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27 『ジョーカーの有無』

 (せい)()(おう)(こく)武賀(むが)(くに)

 鹿()()()(じょう)の一室で、ババ抜きをする三人。

 トウリとウメノとチカマル。

 ババはウメノの手元にない。

 だからこそ、ウメノは難しい顔をしていた。


「トウリさまとチカマルさまは表情が変わらないから、どちらにババがあるかわかりません」

「表面だけ見ていてもわからないものだよ」


 と、トウリが言う。


「裏面が火ノ鳥の柄です。裏面のほうがなにもわかりませんよ?」


 不思議そうに言うウメノに、トウリはくすりと笑った。


「物事の話さ。物事は表裏一体なものでね、先日の王都の物語も、(うら)(はま)も、はたまたリラさんの西(さい)(ゆう)(たん)も、先日おれと姫で剣士探しをした星降(ほしふり)ノ村も、もしかしたら今も」

「今も?」

「無数のルートを束ねる物語になっている。かもしれない」


 ずこっとウメノはこけて、


「かもですか」


 とちょっとがっかりしたようにつぶやく。


「きっと、かもではありませんよ。どんな時も、すべての人が物語を紡いでいる一人なのでしょう」


 チカマルはにこりと微笑み、ウメノにカードの裏面を見せる。火ノ鳥の柄が見える。


「どうぞ」

「はい。どれにしましょう。ジョーカーはあるのでしょうか……」


 ウメノは一生懸命に選ぶ。




 晴和王国、天都(あまつ)(みや)

 別名を王都と呼ばれるこの街では、昼の華として歌舞伎は大人気だった。

 劇場は満席。

 スモモとミオリは、真ん中よりやや後ろの席に着いていた。

 歌舞伎が始まる前にはお笑いとして落語かはたまた講談などもあり、この日は講談だった。スモモはそれも楽しんだが、ミオリはずっとニヤニヤしてうれしそうだった。


 ――ミオリはお約束が好きなんだよね。お笑いの定形に沿って、ここで笑えるってのを楽しみにニヤニヤする、みたいな。


 だから大声で笑うよりもニヤニヤしていることが多い。

 ミオリはスモモに顔を向けて、


「おもしろかったね」

「ね。わたし普段お笑いなんて見ないけど、おもしろいもんはおもしろいよね」

「その割にスモモはお笑いをわかってるなァ」

「まあ、お兄ちゃんがお笑い好きだからね。オウシくんはうらやましそうにしてたよ。トウリくんもお笑いだけ見たいとか言ってたし」

「さすがはスモモの兄だ。三人ギャグセンは違うのに、妙にツボを突くんだよなァ」

「あ、ミオリ。歌舞伎が始まるよ」

「今日のお話は、恋アリ笑いアリの物語だ」


 へえ、とスモモは上がってゆく幕と始まる物語に胸をふくらませる。

 見ていて、笑いはほとんどないが、おもしろい。


「気になるストーリー、ハラハラする展開。なんかシリアス系だね」


 隣のミオリにさっとささやくが、言葉が返ってこない。顔を向けてみて、ミオリの顔に困惑の色が混じっているのに気づいた。


「どうしたの? ミオリ」

「……いや。違うんだ。本当は、こんな物語じゃない。本来の筋とは違う物語へと進行している」

「違う物語?」

「うん。ジョーカーの存在……すなわち、トリックスターがいない物語さ」


 しかし、めまぐるしい展開でシリアスに引き込む物語に、スモモとミオリは目を離せなかった。

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