってのは、どういうことだ? 神殿にはなにがあった」


 玄内に問われ、バンジョーも続けて口を挟む。


「そうだぜ。例のマルコ騎士団長って人たちもどうなったんだ?」

「バンジョー、そこはどうでもいいでしょう?」


 ヒナにジト目を向けられるが、クコは穏やかに微笑み答えた。


「マルコ騎士団長、やっぱり本当はいい人たちだったんですよ。では、順番にお話ししましょう。マルコ騎士団長たちのこと、そして『(れき)()(ねむ)(めい)(きゅう)』ラドリフ神殿にたどり着いたあとのことを」

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