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43 『マルコと魔法のランプ』

 サツキは、騎士団長マルコの剣を見切った。

 魔力も練った。


 ――やるか。


 マルコの剣筋を見て、サツキは身体をひねった。

 剣を舞わせる。


「カウンター、《(たい)()(おう)(とう)》」


 ひらりとマルコの剣をよけ、ひねった身体の動きに合わせて遠心力も使い、火力を補う。


 ――今、もっとも効果的な部位は、右肩。


 緋色に染まった瞳、《()(いろ)()(がん)》は魔力の流れを視認できる。筋肉の動きや重心までもがわかる。マルコは今、全身を流れる魔力のうち、右肩の魔力が薄くなり、体重移動により筋肉が緩むのが読める。

 サツキの愛刀『桜丸』が、マルコの右肩に伸びた。


「ッ……! く」


 この瞬間のマルコにとって、絶妙な箇所へ剣が伸びてきており、ギリギリでもかわせるか怪しい。


 ――よけ……いや、無理だ。


 桜丸がマルコに届くというまさにその時、サツキは、


 ――勝った。


 と思った。

 が。

 それは突然来た。


 ――拳?


 拳が腹にめり込む感覚がしたかと思うと、


「くはっ!」


 後ろに吹っ飛ばされた。

 道幅を狭めるための柱に、背中を打ちつける。


「うっ!」


 鋭い痛みが腹にある。みぞおちは外れてくれた。


 ――なにが起きた……。


 拳の主は、マルコではなかった。なにかもっと別の、人間でさえない大きさの拳が、突如として現れた感じがしたのである。マルコを見ることに集中しすぎて、せっかくの《緋色ノ魔眼》もなにも捉えられなかった。

 やっとサツキは拳の正体を視認する。


「あれは……」


 人間ではないなにか。

 大きな拳を打ち込んできたなにか。

 それが何者なのか、魔眼は捉えた。魔力は見える。だが、人間の身体を流れるそれとは違う。魔力によって創られた存在だと、サツキにはわかる。

 なんと、赤い身体をした大男がいたのである。マルコの前に立ちはだかるようにして、いかめしい顔でサツキをにらみつける。通常の人間の二倍くらいの大きさで、よく見れば、足がなく、胴より下がマルコの持つランプから煙りのように伸びていた。アラビアンナイトの世界から飛び出してきたような恰好である。

 それはつまり……


「ランプの魔人、か」


 サツキのつぶやきを聞き取り、『ランプの(しゅ)(じん)』マルコは答えた。


「その通り。ワタシの魔法は、《()(ほう)のランプ》。こいつは『ランプの()(じん)』、またを『(ほのお)(せい)』である」

「オレはジン。主人がピンチだったから出て来たってわけだ」


 ジンは荒々しい凶暴な印象をサツキに与えた。厳つい顔には怒りだけが浮かんでいるようでいながら、それは気の短い性格でしかないようにも思われる。言葉の上からだけは主人マルコをどれほど慕っているのか判別がつかない。


「ジン。好きに暴れていいぞ」

「やっとか! やっとやれるか! 小僧、オレはこのときを待ってたんだ。やろうぜ!」


 注意深くサツキがジンとマルコを観察する中、この言葉にもどう答えるか考えている間に、ジンはこちらの返事を聞く前から攻撃してきた。

 身体がランプから伸びたまま、サツキに向かって飛んできた。


 ――まだなにも洞察できてないのに。なんて好戦的な魔人だ。


 サツキは《緋色ノ魔眼》でジンを見て、攻撃を捌く。


「オラ! オラ! オラ!」


 拳を振り抜き何度も殴ってくるのがジンの戦い方だろうか。サツキがそう思ったとき、ジンは急に手のひらの中に炎を生み出しそれをサツキに投げつけた。その動作がわずかコンマ五秒ほどのことだったから、サツキもよけられず、バサッとマントを広げて炎を払った。

 マントは焦げた。


 ――丈夫なマントでも、焦げてしまった。あの炎、かなりの高温だ。くらったら火傷で済むかどうか。


 サツキは飛び退いて距離を取り、ジンに声をかけた。


「『炎の精』というだけあり、炎を扱うのが得意なようだ」

「ハッ! 当たりめーよ! オレは炎を自在に操れる。こんなこともできるんだぜ!」


 と、ジンは炎を口から細く吐き出し、上空に渦を巻くようにして漂わせた。


「そして、こうだ!」


 ジンのかけ声と両手を上から下に振り下ろす動作に合わせ、上空の渦から炎が隕石のように細かく降ってくる。


「まるで話にならない」


 ついサツキもそう口をつく。


 ――ジンの弱点もまだ探れないが。敵を攻撃することしか考えていないからこその言動。ジンはかなり好戦的で、思考力は低い。ただ、マルコ騎士団長の思考力はそうではない。マルコ騎士団長への忠誠心がどれだけあるのかつかめない今、ジンを智略だけで倒せる相手とは思っちゃいけないな。


 サツキは一つ一つの炎をよけつつ刀で払って、なんとか無傷で凌いだ。

 ジンは満足げに笑った。


「グアハハ! やるじゃねえか小僧! 燃やし尽くしてやろうか?」


 戦うこと、相手を攻撃すること、それだけしか考えていないジンを無視して、サツキはジンの後ろのマルコに問うた。


「随分と勝手な魔人ですね。自分では制御できないのですか?」

「フン」


 マルコは鼻を鳴らし、冷静に切り返す。


「情報を引き出したいか。それとも、ワタシからジンに戦略が授けられることが怖いか」

「オイオイオイ! オレを無視するんじゃねーよ! テメーが今戦ってるのはオレだぞ小僧!」


 喚くジンを見て、


 ――本当に、戦うことしか考えてない。


 とサツキは呆れる。


「しかし、あの分だと戦略を授けてやれそうにないだろうな」


 マルコにしゃべりかけるでもなくそう言うと、ため息交じりに声が返ってきた。


「見ての通りさ。だが、ジンは戦略に頼らずとも無敵の強さを誇る」

「誇張に聞こえる」


 とだけサツキが口を挟むが、マルコは気にした様子もなく続ける。


「無敵の強さは、それでも完璧ではない。倒し方を明示してやろうか?」

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