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50 『物語に選ばれしタレント』

 (せい)()(おう)(こく)武賀(むが)(くに)

 鹿()()()(じょう)の一室で始まった、トウリとウメノとチカマルによるババ抜きだが、トウリは一足先にあがった。

 残るはチカマルとウメノ。

 トランプのババ抜きは、互いにあと一回そろえば終わるというところまできていた。

 ウメノが一生懸命にチカマルの手札を見比べ、選んでいる。

 チカマルは余裕の笑みで待っている。


「こっちです!」


 意を決して、ウメノが引いた。

 が。

 すぐにうなだれた。


「ババでしたー!」


 ふふ、とトウリは優しく見守る。


「一周して戻ってきてしまったね」

「はいー」


 がっかりするウメノだが、対戦相手のチカマルが励ます。


「まだわかりませんよ」

「そうですね!」


 今度はチカマルが、ウメノの表情も見ないように引く。


「あ」


 それでも、チカマルはジョーカーを引かなかった。


「あがり、です」

「負けましたー」


 トウリは二人に声をかける。


「お疲れさま。巡り巡ったお宝も、姫のところに戻ってきて終わったね」

「お宝? なんのお話ですか?」


 小首をかしげるウメノに、トウリは言った。


「いや、こっちの話さ」


 火ノ鳥、あるいはルフの柄を見つめ、トウリは言葉を重ねる。


「そういえば、メイルパルト王国のルフが死と再生の儀式――すなわち花祭りを行うのは、伝説通りならばそろそろだったね。五百年に一度の花祭り……どうなったんだろうか。見た人は、いるんだろうか。選ばれた人は……」




 晴和王国、天都(あまつ)(みや)

 王都の昼の華、歌舞伎の演目は劇場に詰めていた観客たちを強烈に引き込んだ。

 本来とは違う物語の筋に、歌舞伎好きのミオリは不安だった。本日の演目は、お約束とも呼べる形式に沿い、知っている物語の結末へと向かう手順と役者の演技を楽しむ場所だと思っていた。この席で、ミオリが見たのは初めての物語。

 しかし、終わってみると、不思議な感慨があった。


「これはこれでおもしろかったよ」

「だよねえ。つい見入っちゃった。ミオリも楽しめたならよかったあ」

「トリックスター役の役者が出られなかったから、急遽ああなったらしいね。きっと、他の役者もそろってたから物語は結末へとつながったんだと思う」

「確かにみんな熱演してて楽しかったよね」

「選ばれし役者たちの熱演があってこその舞台だった。次回は、トリックスターは登場するかな?」

「さあ。でも、出たらいいよね」


 そんな軽い調子のスモモの言葉に、ミオリは思わず笑ってしまった。


「頼もしいなァ、スモモは。それくらいじゃなきゃ、あの兄たちの元にはいられないもんね」

「なにそれ」


 外に出て、スモモは空を見上げる。


「やったぁ。もう雨も上がってる」

「そうだね。天気だって巡るものだ。スモモはこのあと、オウシさんのお迎えだったかな」


 スモモはミオリと別れる。


「うん。それじゃあまたね」

「ああ。また」


 劇場を出て、馬車を走らせてすぐ。

 スモモは、探していた二人を発見する。


「お兄ちゃん、ミツキくん。終わったんだね。こっちも今終わったところ」

「で、あるか」

「お迎え、ありがとうございます」


 兄オウシと参謀ミツキを拾って、スモモはまた馬車を走らせた。

 ふと、兄に問いかける。


「ねえ、トリックスターがいない物語ってどう思う?」


 唐突な問いに、オウシはりゃりゃと笑った。


「いつどこのどんな物語にも、大抵はトリックスターがいるものじゃ。しかし、時にはそれがないのも一興。それこそが意外性となることもあろう。それさえ楽しめたらよいではないか。本物のトリックスターならば、いずれは予想外の展開さえも盤外からひっくり返す。それがジョーカーの役目じゃ」

「なるほど。かもねえ」


 妙に納得して、『運び屋』は馬車を走らせ武賀ノ国へと帰るのだった。

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